さんにんいっしょー家族のかたちー
王宮から戻ったその日、
レビリアはまだ昼前の柔らかな光の中で、リオと向き合っていた。
「ねぇ、おねえちゃん……」
リオは少し不安げに、アクアマリンの瞳でレビリアを見上げた。
「……ちょっとね、むずかしい話はよくわからなかったんだけど……」
「ぼく……ずっとここにいてもいいの? おねえちゃんと、セピア様のそばに、いられるの?」
レビリアは、優しく微笑む。
「もちろんよ。あなたは私たちにとって、とっても大切な存在なの。
だから、これからも――三人で、ずっと一緒に暮らしていくの」
その言葉を聞いた瞬間、リオの表情がパッと明るくなる。
セピア王子は満面の笑顔でリアを抱きしめる。
「さんにん!いっしょー! リオもレビリアたんも、すきすきー!」
思わず抱きしめたくなるような無邪気な笑顔に、レビリアもそっと膝をつき、
その小さな身体を抱きしめた。
(本当の母親のことも、父親のことも――今のリオにはまだ早い。
知るべき時が来たら、きちんと伝えるわ。
でも今は、ただこの子に“安心”と“愛”を)
その日の午後、王宮からの公式な発表が行われた。
──リオ・グルースは、王族の血を引く者であることを証明され、
──正式に、第三王子セピア・グルースの“養子”として迎え入れられた、と。
その報を境に、これまでリオを訝しんでいた周囲の声はぴたりと止まり、
彼を“王族の一員”として扱うようになった。
(……やっと、平和が戻ってきたわね)
リビングで紅茶を飲みながら、レビリアはぽつりと呟いた。
ふと、脳裏によみがえるのは――晩餐会でのあの瞬間。
「クラリーチェさんきらい。リオのこと、わるくいった。レビリアたんのこと、わるくいった。
……むかしも、そんなふうに……」
(……あのとき、セピア王子、「昔も」って言ってたわよね?)
(まさか……記憶が、戻り始めてる……?)
レビリアは立ち上がり、静かにセピアのもとへ向かおうとする。
だが――その頃、王宮の奥、誰も近寄れぬ“黒翼の間”では、
まったく違う会話が進んでいた。
「……はぁ!? どういうことよ、なんで“あの子”が王族認定されてるの!?」
クラリーチェの怒声が静寂を裂いた。
苛立ちに指先を震わせながら、絹のドレスの裾を払う。
対面に立つのは第一王子・ガゼル。
だが彼もまた、機嫌は最悪だった。
「……知らん。父上が手を回したらしい。セピアのやつ、どこまで運がいいのか……」
「“運”? あの記憶もおぼつかない王子が!?
このままじゃ王位争いにまで関わってくる可能性があるのよ。私の計画が――」
「黙れ、クラリーチェ」
低く鋭い声が返る。
「……晩餐会、見てただろ。セピアは“何か”を思い出した。
あの目は……俺のことを“知ってる目”だった。あのバカが、記憶を……戻しつつある」
クラリーチェの表情が一瞬で凍りついた。
「……じゃあ、“嘘”がバレる?」
「……あぁ。あの夜、崖の上で何があったか、全部――な」
ガゼルの唇が歪む。
「それに、リオとかいうガキも邪魔だ。セピアの“人間らしさ”を保ってる原因になってやがる」
「じゃあ……潰しましょう。“記憶”も、“絆”も、全部壊せばいいのよ」
ガゼルはゆっくりと椅子にもたれ、冷笑を浮かべた。




