二人を守るために
「わぁぁ……レビリアたん、きれいぃぃ〜〜♡♡」
「うんうん!ほんとにお姫さまみたいだよ、おねえちゃん!」
「……ふふ。ありがと。二人も、本当に似合ってるわよ」
***
その空気を、乱す者がいた。
「ごきげんよう、レビリア様。まさかここで、悪名高き公爵家令嬢に再会するとはね…」
そう言って近づいてきたのは――クラリーチェ。
彼女の声は、会場にちょうどいい大きさで、周囲の視線を集めながら続ける。
「セピア様もリオ様もお元気そうで……ええ、すっかり“お世話係”が板についたわね。
あなたがこの場にいるのは、ただの同伴者? それとも、第三王子の“介護士”かしら?」
場がピリつく。
周囲の貴族たちが、面白がるようにこちらを伺っていた。
セピアは目をぱちくりとさせて、手を握ってきた。
「レビリアたん……?」
私は一瞬、いつものように“笑って流す”か迷った。
けれど。
(……もう、黙ってるだけじゃ、守れない)
私の後ろには、今にも泣きそうなセピアと、手をつなぐリオ。
だから私は、にこりと笑って──一歩、前に出た。
「介護士……ふふ、言い得て妙ね。
でも違うわ、私は彼らの“家族”よ。少なくとも、あなたみたいに見捨てたりはしない」
「……なっ」
「それに、“悪役”って、誰が決めたのかしら?
あなたこそ、セピア様が“普通の王子”だった頃に縋りついて、“アホ”になったとたん切り捨てたんですものね。世間的に見たらどちらが"悪役"かしら?」
クラリーチェの顔から笑みが消えた。
貴族たちがざわめき始める。
「では、あなたは今のセピア様を――」
「大事に思ってるわ。
“王子”だからじゃなくて、“セピア”だから」
その言葉を、セピアがじっと見ていた。
いつもの無邪気な笑顔じゃない。
何か、言葉にならない想いが、その瞳の奥で、わずかに揺れた。
***
「……はて?……」
ポアロが少し離れた位置で、静かに呟いた。
「セピア様……今、少しだけ……“昔の表情”をされました」
***
クラリーチェは唇を噛んでその場を離れ、
ガゼルの元へと戻っていく。
「……やはり、邪魔ね。あの女」
ガゼルは静かに頷いた。
「ならば、“次の一手”を使う時だ」
その“罠”の糸が、ゆっくりとレビリアへ絡み始めていた。




