学術晩餐会
煌びやかなシャンデリアが光を放ち、学術晩餐会の会場は上品な華やかさに包まれていた。各国の学者や貴族が一堂に会し、王族も揃うこの場は、文化交流の名を冠しながらも、政治的駆け引きの渦そのものだった。
その中心に、王妃と第一王子ガゼル、そしてクラリーチェが優雅に陣取っていた。
レビリアは深い藍色のドレスに身を包み、控えめながらも気品ある姿でテーブルに着いていた。その隣にはセピア、さらにリオが楽しそうに周囲を見渡している。さらに少し離れた場所に、銀髪の第二王子エルヴィンの姿がある。
王妃とクラリーチェの視線が、時折こちらに注がれるのを感じながら――レビリアは気を引き締めた。
***
「まあ、セピア。随分と大きくなったのね」
王妃の声が、柔らかい笑みに包まれながらも、どこか冷ややかに響く。
「……はい」
「でも――記憶を失ってしまったのは本当に残念。未来の王族としての自覚、どれほど残っているのかしら?」
その言葉に、セピアの指先がぴくりと震えた。
(……ぼくの、じそんしんを……試してる?)
胸に渦巻く感情を悟られまいと、必死に表情を保つ。
レビリアは即座に察した。
(この人……セピアの心を揺さぶろうとしてる)
「陛下は、セピア殿下の努力を誇りに思っておられます。学術の場にこうして自ら参加されること、それ自体が立派な責務を果たす姿ではございませんか?」
にこやかに、しかし鋭く切り返すレビリア。
王妃の笑みがわずかに揺れた。
「でも――」クラリーチェが、わざとらしくため息をつく。
「セピア様、今日は随分と緊張されているのね? もしかして、難しいお話は苦手?」
「……そんなこと、ない」
セピアの声が、かすかに低くなる。その瞬間、レビリアが彼の手元に視線を落とし――
そっと手を重ねた。
「大丈夫。貴方はよくやっているわ」
その言葉と温もりに、セピアの肩がわずかに震える。
(……レビリアたん……)
胸の奥に、熱いものがこみ上げる。
会話が進む中、給仕がワインを並べていく。
レビリアが手を伸ばした瞬間――
ふわりと、セピアの手がその上に重なった。
「……っ!」
熱が一気に頬に昇る。
「……ぼくが取る」
囁く声は低く、妙に男らしい響きを帯びていて、レビリアの胸は跳ねた。
(な、なに今の……!)
その横で、クラリーチェの目が僅かに鋭さを帯びる。
***
「やあ、楽しんでいるかな?」
その声に振り向くと、淡い銀髪とラベンダーの瞳を持つ青年――第二王子エルヴィンが、柔らかな笑みを浮かべて立っていた。
セピアの表情がぱっと明るくなる。
「エルヴィン兄さん!」
「セピア……その呼び方、久しぶりだな」
「うん。エルヴィン兄さんは、いまもむかしもぼくの大切な兄さん。」
「ああ、思い出してくれたのか……嬉しいよ」
セピアの胸に、温かいものが広がる。
――でも、そのすぐ隣で、レビリアが微笑みながらエルヴィンに言葉を紡いだ。
「エルヴィン殿下、わざわざこちらへ……」
「レビリア嬢、君の働きぶりには驚いてるし、感謝してるよ」
「いえ、これも全て優秀な参謀様のおかげですわ」
「参謀様? 俺のことかな?」
「はい。エルヴィン殿下の賢さや人脈は、本当に頭が上がりません」
「君にそう言われると嬉しいな。俺も君の正面突破なところがいいと思うよ。見ていてヒヤヒヤする時もあるけどね」
「そ、それに対してはご迷惑をおかけしました」
ーその光景を見つめるセピアの胸の奥で、ざらりとした感情が膨らんだ。
(……嫌だ。兄さんに笑ってるレビリアたんなんて、見たくない。あの笑顔は、ぼくのものなのに……)
テーブルの下で、セピアはぎゅっと拳を握りしめた。
***
会場の奥、緋色のカーテンに隠れた小さなサロンで、王妃とクラリーチェは密談を交わしていた。
「次の一手はどうするの?」クラリーチェが問う。
「――“孤立”よ。レビリアを社交界の笑い者にすれば、セピアは守り切れない」
「でも、あの女……思った以上にしたたかよ?」
「ならば、心を揺さぶりなさい。恋情でも、嫉妬でも……彼女を不安定にできれば勝ち」
王妃の瞳に、氷のような光が宿る。
「セピアを堕とすのは簡単。心を乱す女を、徹底的に潰せばいい」
クラリーチェの唇が、不気味な笑みを形作った。




