お祭りと刃の影
王宮で正式に“家族”として認められた翌日。
私たちに告げられたのは――
「国王主催の春祭りに、王子として出席せよ」
だった。
とはいえ、表向きは“視察”の名目。
セピア王子とリオに、「民の暮らしを肌で学ばせよ」という陛下の命だ。
そのため、私たちは質素な服に身を包み、王族であることを悟られないようにして街へ出た。
「わぁぁ!すごい人!お店いっぱい!」
リオのアクアマリンの瞳がキラキラと輝く。
「レビリアたん、はやくはやくっ!おいしそうなのいっぱいだよ!」
セピアも、完全に子供のようなテンションでリオに同調している。
「……はぁ。いいですか?これは国王陛下から頼まれた仕事なんですよ?
あまり遊びすぎないでくださいね」
「はーい!わかったよレビリアたん!」
(わかってない声だったけど……)
結局、私たちは焼き菓子や果実水を手に、祭りを楽しんでいた。
……こんな時間が、ずっと続けばいいのに――そう思った瞬間。
「……っ?」
屋台のざわめきを抜け、広場に差し掛かったその時――
空気が一変した。
音もなく、黒い影が数人、私たちを囲む。
(刺客――!?)
「セピア様、リオ!」
私は即座に二人を後ろにかばった。
(まさか、このタイミングで……ガゼル王子の差し金!?)
胸の奥で怒りが燃え上がる。
「……でも――」
私は絶望していなかった。
なぜなら――私は、この物語の“悪役令嬢 レビリア”。
彼女は剣術も、体術も、どちらも貴族令嬢の中では最強クラスだからだ。
「――ッはぁ!!」
一歩、踏み込み。
一人目の刺客を、肩を軸にして華麗に投げ飛ばす。
地に叩きつけられた男の手から剣を奪い――
ひゅん、と音を切り裂いて、敵の急所へと突き込む。
(――驚いた。前世では護身術程度だったのに……身体が勝手に動く。これは“ゲームで鍛えられたスキル”の影響?)
「レビリア様――!」
低く鋭い声。振り返れば、ポアロが疾風のように迫ってくる。
「私も参戦いたします」
その手に握られた短剣が、月光を反射して煌めいた瞬間――シュンッ。
短剣が飛び、敵の腕を正確に撃ち抜く。
悲鳴を上げた刺客が崩れ落ちる。
「――お願いします!」
背中合わせに構えるポアロと私。
わずかな合図で互いに動き、流れるように敵を制圧していく。
――結果、五分後。
広場に立っていた刺客たちは、全員地面に転がっていた。
⸻
「わぁぁぁ!レビリアたんもポアロも、かっこいい!!」
セピアが両手をバタバタさせて飛び跳ねる。
「ね!おねえちゃんすごい!めちゃくちゃ強いじゃん!」
リオが、誇らしそうににこにこしている。
(……何この二人。刺客を倒したっていうのに、めっちゃピクニックテンションじゃない)
私は剣を払い、深く息を吐いた。
(……でも、思ったよりも早く仕掛けてきた。まさか貴方がここまで焦っているとはね…。そこまでしてセピアを消したいの…?)




