その瞳は真実を語る
晩餐会の会場。
煌びやかな衣装の貴族たちが集まり、
音楽と香の中、舞踏と会話の輪が華やかに繰り広げられていた。
その中央に、まるで“飾りのように”立っていたセピア、リオ、レビリア。
そんな中、ふとした瞬間に起こった“出来事”が、流れを変えた。
「……あら、小さな坊や。迷子かしら?」
声をかけてきたのは、ガゼルの取り巻きのひとりである大臣令嬢。
その視線は、明らかにリオを侮った色をしていた。
「そんな子供がここにいていいの? まさか、お手伝い?」
リオが少し困った顔をしたその時──
「リオはラウンドン王国の血を継ぐ者だよ。ぼくの……大事な“弟”」
突然、横から割り込むようにセピアが声を上げた。
周囲がざわめく。
「え……今、“弟”って……?」
「まさか……セピア様が……?」
その空気の中、リオは一歩前に出て、ゆっくりと礼をした。
「お招きいただき、ありがとうございます。
僕は、セピアお兄ちゃんとレビリアお姉ちゃんと、一緒に来ました」
大人びたその所作に、周囲の空気がピタリと止まる。
――王族の品位と、気高さ。
小さなその身から放たれた“本物”の空気に、誰もが目を見張った。
「……な、なによ。子供のくせに……!」
令嬢が顔をしかめたその瞬間。
「おやおや、これはこれは」
軽やかな声が、空気を割るように響いた。
現れたのは、ガゼル王子だった。
「まさか、あの“問題児”セピアが、こんなに“整った姿”で現れるとは。
……ふふ、レビリア嬢の手腕ですか?」
「どうかしら。セピア王子自身の魅力でしょう。……それとも何か、問題でも?」
レビリアの目は笑っていたが、静かに敵意を滲ませていた。
「まさか。私はただ、国の未来を案じているだけです」
ガゼルはそう言いながら、リオの方へ視線を向ける。
「――それにしても、その子供は一体?」
「“王族”として紹介されましたが、記録にも戸籍にも、そんな存在はない」
クラリーチェが、背後から追い打ちをかけるように笑う。
「本当に王族の子なのかしら? まさか、セピア様の妄言で……?
……ねぇレビリア、あなた“前科”あるわよね。
男を惑わせて、地位を狙うのが得意なんでしょう?」
(……きた)
明らかに“リオの存在”そのものを狙った罠。
もし、ここでリオの血統が“嘘”だと証明されれば、レビリアも共犯として断罪される。
「なにそれ……お姉ちゃんを、わるくいわないで!」
リオが、怒ったように一歩前に出た。
でも、そんなリオを、レビリアがスッと抱きしめる。
「ありがとう、リオ。……でも、大丈夫よ」
その時だった。
セピアが、ポツリとつぶやいた。
「……クラリーチェ。きらい」
「……え?」
「きらい。リオのこと、わるくいった。レビリアたんのこと、わるくいった。
……むかしも、そんなふうに……」
彼の瞳が揺れる。
レビリアはすぐに気づいた。
(……今の言い回し。“むかしも”って……?)
一瞬、セピアの言葉に、“記憶の片鱗”が混じっていた。く
そしてガゼルの眉が、わずかに動く。
「……やはり、まだ残っているのか……」
その呟きは、誰にも聞こえなかったが――
ガゼルの表情には、確かに焦りが滲んでいた。
***
その夜の宴は、波紋を残したまま終わった。
リオの存在は、「王族の子か否か」という噂として飛び交い、
レビリアには微笑の裏に潜む断罪の影が、
そしてセピアには、かすかな記憶の火種が――。
宴の裏側で、王族たちの“本気の攻防”が、始まろうとしていた。




