表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/55

王妃の最後

ガゼルが滅び、牢獄にその知らせが届いた瞬間、王妃は全身の力を失い、椅子に崩れ落ちた。

「ガゼル……嘘よね……?」

誰もいない玉座の間に、愛する息子の姿を探すかのように手を伸ばす。


権力と策略を巡らせ続けた冷徹な女王は、もはや王妃としての顔を失い、ただの母として息子を求めるだけの存在となっていた。

侍従たちは、彼女の精神が完全に崩壊したことを確認し、王宮の奥深く、誰も訪れぬ幽閉の間へと移す。


日々の食事も侍従が差し入れるだけで、王妃はほとんど口を利かず、ガゼルの面影を思い浮かべながら、窓の外に広がる王宮の庭をぼんやりと見つめ続ける。

時折、独り言のように呟く――

「ガゼル……あなたのために、私は……」


その瞳はかつての権力欲や策略に満ちた王妃の鋭さを失い、ただ息子への愛情と失った未来への哀しみだけが残っていた。


***


王宮の静かな庭に、ガゼル兄上の小さな墓が建てられていた。セピアはそっと歩み寄り、手に持っていた花を墓の上にそっと置く。


「ガゼル兄さん…」

静かに呟き、花を整えるセピアの横に、エルヴィンがゆっくりと歩み寄り、肩に手を添えた。


「俺たちは母親が違うだけで、兄弟だ。もちろんガゼル兄上も。あの時、お前を手にかけようとしたときは、俺も本当に恨んだし、兄上の死さえ願ったこともある。だが、それでも、兄上であることには変わりはない。」


セピアは目を閉じ、幼い頃の記憶を思い返す。

「幼い頃、俺とセピアとガゼル兄上で、王城でかくれんぼして遊んだこと、覚えてるか?」

「もちろんです。忘れられません。あれは僕にとって本当に幸せな時間でした。兄弟三人仲良くしていたあの時期が懐かしいです。」


エルヴィンは視線を落とし、吐息混じりに呟く。

「いつから俺たちはすれ違い、関係が捩れたのか…でも、俺はお前のことを本当に弟だと思ってる。それだけは知っててくれ。」

「もちろんです、エルヴィン兄さん!エルヴィン兄さんは僕の大切な兄さんです。」


二人はしばし黙して手を合わせ、ガゼル兄上の冥福を祈った後、ゆっくりと立ち上がる。庭の風が二人の間を静かに通り抜け、どこか清々しい空気が漂った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ