眠れぬ夜に守るべきものを知る
「下手にこの証拠を持って動いたら、間違いなく妨害されるわね……」
レビリアは、手元にあるリオの出生を証明する書類を見つめたまま、眉を寄せた。
ガゼルやクラリーチェの手の早さを思えば、この“鍵”を長く手元に置いておくのは危険すぎる。
(ならば、やるべきことは一つ)
「……明日の朝一番で、陛下に直談判よ」
ここで“言葉”ではなく、“証拠”を突きつけて、リオをセピア王子の養子として正式に迎えたい旨を伝える。
それが、リオを守る唯一の道。
(……失敗すれば、全てを失う。だけど、それでも)
視線を向けた先、セピアとリオがベッドで寄り添うように眠っていた。
セピアはリオの頭をそっと抱え込むように腕を回し、
リオは安心しきった寝顔で、胸元に頬をくっつけていた。
(この時間を……この笑顔を、絶対に壊させたりしない)
「……守ってみせるわ。たとえ、この命を全部かけたとしても」
そう小さく呟きながら、レビリアは自分のベッドに静かに横になる。
***
――深夜。
「……うぅ……っ」
かすかな泣き声に、レビリアは目を覚ました。
静寂を破るように響く子どものすすり泣き。
目を開けると、泣いていたのはリオだった。
「リオ……? どうしたの?」
珍しく動揺して、レビリアはすぐに体を起こし、そっとリオを抱き寄せる。
「……あのね……こわい夢、見たの……」
「夢……?」
「うん……お姉ちゃんと、セピア様が……ぼくの前からいなくなっちゃって……
ひとりぼっちになって、ずっと、ずっと寂しくて……すごく、こわくて……」
アクアマリンの瞳から、ぽろぽろと大粒の涙がこぼれる。
「……リオ……」
レビリアは優しく、リオの頭を撫でた。
「大丈夫よ。私も、セピア王子も、絶対にあなたの元から離れたりなんてしないわ。
……あなたは、私たちの大切な子なんだから」
(本当の母親は、自ら命を絶った。
父親は、その存在を否定し、押し付けた。
……そんな残酷な真実を、この子に言えるわけがない)
(だったら、私とセピア王子が、この子に"本物の家族の愛情"をあげればいい)
「ほんとに……? ぼくたち、かぞく?」
「……ええ、家族よ」
リオはようやく涙をぬぐい、にっこりと笑った。
「……よかった……お姉ちゃん、ありがとう……」
そして、安心したように腕の中で眠る体勢に戻る。
レビリアはそっと微笑んで、彼の髪を撫でながら言った。
「……じゃあ、今日は歌を歌ってあげる。
きっと、今度こそ……いい夢が見られるはずよ」
ゆっくりと、優しく子守唄を紡ぎながら、
レビリアは眠りにつくまで、リオの頭をずっと撫で続けた。
――その小さな手が、もう寂しくならないように。
(……私は、全てを懸けて、あなたを守る。どんなに恐ろしい真実が待っていようと、
どんなに大きな権力が邪魔をしようと……あなたは、私の、大切な“家族”よ)




