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口づけは優しくて温かい

煌びやかな旋律が終わり、次の曲が始まろうとする中――

王妃イザベルとクラリーチェは、まるで獲物を狙う蛇のような目を光らせていた。


「……あの二人、随分と親しげですわね」

クラリーチェの声は甘やかだが、その奥底には剣のような棘が潜んでいる。

王妃は、ゆるやかに微笑む。

「いいのよ、焦らなくて。――私たちは“彼女の足元”から崩すの」

「……?」

「この場で発表しましょう。“狩猟祭"を開くと。」

「なるほど……!」

クラリーチェの瞳に、嫉妬と野望の炎が宿った。

ーだが、そのやり取りのすぐ近くで、エルヴィンがワイングラスを傾けながら微笑んでいた。

「……狩猟祭、ね。面白いことを考える」

彼は、遠くに控えるポアロと視線を交わし、わずかに頷く。

(――王妃の“駒”が動き始める時だ)


***


その頃。

セピアとレビリアは、まだダンスの余韻の中にいた。

彼の腕に支えられ、ステップを踏んだ時の感覚が、まだ肌に残っている。


(どうしよう……すごく近かった……心臓、まだドキドキしてる)

レビリアは自分の胸に手を当て、顔を赤らめる。

そんな彼女を見て、セピアは――。


「レビリアたん」

「……な、なに?」

「ぼく……少し、風にあたりたい。いっしょに、来て」


拒む間もなく、その手を取られ、庭園へと連れ出される。


**


外は、月光がやさしく降り注ぐ静かな庭園。

花々が夜露に濡れ、甘やかな香りを漂わせていた。


「……セピア王子?」

振り向いた瞬間、彼の翡翠色の瞳と、真正面からぶつかる。

その奥に宿る熱に、レビリアの息が止まった。

「……レビリアたん、さっきのダンス……すごく、うれしかった」

「え……」

「ぼくね、わからないんだ。なんでこんなに……レビリアたんのこと、ずっと見てたいって思うのか」


声が震えている。

その手が、そっと彼女の頬に触れた。


「――ねぇ、教えて。これ、なに?」

彼の瞳が、切実に揺れる。


(……そんなの、私だって――)

言葉にできない感情が、胸を締めつける。


次の瞬間――

彼の唇が、そっと彼女の唇を塞いだ。


****


時間が、止まったようだった。

柔らかな熱が、静かに溶けていく。

驚きと戸惑い――けれど、不思議と嫌じゃなかった。


(……なに、これ……胸が、すごく苦しいのに……あたたかい)


やがて、唇が離れる。

至近距離で見つめ合う二人。

セピアの頬も、耳も真っ赤だ。


「……ご、ごめん。ぼく、がまんできなかった」

「……」

レビリアは――ただ、かすかに微笑んだ。

「……嫌じゃなかったわ」

「――!」

セピアの目が大きく見開かれ、次の瞬間、翡翠の瞳に喜びの色が満ちる。


(……私、今、何を言ったの……?)

胸の奥で、熱い波が広がっていく。

“嫌じゃない”。むしろ――

(……もしかして、これが……恋?)


夜風が、二人の間をやさしく撫でていった。


――だが、その幸福な空気の裏で、宮殿の奥では王妃とクラリーチェが次の一手を仕込んでいた。


「狩猟祭――ここからが、本当の勝負よ」

王妃の冷笑が、月明かりに照らされて鈍く光った。

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