表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/55

ガゼルの最期

夜の王宮。王妃が投獄されたとの報を受け、ガゼル殿下は暗い書斎の奥で独り静かに腰を下ろしていた。


「母上…このままでは、貴女の命が危険に晒される」


薄明かりの中、ガゼルの瞳は冷たく光る。王妃のためなら、自分の身をも顧みず行動する覚悟ができていた。


手元の書類と地図を広げ、王妃が幽閉されている場所を確認する。地下牢の位置、護衛の配置、警備の巡回タイミング――。情報は不完全だが、あらゆる手掛かりを組み合わせれば突破の糸口は見える。


「ふふ…これなら、間に合うかもしれないな」


ガゼルは書斎の隠し扉を開け、秘密の通路へと入る。足音ひとつ立てず、壁に沿って進む。通路の先には護衛が数人待ち構えているが、ガゼルの動きは素早く、冷静そのもの。


壁際に身を伏せ、慎重に観察する。息を殺してタイミングを計り、忍び寄る。敵の背後に回り込み、素早く手元の小型麻痺薬を投げ、数秒の隙を作る。護衛たちはうめき声を上げて倒れ、通路が確保される。


「これで通れる…」


暗い階段を下りると、幽閉されている牢屋の鉄格子が見えた。牢番が見回りをしているのを確認し、隙を突いて影から忍び寄る。


「母上、すぐ助けます…」


鉄格子の隙間から、王妃の安否を確かめる。微かな呼吸と、かすかな手の動き。生きている――その事実がガゼルの胸に力を与えた。


だが、まだ安心できる状況ではない。牢の鍵は複雑に仕組まれており、解除には時間がかかる。しかも、他の護衛がいつ戻ってくるか分からない。


ガゼルは小型工具を取り出し、鍵穴に差し込む。冷たい鉄の感触に集中し、微かなクリック音を頼りに慎重に操作する。手が震えるが、気持ちは揺らがない。母上を助ける――その一心だけが、彼を突き動かしていた。


「…よし」


鍵が開く音が静寂を破る。ガゼルは鉄格子を慎重に押し開き、王妃の元へ駆け寄る。


ガゼルは王妃を抱え、わずかな隙を見つけて脱出を試みる。

「ここを抜ければ…」彼の心は焦りと決意で揺れる。


だが、先回りしていたセピアが動く。

「ガゼル殿下、そこまでです!」

王妃を抱えたまま、身を低くして走ろうとするガゼルの前に、セピアが鋭く立ちはだかる。

セピアは短剣を手に取り、慎重に距離を詰める。

「ガゼル殿下、王妃の安全を考えるなら、今すぐ降参するべきです!」

声には揺るがぬ決意が宿る。セピアはエルヴィンとポアロに目配せし、連携を取る。

ガゼルは短く息を吐き、瞬時に方向を変えた。

「くっ…こんなところで、捕まってたまるか……。」

壁沿いに迂回して脱出を試みるが、エルヴィンは冷静に進路を読んで先回り。

「逃がさんぞ」

その一言で、ガゼルは足を止めざるを得ない。

王妃を守るためには突破せねばならないが、目の前の三人の壁は厚く、高い。


「くそ……!ここまでか!!」


その瞬間、ポアロが王妃の周囲の安全を確保しつつ、ガゼルの逃走経路を完全に封鎖する。エルヴィンとセピアが一斉に進み、ガゼルを押さえ込むが、ガゼルはエルヴィンとセピアを払いのける。そして、背を壁に預ける。掌には小さな匕首。誰も止められない絶望が、彼の体を貫いた。


「お前らに捕まえられて、牢屋に入れられるぐらいなら、今ここで死ぬ!」


その瞬間、ガゼルは自らの命を絶った。短い悲鳴と共に、力尽きた体は床に崩れ落ちる。静まり返った王宮の廊下に、かすかな余韻だけが残る―。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ