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蠢く陰謀

静かな夜、王宮の奥深く――王妃イザベルは、優雅に紅茶を傾けていた。

白磁のカップに映るのは、冷酷な微笑。

目の前で跪くのは、クラリーチェ。

その顔には、悔しさを必死で押し隠したような影が浮かんでいる。


「――あの子を、まだ排除できないのね」

王妃の声音は甘く、それでいて氷のように冷たい。


「申し訳ございません……王妃様。ですが――次こそは」


「次こそ、ね」

王妃はゆっくりと立ち上がり、窓辺へ歩く。

月光に照らされたその背中は、美しく、そして恐ろしいほど孤高だった。


「いいこと? クラリーチェ。

あの女――レビリアを、完全に王宮から追い出しなさい。

セピアに執着し続ける限り、彼女は私たちの“計画”の障害になる」


「……“計画”のため、ですわね」

クラリーチェの唇に、妖しい笑みが浮かぶ。

「では――次は、あの“祭り”よりも確実な罠を用意いたします」


王妃は紅い唇で微笑む。

「――ええ。期待しているわ。

ガゼルを――王位に就けるために。

そのためなら……セピアには、二度と日の目を見せない」


クラリーチェは深々と頭を垂れた。

(――ふふ。レビリア、今度こそあなたを奈落に落としてあげる)


****


エルヴィンは薬草を撫でながら、遠くの月を見上げていた。

その手には、小さな魔導通信具――ポアロからの報告が響く。


『離宮は無事、ですが……王宮の動きが怪しい』


「……やはり、そうか」

エルヴィンの紫水晶の瞳が、ひときわ冷たく光る。


「王妃――あの方は、まだ諦めていない」

唇に苦笑を浮かべる。

「本当に……あの方は、どこまで“ラウンドン”を歪めれば気が済むんだろうね」


彼は机の上に広げられた地図に、指先で印をつける。

「……動かなくては。

セピアを――守るために。

そして、この国を――腐敗から救うために」


小さく、呟く。

「レビリア嬢。君は……どこまで戦える?」


その声は、夜に溶け、新たな策が静かに動き始めた。


****

――夢の中で、崖の風が吹き荒れていた。


「……ここは……」

セピアは崖の上に立っていた。

遠くで、波が荒れ狂っている。

胸の奥に、言い知れぬ恐怖が広がる。


――背後に、人の気配。


「……っ!」

振り向いた瞬間、背中を強く押される感覚。


「や……め……!」

叫びも虚しく、視界が反転する。

空が遠ざかり、地面が迫り――


――そして、暗闇。


セピアは飛び起きた。

「はぁ……っ、はぁっ……!」

荒い息、額の冷や汗。

胸を押さえ、震える声で呟く。


「……ぼく……押された……?

だれ……が……?」


視線の先――レビリアとリオが、寄り添って眠っていた。

セピアは、ぎゅっと二人を抱きしめる。

「……こわい。けど……ぼく、もうひとりじゃない」


小さな声で、繰り返した。

「――まもる。レビリアたんと、リオ……」


その腕に、強い決意が宿り始めていた。

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