王族の血を証明せよ
「……可愛いリオを罪に入れようなんて、ほんっとうにロクでもない大人たちね」
レビリアは唇を噛んだ。
王宮の宴の裏で、“リオが本当に王族の血を引いているのか”という噂が広がり始めていた。
「……悪役令嬢がいつまでもニコニコ笑ってると思ったら、大間違いなんだから!」
今までみたいに、笑って流してやりすごせる話じゃない。
リオを“偽物”にしようとするなら、私の名にかけて、全員を敵に回してでも守るわ!
(証明するには……ガゼル王子に問い詰めて認めさせる?)
いや、それはほぼ不可能。
自分の子供を押しつけておきながら、今さら「知らない顔」をして、
そのうえ“血筋を疑う”なんて――
「……マジでクソすぎて話にならないわ……!」
でも、ガゼルがダメなら――もう一人、**“証人”**がいる。
「リオの……本当のお母さんよ!」
すぐにレビリアは、離宮の廊下を駆けていた。
向かったのは、忠実なる執事・ポアロのもと。
「ポアロさん、お願いがあるの。リオのお母さんを――探してほしいの!」
そう訴えると、ポアロは一瞬、眉を寄せ、そして静かに目を伏せた。
「……レビリア様。
その件については、すでに……私が調べてあります」
「……え?」
ポアロは深く一礼した後、重たい声で語り出す。
「リオ様の本当のお母様は、すでにお亡くなりになられております。
それは……まだセピア様が記憶を失われる四年前のことです」
レビリアは目を見開いた。
ポアロは、離宮の書庫の奥へと彼女を案内し、
鍵のかかった古い箱を開いた。
中には、数枚の紙と……一通の手紙があった。
「……ガゼル殿下が、ある日突然リオ様を連れてきたのです。
“これはセピアの子だ”と、セピア様の元に――」
「は……?」
レビリアは一瞬、理解が追いつかなかった。
ポアロは、静かに続ける。
「当時、セピア様の婚約者だったクラリーチェ様は激怒し、"こんな子を外で作るなんて恥さらし”と、セピア様を罵倒しました。……ですが、セピア様は清廉潔白なお方です。
そのような真似をするわけがないと、私自らリオ様の出自を調べました。」
「じゃあ……やっぱり……」
「はい。リオ様の実の母の名はリズ。商家の娘で、それはそれは可憐な女性だったそうです。
ですが、偶然参加した上流階級のパーティーで――ガゼル殿下に目をつけられてしまった」
レビリアの心臓が、ドクンと音を立てる。
「……ガゼル殿下は、リズ様に無理やり行為を迫りました。その後、彼女は妊娠してしまったのです。…ですが、妊娠を知ったリズ様は、誰にも言えず、ひとりでリオ様を産みました。
そして――心を病み、命を絶たれました」
レビリアは、思わず膝から崩れ落ちそうになった。
(ガゼル……なんて男なの……残酷すぎるわ…。)
「リズ様のご両親は、娘を死に追いやった男の子など育てられるかと憤り……ガゼル殿下は多額の金を払って“すべて”を闇に葬りました。
……そしてリオ様を引き取りましたが、育てるつもりなど毛頭なく、“地位を脅かす厄介な存在”として、セピア様に押しつけたのです」
レビリアは、セピアの姿を思い出す。
記憶を失う前も今も、変わらず優しくリオに接している彼の姿。
「……セピア様は、リオ様の過去を知り……
“こんな可哀想な子を、せめて自分だけは守らなければ”と……男手ひとつでリオ様を育てる決意をされたのです。
……陛下にリオ様を養子として迎えてもらおうとしていた、その矢先に、あの崖の事件が――」
ポアロは、一枚の紙を差し出す。
「こちらが、リオ様がガゼル殿下とリズ様の間に生まれた証拠でございます」
そこには、リズの身元、出産の記録、ガゼルとリズが参加したパーティー記録、
そして――リオの血液型と一致する医療報告書。
「……これさえあれば、リオが王族の血を引いてること、証明できるのよね?」
「ええ。……ただし、お覚悟を」
レビリアは、すっと立ち上がる。
その顔には、笑みはない。だが、確かな決意があった。
「……私は、“悪役令嬢”よ?
嘘も、罠も、暴いて踏み倒してみせるわ――
リオを、そしてセピアを、誰にも傷つけさせないために!」




