ペンダントと記憶の断片
広場に転がる刺客の一人。
その腰元で、何かがカラン……と音を立てた。
「これは……?」
私は剣を納め、地面に落ちたそれを拾い上げる。
銀のペンダント――。古びているが、細工は王族の紋章入り。
明らかに、どこかで見たことがある装飾だった。
(……まさか――これ……)
蓋をそっと開くと、中には一枚の小さな写真が入っていた。
そこに写っていたのは――
穏やかに微笑む一人の女性。透き通るような金髪に、深緑の瞳。
「―まさか…セピア王子のお母様……?」
私の背筋に、ひやりとしたものが走った。
なぜ刺客が、セピア王子の大切なペンダントを……?
(奪われた?それとも――セピア王子が落としたものを……?)
ふと振り返ると、セピアがこちらを見ていた。
そのエメラルドの瞳が、一瞬だけ、痛みと懐かしさを混ぜた色に揺れる。
「レビリアたん……それ……」
――声が震えていた。
(やっぱり……このペンダント、セピア王子のもの……!)
「これは後で、あなたに渡すわね」
私は柔らかく微笑み、ペンダントを胸に抱いた。
……けれど、その瞬間――
セピアの瞳に、深い影が差すのを見逃さなかった。
****
「――祭りは無事終了しました」
王宮では、従者たちの報告が淡々と進んでいた。
だが、その奥の応接室では――
ガゼルとクラリーチェが、怒りを隠そうともせず、言葉を吐き捨てていた。
「暗殺に失敗した?――無能どもめ!!」
ガゼルの拳がテーブルを叩き割る。
クラリーチェは、うすら笑いを浮かべながらワイングラスを揺らした。
「でも、まだ終わりじゃありませんわ。
あの女――レビリアがいる限り、セピア様は変わり続ける。あの方を壊すには、あの女を消すのが一番よ」
「次は確実にやれ。セピアも、あのガキも、ついでにあの女も……」
ガゼルの金の瞳が、闇を孕んでぎらついた。
****
「……セピア王子」
その名を呼んだ瞬間、私は驚いた。
セピアは、書斎の椅子でうつむき、ペンダントを握りしめていたのだ。
「レビリアたん……これ……」
彼の声は、かすれていた。
「……ごめんね。ぼく、よくわかんないけど――
この人、しってる。ずっと、だいすきだったひと」
ペンダントの中の写真を見つめるセピア。
――その瞬間、彼の脳裏を何かがよぎる。
暗い崖。冷たい風。
――「セピア、逃げろ!!」
誰かの声。
そして――背中を押される感覚。
空を切るように落ちていく――自分。
「っ――!」
セピアは顔を上げ、荒い息を吐いた。
「セピア王子!? 大丈夫ですか!?」
私は慌てて駆け寄る。
「……ぼく……なんで、こんなに、こわい夢……
レビリアたん、に、リオに……そばにいて、ほしい……」
その瞳が、切実な不安と、必死な願いで濡れていた。
思わず、私はセピアの頬を両手で包む。
「――私はここにいます。絶対に、あなたのそばを離れません」
声が、震えていたのは私の方だった。
その時――セピアの手が、私の指を強く握る。
その体温に、胸が焼けるように熱くなる。
(……どうして、こんなに……)
私は、彼の瞳を見返した。
――距離が、近い。
息が触れそうな距離で、セピアが小さく微笑む。
「レビリアたん……だいすき」
……心臓が、跳ねた。




