アホ王子と結婚しろって、冗談ですよね?
「結婚、ですか?」
婚約破棄されたはずの私に、まさかの再プロポーズ(というか命令)が飛んできた。
「そうだ。相手は第三王子・セピア・グルース殿下。陛下のご命令だ」
……は?
いやいやいやいや。おかしいでしょ。だってセピア王子って――
「レビリアたん〜! ぴかぴかのおはな〜! きょうもキレイ〜!」
……はい、これです。これが現実です。
目の前で笑ってるのは、かつて“天才王子”とも呼ばれたセピア・グルース王子。
だけど今は、記憶喪失のせいで精神年齢ほぼ5歳。
おまけに噂じゃ、城の貴族たちから「アホ王子」って呼ばれてる始末。
そしてその隣には――
「セピア様、それは花壇です。勝手に入っちゃダメです。はい、手、こっち」
小さな男の子が、セピアの手を引いて優しく注意していた。
くせ毛の混じる明るい茶色の髪、大きな瞳にぱっと咲いたような笑顔。
(……え、天使?)
「ぼく、リオ。よろしくね、おねーちゃん!」
「えっ……う、うん。レビリア、よ。よろしく……?」
なんかもう、訳がわからない。
話をまとめると――
・第一王子が外の女との間に作った子供を
・育児が面倒だからってセピアに押し付けて
・そのセピアは崖から落ちて記憶喪失になり
・今は精神子供化してリオに育てられていて
・そのセピアと、私が、結婚させられる……?
「いやいやいやいや!!! 無理です無理です無理です!!!!!」
叫んだ私を、執務官が冷たい目で一瞥する。
「お忘れなく。あなたは公爵家令嬢です。婚約破棄の際に残った“政略的借り”のためにも、結婚していただきます」
「っていうか私、結婚願望ゼロですからぁぁああああ!!!!!」
前世のトラウマが叫んでる。
男ってだけで警戒レベルマックスなのに、アホになった王子とか新ジャンルすぎる。
そのとき、すっと小さな手が私のスカートの裾を引いた。
「ねえ、おねーちゃん、いっしょにごはん、たべよ?」
……ああ、リオくん、それは反則です。
かわいすぎて何も言えない。
でも……だからって……私、この結婚、受け入れるの……?
アホ王子との政略結婚、波乱の第一日目が、幕を開けた。




