王妃の最後
ガゼルが滅び、牢獄にその知らせが届いた瞬間、王妃は全身の力を失い、椅子に崩れ落ちた。
「ガゼル……嘘よね……?」
誰もいない玉座の間に、愛する息子の姿を探すかのように手を伸ばす。
権力と策略を巡らせ続けた冷徹な女王は、もはや王妃としての顔を失い、ただの母として息子を求めるだけの存在となっていた。
侍従たちは、彼女の精神が完全に崩壊したことを確認し、王宮の奥深く、誰も訪れぬ幽閉の間へと移す。
日々の食事も侍従が差し入れるだけで、王妃はほとんど口を利かず、ガゼルの面影を思い浮かべながら、窓の外に広がる王宮の庭をぼんやりと見つめ続ける。
時折、独り言のように呟く――
「ガゼル……あなたのために、私は……」
その瞳はかつての権力欲や策略に満ちた王妃の鋭さを失い、ただ息子への愛情と失った未来への哀しみだけが残っていた。
***
王宮の静かな庭に、ガゼル兄上の小さな墓が建てられていた。セピアはそっと歩み寄り、手に持っていた花を墓の上にそっと置く。
「ガゼル兄さん…」
静かに呟き、花を整えるセピアの横に、エルヴィンがゆっくりと歩み寄り、肩に手を添えた。
「俺たちは母親が違うだけで、兄弟だ。もちろんガゼル兄上も。あの時、お前を手にかけようとしたときは、俺も本当に恨んだし、兄上の死さえ願ったこともある。だが、それでも、兄上であることには変わりはない。」
セピアは目を閉じ、幼い頃の記憶を思い返す。
「幼い頃、俺とセピアとガゼル兄上で、王城でかくれんぼして遊んだこと、覚えてるか?」
「もちろんです。忘れられません。あれは僕にとって本当に幸せな時間でした。兄弟三人仲良くしていたあの時期が懐かしいです。」
エルヴィンは視線を落とし、吐息混じりに呟く。
「いつから俺たちはすれ違い、関係が捩れたのか…でも、俺はお前のことを本当に弟だと思ってる。それだけは知っててくれ。」
「もちろんです、エルヴィン兄さん!エルヴィン兄さんは僕の大切な兄さんです。」
二人はしばし黙して手を合わせ、ガゼル兄上の冥福を祈った後、ゆっくりと立ち上がる。庭の風が二人の間を静かに通り抜け、どこか清々しい空気が漂った。




