お作法レッスン、開始5分で終了のお知らせ
王族のパーティー参加が正式に決まり、いよいよ始まった、セピア&リオのお作法レッスン。
講師としてやって来たのは、王宮でも“鬼教官”の異名を持つ老貴族、マダム・ミレーヌ。
背筋はピンと伸び、歩くだけで圧がすごい。
「まずは基本のテーブルマナーからですわよ。スプーン、フォーク、ナイフ……一つひとつの意味を理解していただきます」
「……ふむふむ。がんばりますっ!」
と、張り切るのはリオ。
問題は……もちろん。
「このフォーク、ピカピカだね〜!」
「セピア王子、投げないで!!!」
――シャインッ!
次の瞬間、フォークが華麗な弧を描いて宙を飛び、
そのままポアロの持っていたティーカップにカコンッと突き刺さった。
ポアロ:「……見事でございます、セピア様」
(褒めるな!!!)
ミレーヌ:「……第三王子殿下。フォークは槍ではありません」
「え〜? ちがうの〜? こうして〜、シュッてしたら〜、おせんべいとれるよ?」
「それは武器の発想なのよ!!!」
***
次のお題:スープの飲み方。
「では、スプーンは手前から奥にすくい、音を立てずに口元へ──」
「うわあああああ!!!」
(何事!?)
振り返ると、セピアがスープ皿に顔ごと突っ込んでいた。
「すーぷ、おいしぃ〜〜♡ さいこう〜♡」
「やめろおおおお!!!」
ミレーヌ:「……レビリア様、これは訓練ではなく、もはや調教ですわ」
「わかってます、私も泣きたいです」
***
一方その頃のリオ。
背筋を正して椅子に座り、ナプキンを膝に置き、
手元のカトラリーを正しく選んでスープをすする。
「……ん。あったかい」
マダム・ミレーヌ:「……完璧ですわ」
「リオすごっ!? もしかして私よりマナーいいのでは!?」
リオは首をかしげる。
「ううん、前にセピア様と一緒にちょっとだけお勉強したの。ポアロさんが、教えてくれた」
「え、ポアロさん有能……!?」
ポアロ:「リオ様は、筋がよろしゅうございます」
セピア:「リオ〜、ぼくのもたべて〜♡」
リオ:「ダメだよ、ちゃんと自分でやらなきゃ」
セピア:「え〜ん、レビリアた〜ん! リオがつめた〜い!」
「知らんがな!!!!」
***
――そうして、初日のレッスン終了後。
マダム・ミレーヌはハンカチで額の汗をぬぐいながら、
静かにこう言い残して去っていった。
「リオ様は将来、社交界の中心になるでしょう。セピア様は……彼なりに、お元気で」
(もう、期待することも諦められてる……)
セピアは今日も、フォークの軌道を独自に研究中だった。
「みて〜! さっきより高くとんだ〜♡」
「せめて誰かに当たらない距離でやってえええ!!!」
私は頭を抱えながら、心に決める。
――本番当日は、全力で“同伴者”としてフォローする!!!!!




