毎晩、王子がベッドにいる件について
─夜。
夕食の片付けもようやく終わり、私は一人で台所に立っていた。
「……はぁ、やっぱり人手が少なすぎるわね」
山盛りの食器を拭き終えたところで、小さな足音が廊下から近づいてくる。
「おねえちゃん、まだ寝ないの?」
振り返れば、そこにはパジャマ姿のリオが立っていた。
くしゃっとした前髪、うるんだ瞳、そして不安げな声。
「もう少しで寝るわ。……どうしたの?」
「うん……。ぼく、誰かがいないと……さみしくて、寝れないの」
……か、か、可愛い!!!天使ーーーーーー!!
やばい。心臓が限界突破しそう。
「そう……じゃあ、一緒に寝ましょうか?」
「ほんと!? わーい!!」
ぱぁっと笑顔を咲かせたリオは、手をつないでくる。
ふにっとした小さな手が、なんとも言えずあたたかくて──
私はそのまま部屋へ向かった。
が。
部屋のドアを開けた瞬間。
「……あー、うん。はいはい、そうよね」
そこには、既にベッドに一人寝ている人物がいた。
そう、セピア王子である。
「……なんで、うちの王子様は毎晩ここで寝てるのよ……」
もう四日目だから慣れたけれど、最初は本気で悲鳴あげた。
だって、寝ようとしたら自分のベッドに大の男(しかも王子)が
ふかふかの布団に包まって「すやぁ〜」って寝てたら、誰でも叫ぶでしょ?
しかも彼、ちゃんと自分の部屋があるのに。
最初は「この部屋に思い入れがあるのか?」とも思ったけれど、
ポアロさんは首を横に振っていた。
「いえ、殿下は以前から寝室に執着されるようなご性格ではございません」
じゃあなんでよ。
「きっとセピア様、おねえちゃんのこと気に入ってるんだろうね」
リオが、にこにこと笑いながら言った。
「……へ?」
「だって、セピア様って、おねえちゃんが怒ったときだけ素直になるし、ごはんも『レビリアたんのがいい〜!』って言うし。きっと、すきなんだよ」
「……ちょ、ちょっと、やめなさいよ。子供がそういうこと言うの……!」
耳が熱い。顔も熱い。
「ふふ、セピア様、おねえちゃんと寝るの、きっと楽しみにしてるんだよ」
ああもう、この子……本当に、天使と悪魔のハイブリッドだわ……!
「……ま、いいわ。じゃあ、リオはこっちね。セピアは……端っこにしておこう」
「うん! おやすみなさい、おねえちゃん!」
「はいはい、おやすみ、リオ。……セピア、寝相で蹴ったら許さないわよ」
セピアは夢の中で「ぴかぴか〜」と何かをつぶやいていた。
まるで子供と寝てるような、でもそれ以上に奇妙で、不思議で、温かい夜だった。
……なんで私、断罪回避のつもりが、育児兼添い寝生活してるのかしら。




