2人きりの一日
エルヴィン殿下が、リオと2人で遊びたいとの連絡が王宮にあった。
エルヴィン殿下は、自分と境遇がよく似ているリオをとてもよく可愛がってくれる。
リオもエルヴィン殿下のことが大好きだ。
リオは楽しみ!!と嬉しそうにポアロさんと2人でエルヴィン殿下の元へ向かった。
リオを見送った後、部屋には静かな空気が戻った。
レビリアはふと我に返る。
(待って…!今日は一日、セピア様と二人っきり…?)
記憶を失っていたときのセピアは、どこか子供っぽく、何もかも安心できる存在だった。だが今のセピアは、しっかり者で、頭脳明晰で、でも優しくて…その全てが美しくて強い。
レビリアの胸は自然と高鳴る。ふと顔を上げると、翡翠色の瞳が自分をじっと見つめていた。
「ねぇ、レビリア。僕たち二人っきりだね…」
「そ、そうですわね…」
セピアは小さく微笑むと、手招きをしてレビリアを自分の膝の上に座らせる。
「この体勢…さすがに恥ずかしいですわ…」
「そう?この体勢なら、すぐに抱きしめられるんだ。こうやって…」
背後からギュッと抱きしめられ、レビリアの頬にセピアの吐息がかかる。
「何を読んでるの?」
「政治に関する本です…」
「どうして?」
「それは…もちろん、第三王妃候補としてセピア様にふさわしい淑女になるためです…」
レビリアは少し照れくさそうに微笑む。
「それはありがとう…。だけど、君はそのままでも十分過ぎるほど僕に相応しいと思うよ?なんなら僕の方が君にふさわしい男になるために努力しなくちゃ、と思ってる」
「そ、そんな!セピア様はそのままでも素敵です…。ど、どんなセピア様も私は好きです…」
頬を赤くして言うレビリアを、セピアは柔らかく笑いながら見つめる。
「ふふ。レビリア、顔が赤いよ?かわいい」
「もう、言わないでください」
レビリアが本に視線を戻そうとすると、セピアが顎を持ち上げ、優しく顔を覗き込む。
「本を見ないで、僕を見て?二人きりになれる機会なんて、そうそうないんだから…」
そしてセピアはそっとレビリアの肩に頭を埋める。
「今日ぐらいは、アホだった頃の僕に戻ってもいい?やっぱり王宮だと、完璧な第三王子を求められる。だけど本当は、君にずっと甘えたいんだ…」
レビリアは静かにセピアの頭を撫でる。
「セピア様…。私でよければ、存分に甘えてくださいな…」
「ふふ。もっと撫でて…」
昼間の庭の静寂の中、二人はただ互いの温もりを感じ合いながら、時間を忘れて過ごした。
***
王宮の夜ー。
ソファに座り、レビリアはリオのほつれた服を整えていると、隣にセピアが静かに座り、そっと彼女を抱き寄せた。
その様子はいつもと少し違い、どこか不安げだった。
「どうかされたのです?」
「いや…君のドレスから見える包帯が痛々しいなと思って…」
「大丈夫ですわ!お医者様も、もう動いて大丈夫って言ってくださいましたし」
セピアは深いため息をつく。
「はぁ…。やっぱり僕がした決断は良くなかった。君に全てを隠して、結果として君を危険に晒してしまった。本当にごめんね…」
「セピア様…」
レビリアはそっと俯く彼の頰を両手で包む。
「そんなに自分を責めないでください、セピア様。セピア様は悪くありませんわ。貴方を守りたいと思った私がした行動で怪我をしただけです。私にとって何よりも貴方とリオが大切なの。貴方が無事で生きていてくれたらそれで十分です」
「レビリア…」
セピアの瞳が切なさに濡れる。
「だけど、君が怪我をして意識を失っていた時、僕は本当に怖かった。君を失うんじゃないかと…。僕は君がいないと生きていけない。みんなは僕は王子だから守られるのが当たり前っていうけど、僕だって君を守りたい。君を危険に晒したくない。いつだってそばにいて、抱きしめたい」
その言葉と共に、セピアはレビリアをぎゅっと抱きしめる。
「ふふ、セピア様、ありがとうございます。私もセピア様とリオがいるから生きていられるのですもの。二人が私の生きがいです」
静かな夜に、二人の距離はさらに近づく。セピアの唇がレビリアの唇に触れる。最初はそっと触れるだけのキスだったが、徐々に深くなり、互いの息が混ざる。舌が絡み、何度も啄むようなキスを重ねていく。キスは次第に首筋へと降り、レビリアの頬を熱く染めた。
「セピア様、流石に…待ってください…まだお風呂にも入っていませんし、汗もかいています…」
「どんな君だって綺麗だ。お風呂も後で2人で入ろう。」
セピアはレビリアのドレスの紐に手を伸ばし、そっと脱がせ、彼女はネグリジェ一枚の姿になる。
「そんなに見ないでください…恥ずかしいです。私の身体には傷跡も多くて…」
「そんなことない。傷跡だって僕やリオを守った証だ。称賛されることはあっても貶されることなんて絶対にない」
レビリアは小さく目を伏せる。
「でも、女の身体に傷があったら嫌でしょう?」
「嫌じゃない。どの傷だって君の一部で、僕にとっては愛おしい」
セピアは包帯の巻かれた肩にそっとキスを落とす。その指先の温かさは、華奢なレビリアの身体に守られ続けた自分自身の無力さを思い出させ、胸を締め付ける。
セピアの手がゆっくりとレビリアの身体を抱きしめる。
「ごめん。怪我をしているから我慢しようと思ったんだけど、やっぱり無理そうだ…。君を抱いてもいい?」
「や…優しくしてください…」
「もちろん。君に痛い思いはもうさせない」
月明かりが差し込む静かな寝室で、セピアはそっとレビリアを抱きしめながら、自分の胸に彼女を押し当てた。柔らかな体温が互いに伝わり、鼓動が重なり合う。レビリアの小さな息遣い、体の震えさえも、セピアの胸に深く刻まれる。
「…こうしていられるだけで…僕は幸せだ…」
セピアの言葉に、レビリアは小さくうなずき、顔を胸に埋める。
「私も…セピア様と一緒にいられるだけで…幸せです…」
ゆっくりと手がレビリアの背中を撫で、包帯に覆われた肩に優しく触れる。傷の痛みを気にするレビリアに、セピアは唇を落とす。熱く、深く、そして優しいキスは、傷を覆い隠すように、二人をひとつにする。
「セピア様…私、もっと…」
「僕もだ…レビリア…僕はずっと君を…守りたい」
互いの吐息が重なり、体温が溶け合う。セピアの手はそっとレビリアの腰に回り、抱きしめる力を少しずつ強めていく。レビリアもまた、セピアの背中を抱き返し、指先で髪を撫でながら、互いの存在を確かめ合った。
「ん…もっと…近くに…」
「わかった…ずっと離さない…」
夜の静けさの中、二人は互いの温もりを感じながら、何度も唇を重ねる。首筋、肩、耳元。セピアの唇は優しく、しかし情熱的に、愛おしさを伝えるように滑る。レビリアの小さな吐息や甘い声が、部屋に柔らかく響いた。
「…セピア様…もう…離さないでください…」
「離すわけないだろ…僕の全部は君のためにあるんだから…」
抱き合う体の温もりが、二人の心を溶かす。セピアは優しくレビリアを横に倒し、包み込むように体を重ねる。傷跡や痛みも、互いの愛で包み込まれるようだった。レビリアの手も、セピアの首や背中に絡みつき、全身で愛情を伝え合う。
夜が更けるごとに、二人の距離はさらに縮まり、体も心も完全に溶け合った。抱き合うことで、互いの心の奥底まで届き、忘れられない夜として二人の記憶に刻まれる。
月は静かに見守り、寝室には二人だけの温もりと吐息が、永遠に続くかのように満ちていった。




