きっと新しい世界を
前作「きっと新しい世界は」のおまけになります。
見事な快晴だ。一つの国が消滅するというのに、全くもって見事な空だった。ここから見える城下町が廃れていなければ、もっと心は晴れやかだっただろうか。
私を中心として、両隣には妹のアイリーンが、そして王妃がいる。王妃は先ほどまで暴れていたが、もうその気力すら無くしたようだった。
どうしてだろうか。今日までかかっていた頭の靄が晴れた気がする。ずっとある種の呪いにかかり続けていたのだろう。
王妃は破天荒な女性だった。かつての学園では珍しい気質で、私も私の側近達もどんどん彼女にのめり込んでいった。
……でも、お前だけは違ったな。昔からアイリーンしか見ていなかったお前にはこの呪いは効果がなかった。今も充血した目で私の妹を睨みながら、暴れ続けてるお前には。
アイリーンは私をずっと見捨てないでいてくれた。彼女の諫言を無碍にしてすまなかったと思う。あの時受け入れていれば未来は別物だっただろうか。それでも私にとって王妃は鮮やかな存在だった。今でもそれは変わらない。彼女は私に本物の愛とやらを囁きつつも、他の者とも関係を持っていた。知っていた。彼女は呪いともいえるような魅了の魔法を使い続けていた。知っていた。それでも、私は彼女に幾度となく救われていたことも事実だった。でも、私はその甘い夢に浸り、現実を疎かにしていたのだな。
嗚呼、なんたる失態。この荒廃した城下町を、幼い頃に亡くなった母上や、最期まで国を想っていた父上はどうお思いになるだろうか。合わせる顔がない。いや、私が行くのは地獄だろうから、その機会はないか。
だが、せめてお前だけは、アイリーン。きっとお前には新しい世界を。
王妃と側近達は私が責任を持って地獄に連れて行こう。
隣国の王子が手を挙げた。
「 」
若き王子よ、すまないがこの先の未来を頼む。
◇
何が起こった?王妹の首を落とす寸前でその刃が止まった。彼女は気を失っているし、周りの者に動揺の色は見られない。彼らには予定通り首が落ちてるように見えているのか?
この気配は、幻影魔法か。あの男は妹の処刑を止めると同時に、彼女の刑が執行されたように見せる魔法を使ったのか?
轡を嵌められているのに魔法を使ったのか、
……死んでもなお、その魔法の効力を持たせ続けているというのか!
「王妹は地下の貴族牢に運んでおけ。その他の者は予定通りの場所へ。ああ、それと貴族牢の見張りはいらない。」
騎士が一瞬困惑した表情を見せたが、指示通りに素早く動き始めた。
私はその他の指示を飛ばしながら考える。私は別に王妹に慈悲を与えるつもりなど毛頭ない。王族としての責任は取ってもらう必要がある。だが、きっと今、王妹を処刑しようにも、私の刃や魔法は通らなくなっているのだろう。あの男はそれだけの才を死の直前に発揮した。嗚呼、実に惜しい。あの王妃の魅了だって、あの男にとっては造作もなかったはずなのに。
「殿下、すべての処理が完了しました。」
「そうか、ご苦労。私は所用を済ませてくる。」
あの王は、妹とその騎士の未来を願っていた。
先のことなど私にも分からない。だが、
「荷物をまとめてついてきてくれ。」
きっとあの男の最期の執念は、彼らに新しい世界をもたらすのだろう。