表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/55

胸のざわめきは恋という名の熱

庭に柔らかな陽光が差し込む午後。

レビリアは離宮のテラスで、王族派閥の資料に目を通していた。

その横では、リオが小さな指で必死に花冠を編んでいる。


「できた!お姉ちゃん、かぶって!」

「まあ、ありがとうリオ。すごく上手にできたわね」

レビリアが笑って花冠をかぶると、リオは嬉しそうに手を叩いた。


――その時、低い声が割り込んだ。

「……レビリアたん、それ、ぼくがやりたい」


振り返ると、セピアがふくれっ面で立っていた。

「あら、セピア王子も欲しいの?じゃあ、リオと――」

「ちがう」

セピアは一歩、二歩と近づき、レビリアの髪から花冠を外す。

そのまま、そっとかけ直す。


「……レビリアたんは、これが似合う」


彼の声は、幼い甘えとも違う、低い響きを帯びていた。

レビリアの胸がドクンと跳ねる。

(……今の、なに?)


笑顔を返しながらも、妙な熱を頬に感じて、視線を逸らした。


***


深夜。

セピアはベッドの上で、ごろりと何度も寝返りを打っていた。


(……レビリアたん、今日はずっとリオばかり見てた)

胸が痛い。ぎゅっと締めつけられる。

(ぼくも……もっと見てほしい)


気づけば、足が勝手に動いていた。

廊下に出て、静まり返った空気を切りながら歩く。

――止まったのは、レビリアの部屋の前。

(……会いたい)

月明かりがレースのカーテン越しに差し込み、淡い光で満ちる部屋。

レビリアは寝台の上でリオと2人で静かに眠っていた。

その寝顔を見た瞬間、セピアの心臓が大きく鳴る。

(……きれい)

ふらふらと引き寄せられるように近づき、ベッドのそばにしゃがむ。

伸ばした指が、レビリアの髪に触れた。

絹糸のような感触。指先に伝わる温度に、喉が鳴る。

「……レビリアたん」

名前を呼んだ声は、震えていた。

―このまま、抱きしめてしまいたい。

心の奥から、危うい衝動が溢れそうになる。

けれど、寸前でセピアは拳を握りしめ、立ち上がった。

(……だめだ)

唇を噛み、扉を閉める。

廊下に出た瞬間、胸に残る温度が離れず、セピアは顔を覆った。

(……なんで、こんなにくるしいの?)


****


朝食の席で、レビリアは気づく。

――セピアの視線が、やたらと自分を追っていることに。


「……昨日から、なんだか変よね」

声をかけると、セピアはパンをちぎる手を止め、真っ直ぐ見つめた。

「……レビリアたん」

「なに?」

「ずっと、そばにいて」


唐突な一言に、レビリアの胸がざわついた。

「もちろんよ。私たちはずっと一緒――」

そう言いかけた言葉を、セピアの視線が奪う。

(……この目、甘えじゃない?)

夕暮れ、レビリアとリオが笑う光景を見ながら、

セピアは心の奥でつぶやいた。

(だいすき……)

でも次に浮かんだのは――

(ぼくだけを、見て)

その瞬間、崖の上の光景が閃く。

――背中を押され、落ちていく自分。

奪われる感覚。

セピアは小さく息を呑んだ。

(……いやだ。二度と、あんな思いはしない)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ