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王族達の晩餐会

「……あ、やばい」


パーティーを明日に控え、離宮の空気はどこか落ち着かない。

セピアとリオの衣装やマナーに全神経を注ぎ込んでいた私は――


「自分のドレス、頼むの忘れてた」


目を見開いたまま、思考が止まる。


(どうする? 今からじゃ間に合わないし、既製品でなんとか…いやそれすら届かない……!)


「うーん、どうしたものか……」


部屋の椅子にぐったりと座り込んだその時だった。


「レビリア様」


静かにノックの音がして、入ってきたのはポアロだった。


「……ポアロさん?」


「レビリア様は、お忙しい日々でしたので。僭越ながら、私が代理でドレスを手配させていただきました」


差し出されたのは、美しいエメラルドグリーンのドレス。


裾にはリオの瞳を思わせるアクアマリンのダイヤモンドが流れるようにちりばめられ、

胸元にはセピアを象徴するような、透明感のあるエメラルドがひときわ輝いている。


「……これは、セピアと……リオの、瞳の色……」


静かにそれを抱きしめた瞬間、心がじんわりと温かくなった。


「ふふ……これだと、本当に家族みたいね」


私がそうつぶやくと、ポアロはほほ笑んだ。


「ええ。お三方は、もうとっくに家族でございますよ」


***


宴の当日、空は晴れ渡り、王宮にはもう人々のざわめきが届いていた。


「はい、手を上げてー。こっちはちょっと引っ張るわよ、我慢してね?」


「うわ〜、レビリアたんのお着替え、ていねい〜♡」


「だって今日は大事なパーティーなのよ。服装も、髪型も、TPOがあるの」


「てーぴーおー……?」


セピアは小さく首をかしげながら、鏡の中の自分を見ている。


レビリアはふふっと笑って、慣れた手つきでセピアの横髪を編み込み始めた。


「TPOっていうのはね、“時と場所と場合”に合わせて、身だしなみや言動を整えることよ」


「へえぇ〜……レビリアたん、ものしり〜!」


「当然です。私は公爵家令嬢よ。表舞台で生き残るには、それくらい身につけてないとね」


次にリオの前にしゃがみ込み、小さく微笑んだ。


「リオにも、同じ髪型にしてあげる」


「ほんと!? やったぁ〜!」


リオの髪はふわりと柔らかく、少しだけクセがある。

それでも器用に編み込み、セピアとおそろいのスタイルに仕上げた。


「ありがとう、お姉ちゃん!」


鏡の中で、まるで双子のように並んだセピアとリオが、くるりと回って笑い合う。


そして最後に、自分の髪をゆるくまとめ、首元が綺麗に見えるように団子に結い上げた。


「私はこれでいいかしら」


ポアロが後ろで、そっと声をかけた。


「レビリア様、たいへんお似合いでございます。……まるで、お三方が“本当の家族”のようです」


「……ふふ。そうね、きっとそうなのかもしれないわ」


***


そうして――


セピアとリオは、予定よりもずっと立派な装いになった。


セピアのエメラルドの燕尾服は、まるで彼の瞳がそのまま布に宿ったかのようで、

大人びた印象すら与える。


リオのアクアマリンのジャケットは、可愛らしくも凛とした王族らしい気品をまとっていた。


そしてレビリアのドレスは、

エメラルドとアクアマリンを基調としたその色が、まるで二人を包み込む絆そのもののように、上品に、あたたかく輝いていた。


その三人が、肩を並べてパーティー会場の入り口に立った瞬間――

静かだった会場に、驚きのようなざわめきが広がった。


「まさか……あの第三王子が……こんな姿で……?」


「付き添いのあの方は……悪評高き、レビリア嬢では?」


「……いや、まるで別人のようだわ。あの雰囲気、まるで……家族のよう……」


周囲の視線が注がれるなか、

三人はゆっくりと、一歩ずつその“舞台”へと足を踏み出していく。


――まさに今、宴の幕が上がったのだった。

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