胸のざわめきは恋という名の熱
庭に柔らかな陽光が差し込む午後。
レビリアは離宮のテラスで、王族派閥の資料に目を通していた。
その横では、リオが小さな指で必死に花冠を編んでいる。
「できた!お姉ちゃん、かぶって!」
「まあ、ありがとうリオ。すごく上手にできたわね」
レビリアが笑って花冠をかぶると、リオは嬉しそうに手を叩いた。
――その時、低い声が割り込んだ。
「……レビリアたん、それ、ぼくがやりたい」
振り返ると、セピアがふくれっ面で立っていた。
「あら、セピア王子も欲しいの?じゃあ、リオと――」
「ちがう」
セピアは一歩、二歩と近づき、レビリアの髪から花冠を外す。
そのまま、そっとかけ直す。
「……レビリアたんは、これが似合う」
彼の声は、幼い甘えとも違う、低い響きを帯びていた。
レビリアの胸がドクンと跳ねる。
(……今の、なに?)
笑顔を返しながらも、妙な熱を頬に感じて、視線を逸らした。
***
深夜。
セピアはベッドの上で、ごろりと何度も寝返りを打っていた。
(……レビリアたん、今日はずっとリオばかり見てた)
胸が痛い。ぎゅっと締めつけられる。
(ぼくも……もっと見てほしい)
気づけば、足が勝手に動いていた。
廊下に出て、静まり返った空気を切りながら歩く。
――止まったのは、レビリアの部屋の前。
(……会いたい)
月明かりがレースのカーテン越しに差し込み、淡い光で満ちる部屋。
レビリアは寝台の上でリオと2人で静かに眠っていた。
その寝顔を見た瞬間、セピアの心臓が大きく鳴る。
(……きれい)
ふらふらと引き寄せられるように近づき、ベッドのそばにしゃがむ。
伸ばした指が、レビリアの髪に触れた。
絹糸のような感触。指先に伝わる温度に、喉が鳴る。
「……レビリアたん」
名前を呼んだ声は、震えていた。
―このまま、抱きしめてしまいたい。
心の奥から、危うい衝動が溢れそうになる。
けれど、寸前でセピアは拳を握りしめ、立ち上がった。
(……だめだ)
唇を噛み、扉を閉める。
廊下に出た瞬間、胸に残る温度が離れず、セピアは顔を覆った。
(……なんで、こんなにくるしいの?)
****
朝食の席で、レビリアは気づく。
――セピアの視線が、やたらと自分を追っていることに。
「……昨日から、なんだか変よね」
声をかけると、セピアはパンをちぎる手を止め、真っ直ぐ見つめた。
「……レビリアたん」
「なに?」
「ずっと、そばにいて」
唐突な一言に、レビリアの胸がざわついた。
「もちろんよ。私たちはずっと一緒――」
そう言いかけた言葉を、セピアの視線が奪う。
(……この目、甘えじゃない?)
夕暮れ、レビリアとリオが笑う光景を見ながら、
セピアは心の奥でつぶやいた。
(だいすき……)
でも次に浮かんだのは――
(ぼくだけを、見て)
その瞬間、崖の上の光景が閃く。
――背中を押され、落ちていく自分。
奪われる感覚。
セピアは小さく息を呑んだ。
(……いやだ。二度と、あんな思いはしない)




