贖罪
リオはすやすやと寝息を立て、静かな夜が部屋を包んでいた。レビリアの怪我も徐々に回復し、自分の足で歩けるほどになっていた。
「昼間、セピア様が真剣な顔で『夜、話があるから客間に来て』って…なんの話なのかしら?」レビリアは、少し胸を高鳴らせながら考えた。
客間の扉を開けると、月光に照らされ、紅茶を片手に佇むセピアの姿があった。その静かな佇まいに、思わず見惚れるレビリア。
「セピア様、お待たせしました」
「待ってないよ。リオは寝た?」
「はい。すやすや寝ています」
「そうか…良かった」
セピアは深く息をつき、真剣な眼差しでレビリアを見つめた。
「レビリア、君に言わないといけないことがあるんだ」
「はい…」
セピアの声は低く、でも一言一言が胸に響く。
「僕は記憶が戻った。失っていた記憶すべてだ」
「!! 本当に…?良かった!良かったですわ!」レビリアは喜びで目を輝かせる。しかし、その笑顔にセピアの胸は痛む。
「本当は、君と一緒に崖から落ちたあの日から記憶は戻っていたんだ。でもまだ王妃や兄上が暗躍していたから、打ち明けられなかった…ごめん」
「…」レビリアは驚き、静かに頷く。
「それに、君を囮作戦に使ってしまった。君に話もせず…その上、怪我まで負わせてしまった。申し訳ない。本当に、ごめん」
胸の痛みを抑えきれず、セピアは頭を垂れる。
「そんなに謝らないでください!」レビリアはセピアの手を握り、優しく笑う。
「セピア様に記憶が戻ったことが何より嬉しいですし、結果として王妃様とガゼル殿下の罪も暴かれたのですから…良かったですわ」
「…」
セピアはその言葉に胸が熱くなる。
「囮作戦の作戦会議に私を入れてくれなかったのは少し寂しかったですが、それでも誰も傷つかずに済んだのですから、全て良しです」
セピアは息を呑む。レビリアの笑顔、温かい手の感触、優しい言葉——すべてが心に沁みる。
「レビリア…ありがとう」
セピアは迷わずレビリアを抱きしめた。
「セピア様…」レビリアもすぐに抱き返す。二人の温もりが重なり、互いの存在を確かめ合うように抱きしめ合った。
抱きしめ合ったまま、二人はしばらくの間、互いの温もりを確かめるように静かに寄り添った。
「セピア様…」レビリアが小さな声で囁く。
「ん?」セピアは顔を近づけ、耳元でそっと呼ばれた声に反応する。
「これから…二人でどうしていくのか、考えていますか?」
セピアは少し微笑み、遠くを見つめるように視線を泳がせる。
「もちろん考えてる。君とリオ、そしてポアロも一緒に…幸せな家庭を築きたい」
レビリアの瞳が輝き、思わず笑みがこぼれる。
「本当に…ですか?」
「もちろんだよ。王族としての務めもあるけれど、それよりも君とリオが大切なんだ。僕はもう、誰かに守られるだけの僕じゃない。君たちを守るって決めたんだ」
レビリアはそっと手をセピアの胸に当てる。
「セピア様…その覚悟、心から嬉しいですわ。私も、ずっとセピア様と一緒にいたい…リオと一緒に、家族として過ごしたい」
「じゃあ…」セピアは軽く笑みを浮かべ、レビリアの手を握りしめる。「僕たち、これからずっと一緒だ。リオも含めて、家族として支え合おう」
レビリアの頬が赤く染まる。
「はい…私も全力で…セピア様とリオを守りますわ」
セピアはその言葉に胸が熱くなり、そっとレビリアの髪に手を伸ばす。
「君の手も、温かくて…守りたいって気持ちがさらに強くなるよ」
「セピア様…」レビリアの声はかすかに震え、でも笑顔は優しく柔らかい。
二人はしばらくの間、未来のことをゆっくりと語り合った。王族としての務め、家族としての生活、そして小さな幸せ——すべてを共有しながら、互いに誓いを新たにする時間。
「これからも、ずっと一緒に生きていこう。」
セピアが囁く。
「はい、ずっと…」レビリアは頷き、セピアに身を預ける。
夜の月光は、二人の柔らかい時間を優しく包み込み、家族として歩む新しい日々の始まりを静かに祝福していた。




