第二王子・エルヴィン殿下
私の中で、焦燥が募っていた。
セピア王子とリオ。
あの子たちの命が、今、狙われている――
「ポアロさんと私だけじゃ……限度があるわ」
私とポアロさんの力で守り切るには、あまりにも限界がある。
この離宮は、王都から隔離されているがゆえに、王宮で何が起きているかさえ、正確には伝わってこない。
「……王宮にも顔が利いて、政治的にも動けて……それでいて、セピア王子の味方になってくれる王族の人間……」
ぼんやりと、そんな人物を脳内で探る。
「ゲーム内に、いたはずなのよ。
……セピアが助かってるってことは、“彼”を助けた誰かがいるってこと。そうじゃなきゃ、あの崖から生きて戻れるはずがない」
私は前世の記憶を頼りに、机に広げたノートに“関係図”を描き始めた。
セピア、ガゼル、クラリーチェ、そして王族の家系……。
そのとき、ふとある名前が浮かび上がる。
「……第二王子、エルヴィン……!」
そう、いた。
セピアの異母兄にして、2人目の王子――だが、ゲームの中では彼は“病弱”設定で、ほとんど登場しない影の存在だった。
エルヴィン殿下には知られてない裏設定がある。実は前国王と妾にできた子でその存在を隠され続けてきた。アストロ王が不憫に思い、養子に迎えたのだ。それにより、王妃様が戸籍上の母、そしてアストロ王が戸籍上の父となったのだ。
「確か、セピアとの関係性は良好だった。ゲームのスチルでも、2人が寄り添って本を読んでるシーンがあったはず……!」
私はその場で立ち上がる。
「彼が味方になってくれたら……百人力よ!」
しかも、病弱という名目で表舞台には立っていないからこそ、動きやすい。
おそらく、ガゼルもクラリーチェも彼のことを“脅威”だとは思っていない。
――今こそ、彼を探し出すべき時だ。
「エルヴィン王子に、どうやってコンタクトを取れば……?」
私は思案する。
彼は王宮の中にいるはずだけれど、公式には病弱で療養中ということになっている。
でも、王宮内で“療養のために人目につかない場所にいる人物”なんて、そうそう多くはない。
「……王宮の裏庭、薬草園。その先にある離れ……!」
そこもまた、ゲーム内でチラッと触れられていた設定。
病気の王族が静かに療養するための場所。
ゲーム内では1度きりしか訪れないレアイベントだったけど――あのとき、そこにいたのが、確かに“第二王子・エルヴィン”だった。
「決まりね。王宮へ行く方法は……ポアロさんに相談すれば、きっと……!」
私は急ぎ、寝室に向かう。
まだ朝の空気が残る中、ベッドの上ではセピアとリオが仲良く抱き合って眠っていた。
――絶対、守らなきゃ。この“家族”を。
「絶対に、強い味方を手に入れてみせる。セピア王子、リオ。待っててね――!」




