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 (2)

「ミランダ様、申し訳ございません。お話中ですから止めようとしたのですが、この方、想像以上に馬鹿力でして」

「何を言うか! そなたの方こそ女かと思うほどの怪力で、私が陛下をお助けしようとするのを邪魔していたではないか!」

「当然です。そもそもあなたの主である国王陛下が、ミランダ様とお二人で話すことを望まれたのです。それを臣下である私たちが邪魔する道理がどこにあるというのです」

「うぐっ、淡々と正論を述べおって……」


 地団太でも踏みそうな悔しげな顔をしていたクレソン公爵は、縋るようにディオンを振り返って叫んだ。


「陛下! この侍女の態度からもわかるようにやはりその女は王妃に相応しく、ひっ」


 突然喉元にナイフを押し当てられ、クレソン公爵は息を呑む。


「訂正しろ、爺。さもなくばおまえの喉元を今この場で掻っ切って――」

「やめなさい、ロジェ」


 何の躊躇いもなく公爵の息の根を止めようとするロジェを、ミランダは止めた。


「しかし、姫様」

「いいから、やめなさい」


 渋々といった様子でロジェがナイフを引っ込めると、クレソン公爵は腰が抜けたようでその場にへなへなと崩れ落ちた。突然二重人格のようにガラリと人格が変わったロジェに殺されかけたのだ。そうなるのも無理はない。


(今でもキレると昔の人格が出ちゃうのよね……)


 普段は丁寧な口調で物静かな印象を纏っているため、余計に怖く感じるだろう。


「ごめんなさい、クレソン卿」


 クレソン公爵は言葉も出てこないほど衝撃を受けたのか、ミランダとロジェの交互を呆然とした顔を見上げている。


「今のはおまえも悪いぞ、クレソン」

「へ、陛下」


 腰の抜けたクレソン公爵に手を貸しながらも、ディオンの顔は怒っていた。


「彼女が王妃に相応しくないなど、おまえに言ってほしくなかった」

「そ、そんな、陛下。私は陛下のためを思って……」

「おまえが心配するのはわかる。だが、過去の出来事とミランダを重ねるのは、ミランダに対して失礼だ。やめてくれ」

「陛下……」

「それに俺は、王妃であるミランダと共にこの国を治めていきたいと思っている。おまえが俺のことを思う臣下ならば、どうか理解して支えてほしい」


 国王の口から真摯にそう頼まれたのが一番の止めとなったのか、がっくりとクレソン公爵は肩を落とし、消え入るような小さな声で「陛下の仰せのままに」と呟いた。


 ディオンは公爵の肩を何度か軽く叩くと、立ち上がり、ミランダたちの方へ向き直った。


「すまなかった、ミラ」

「いえ、いいのです。聞かなかったことにしますわ」


 こちらこそ危うく国の重鎮に手をかけそうになったのだから、ここはお相子ということで見逃してもらおう。


「ありがとう。それで、彼は一体何者なんだ」


 彼、と言ったあたり、ロジェが女ではないことに気づいたようだ。


(まぁ、思いきりドスの利いた声で脅していたものね……)


 もともとロジェのことも打ち明けるつもりだったので、ミランダは人払いをして、ロジェと公爵を含めた四人になると、口を開いた。


「身内の恥を晒すようでお恥ずかしい限りですが、わたしの姉、ジュスティーヌはわたしの母に冷遇されておりました」


 ミランダは両親と異母姉の関係、ジュスティーヌを継母の手から逃れさせるためにディオンの国へ嫁がせようと考えたこと、しかし直前になって破綻してしまったことなど、洗いざらい白状した。


 わざと傲慢に振る舞って嫌がらせのつもりで姉にいろいろ援助していたのは恥ずかしかったので、あまり詳しくは述べなかったが、今まで言えなかったことは全て打ち明けることができた。


「なんと、まぁ……」


 話を聞く前まで主君に叱られてしょんぼり縮こまっていたクレソン公爵がまずそう言った。驚き、少し呆れたような、複雑そうな表情は彼の心情をよく伝えてくれる。


 ディオンは何を考えているか読めない表情で問いかけた。


「あなたは、どうして俺を姉君の婚約相手に推薦したんだ?」

「それは……陛下ならば、姉を幸せにしてくれると思ったからです」

「だが俺は……」

「こちらでも陛下のことを調べたのです。あなた方がいろいろとお調べになったようにね」


 口を挟んだロジェに、ディオンは黙って視線を向ける。クレソン公爵の方は胡乱な眼差しでじろじろと立っているロジェを見ていた。


「そうじろじろとご覧になられるとさすがに恥ずかしいです、クレソン卿」

「男とわかった今では、その態度がとんでもなく気色悪く感じられるな……」

「その気持ち悪い男に、そちらの何名かは陥落されているようでしたが?」


 そんなので大丈夫かとロジェが爽やかな笑みで伝えるので、ミランダは怒りを煽るなと肘鉄を食らわせた。


「いたっ、痛いです、姫様」

「余計なこと言わないの」

「私は事実を言ったまでですのに……」


 酷いです、とロジェはわざとらしく腕を擦って痛みを訴える。それに全く痛くないくせに……とミランダは呆れた眼差しで見やった。


「……ずいぶん、仲が良いのだな」


 二人のやり取りをじっと目にしていたディオンがぽつりと呟く。


 なぜか責められているような気がして、また誤解されていると思ったミランダが違うと言おうとしたが――


「それは当然です。なにせ陛下よりずっと長い付き合いですから」

「ロジェ」

「あなたよりも私の方が、ずっとずーっと姫様のことを知っていますよ」

「ロジェ!」


 なぜそんな煽るようなことを言うのだ。


「そうか俺よりずっと……」


(ディオン様もショック受けているし!)


「陛下! しっかりなさってください!」


 そんな彼をクレソン公爵が必死に慰めている。


「あの! 誤解しないください。ロジェとは主従関係に過ぎません。本当は、向こうにずっと居てもらう予定で置いてきたのですが、まさか侍女として紛れ込んでいるとは知らずに……わたしも驚きました」

「あなたも知らなかったのか?」

「ええ。ですからとても驚きました。お母様とお姉様のこと、今でも心配なのだけれど……」


 つい恨み言をぶつけるように呟いてしまう。ロジェはまたその話かと肩を竦める。


「以前も言いましたが、お二人とも大丈夫ですよ。私はもともと姫様の護衛も兼ねていますし、姉上についていてほしいとカミーユ様の頼みもあったからこちらへ来たのです」

「では女装などせずに普通に参上すればよかったではないか」


 クレソン公爵の指摘はもっともだ。


「それだとつまらない――いえ、誤解を与えてしまうでしょう? 私は男ですし、美しいですから」

「自分で美しいと言うやつは腹立つものだが、きみが言うと妙に説得力があるな」


 全く、とクレソン公爵も呆れながらディオンに同意した。ミランダは恥ずかしくて俯いてしまう。


「しかし、カミーユ殿が……」


 未来の国王の名前をディオンは神妙な顔で口にする。


「殿下にはもし機会があれば、陛下にもよろしく伝えてくれるよう頼まれました。『くれぐれも僕の大事な姉君を傷つけ、悲しませるようなことはしないでくれ』と」

「あの子、そんなこと言ったの?」


 初めて聞く内容にミランダは顔を上げて驚く。


「はい。『姉君はジュスティーヌ姉様や家族のことには熱心だけど、自分のことは二の次な面があるから、周りが気にかけないとダメなんだ』と心配なさっていました」

「自分のことは二の次……」


 ディオンが何か心当たりがあるような顔をするが、ミランダは気づかず、カミーユのくせに生意気なこと言って……とくすぐったいような、微笑ましい気持ちになった。


「その話を聞く限り……家族思いの方に思えますね」


 クレソン公爵がそう言うと、ロジェは頷きながら真剣な口調で述べた。


「我が主は決してあなた方が疑うような人間ではない。私の命に誓います」

「ロジェ……」


 二人とも考え込むように黙り込んでしまった。


     ◇


「姫様。勝手なことを申し上げて、怒っていますか?」


 ロジェと二人になると、どこかしおらしい態度で彼はそう訊いてきた。


「別に怒っていないわ。あなたが時々わたしのことで暴走するのは今までもあったことだし……でも、クレソン卿への振る舞いは、今後気をつけてね」


 本当ならばもっと大事になってもおかしくなかったのだが、国王であるディオンがとりなしてくれたおかげか、公爵自身も騒ぎ立てることはなかった。


「善処します」

「あなたの善処はいまいち信用できないのだけれど……それより、もういろいろとばれてしまったのだから、女装する必要はないんじゃない?」

「お二人からは特に何も言われませんでしたので、今しばらくこの格好でいろいろ探ろうかと考えています」


(それは二人とも、まさか女装を続けるとは思っていないからじゃない?) 


 とミランダは思ったが、ロジェが探ろうとしていることの方が気になった。


「まだ何か問題が起きているの?」

「いえ。ですが、ほら、今後姫様と陛下の仲が良い方向へ変わると、第二第三のフォンテーヌ夫人が現れるかもしれないでしょう?」


 ミランダはテーブルの上に視線をやり、どうかしらねと内心独り言つ。


「今後、どうなるかしら」


 ディオンはロジェが男性だとわかっても、こうして部屋で二人きりにさせた。その状態を許したのは、自分に愛想が尽きたからではないかとミランダは考えてしまう。今頃クレソン公爵と二人で改めて自分たちの処遇を決めているのではないか、とも。


「もし陛下が姫様を無造作に扱うようでしたら、遠慮せず国を出ればいいのです」


 さらりと言ってのけたロジェにミランダは思わず笑ってしまう。


「メナール国へ戻るの?」

「すぐには戻らずに、この国や他の国を豪遊するのもいいと思います。私もお供しますよ」

「まぁ、それは頼もしい」


 もし離縁されることになっても、自分には楽しいことが待っている。そう思うと、ミランダは心が軽くなった。


(ありがとね、ロジェ)


「そして姫様。お渡しするのが遅くなりましたが、ジュスティーヌ様からお手紙を預かっております」

「えっ、お姉様から!?」


 それを早く言ってよ、とミランダはロジェの手からひったくるように白い封筒を奪う。


「こ、これいつ届いたの? どうして早く渡してくれなかったの?」


「すみません。あちらを出立する前に、ジュスティーヌ様と少し話す機会がありまして、その際、姫様に手紙を書いてほしいと頼んだのです。それで昨夜、私の部下から届けられました。すぐにお渡ししようかと思ったのですが、茶会のことで頭がいっぱいなようでしたし、人付き合いでお疲れになられるだろうと思いまして、糖分代わりにお渡ししようと」


 もはやロジェの説明は耳に入って来ず、封を切る手が震えてしまう。なんて書いてあるのだろう。ミランダは緊張しながら甘い香りの漂う手紙に目を通していく。


『ミランダへ。結婚生活はいかがお過ごしでしょうか。新しい環境での生活はとても大変だと思います。私もそのことを実感しています。遠い異国の地での結婚生活は、またさらに苦労があることでしょう。でも、強くて優しいミランダならば、きっとグランディエ国とメナール国を繋ぐ架け橋になってくれると私は信じています。オラースに愛されて幸せを感じている今だからこそ気づいたのですが、あなたは今まで様々なことを考えて、ずっと私のことを気遣ってくれていたのですね。そうとも知らず、自分のことばかり考えて不幸に酔いしれていた自分が恥ずかしい限りです』


「お姉様に話したの?」


 ミランダはついロジェを非難するような目で問い詰めてしまう。ジュスティーヌには知られたくなかったからだ。


「ジュスティーヌ様自身が以前から疑問を抱いていたようで、私はただ質問に答えただけです。続きを読んでみてください」


『あなたはもしかするとロジェを疑うかもしれませんが、どうか彼を責めないでくださいね。私が、問い詰めてしまって、白状させたのですから』


(お姉様が? 信じられない)


『オラースに愛されているという実感が持てたからこそ、私も前を向く勇気が湧いてきたのです。それまでの私は、恥ずかしいことですが、何をするにも億劫になっていて、周囲のことに気を配る余裕がありませんでした』


 姉の境遇を踏まえれば当然だ。


『あなたは実の母親である王妃殿下と私のことで板挟みになり、さぞ気を揉んだことでしょう。それなのに私は何も知らず、のうのうと生きていた。誰かに助けてほしいと甘えたことを願って、自分からは何もしようとせず……本当に恥ずかしく思います』


(そんなこと思わなくていいのに)


 ミランダは別にジュスティーヌに感謝されたくて我儘な妹を演じていたわけではない。半分血の繋がった、大事な家族である姉に幸せに暮らしてほしいと思ったから、だから悪女でも何でもなってやろうと思ったのだ。


『あなたがずっと陰ながら支えていてくれたから、私は今とても幸せなのだと気づきました。今度は私があなたを支えたい。そう願っても、すでにグランディエ国へ嫁いでしまった状況では、難しいのかもしれません。ですからこの言葉を贈ります。どうかもう私のことは心配しないで。私はオラースと共に前を向いて歩いて行きます。もしかするとあなたのお義母様とぶつかることがあるかもしれませんが、もう泣いて逃げたりしません。きちんと立ち向かって、喧嘩します』


(お姉様が喧嘩……大丈夫かしら……)


『私は一人ではありません。愛する夫、オラースがいて、あなたが私に仕えるよう命じた、頼もしい使用人たちがたくさんいますからね。ですから何とかなると思います』


 どうやら使用人の件もばれてしまっているらしい。何だか恥ずかしい……。


『長々と書いてしまってごめんなさい。とにかく私はもう大丈夫ですから、ミランダはミランダ自身の幸せを追い求めてほしいのです。あなたが私のことを姉と慕ってくれたように、私もあなたをただ一人の妹として、愛おしく思っていますから。ミランダ、私の可愛い妹。あなたの幸せを遠くからでもずっと願っています。また、手紙を送りますね。ジュスティーヌ』


(お姉様……)


 姉が幸せに暮らしていることを知り、ミランダは目に涙を浮かべた。可愛い妹、という言葉に胸が苦しい。


「ミラ?」


 顔を上げると、目を丸くしてこちらを凝視するディオンの姿があった。


「どうした。何があった。ロジェ。おまえが泣かせたのか」


 どうやらディオンはミランダが悲しくて泣いていると勘違いしたようで、さらに元凶はロジェであると思いこんで、彼を鋭い眼光で睨みつけた。


「あ、違うのです、ディオン様。これは、お姉様からの手紙を読んでいて……」

「お姉様?」

「はい。ジュスティーヌ姉様は、今とても幸せだそうで、わたしの幸せも願ってくれて、可愛い妹とまでおっしゃってくれて、わたし、とても嬉しくて……」


 涙を流しながらも微笑むミランダにディオンは困惑していた様子だったが、ぎこちない手つきで涙を拭おうと手を伸ばし、頬に触れた。


 ミランダはディオンの温もりさえ嬉しく思えて、頬を押し当て、さらにくしゃりと笑った。


     ◇


「……お恥ずかしいところをお見せしてしまって、ごめんなさい」


 ミランダは寝台の縁に腰かけて、縮こまるように謝罪した。隣に座っているディオンにだ。


 夕食は部屋へ運んでもらい、二人で食べた。それから湯浴みをして、使用人も下がってようやく二人きりになれたところだ。


 ミランダはつい感情が昂って人目も気にせず涙してしまったことを今さらながら恥じた。


「いや、別に謝ることではないだろう」

「でも」

「それほど、あなたにとってジュスティーヌ殿は大切な方なのだろう」


 ディオンの言葉にミランダは素直に頷いた。


「はい。お姉様にはずっと幸せになっていたただきたいと思っていたので……本当に嬉しかったのです」

「……ミラ」

「はい」


 ディオンは姿勢を正し、なぜか頭を下げてきた。


「疑ってしまって、改めてすまなかった」


 ミランダは慌てていいのですとディオンの肩に触れた。


「やむをえない事情というものです。わたしは悪役に徹することで姉を助けようとしましたが、今思うと、他にも方法があったのではないかとも思うのです」


 回りくどい真似などせず、ジュスティーヌを助けたいと正直に述べて、姉に自信をつけさせる。そうして、二人で母と対峙するという道もあったかもしれない。


「だが、あなたは王妃である母親の心情もまた、理解し、傷つけたくはないと思ったのだろう? 大事な家族だからこそ、板挟みになっていた。……俺にも、その気持ちはよくわかる」

「ディオン様も?」


 彼はこくりと頷き、幼少時代のことを語ってくれた。


「俺の祖父は自分の兄を討って王位に即いた。苦渋の決断だったと聞かされた。初めは言葉で説得しようとしたが、聞き入れてもらえず……結局、力で王位から引きずり下ろすしかなかった」


 魔女に誑かされた、とミランダは聞いていたが、実情は麻薬漬けで精神共に乗っ取られており、当時の王妃や王太子の命も危なかったと言う。


「魔女を排除して終わり、というわけではなく、祖父は兄を処刑したことや、兄の家族がばらばらになってしまったことを気に病んでいた。たとえ、仕方がないことだったとしても……。いろいろ手を尽くしたが、元通りに戻るということはもう無理で……そのことで、息子である俺の父ともそりが合わず、言い争う姿を見たことがある」


 罪を犯した親族よりも、自分たちの家族や国民のことを考えて、優先してほしい。


 そういった不満をぶつけていたようだ。


「俺はどちらの気持ちもよく理解できた。為政者である父も本当は理解していたと思うが、自分の父親であるだけに割り切れない気持ちもあったのだと思う」


 ディオンが間に入って、仲をとりなしたこともあったそうだ。


 ミランダが母とジュスティーヌがぶつからず、どちらにも穏やかに暮らしてほしいと願ったように。


(お爺様だけでなく、ご両親もすでに亡くなられているのよね。もう二度と会えないからこそ、余計に後悔に駆られてしまうのかも……)


 自分にできたことがもっとあったのではないかと……。


「だから、あなたがどうにかしたい、という気持ちもわかる。それなのに俺は……」

「もういいのです」


 理解しようとしなかった自分をまだ責めようとするディオンにミランダは優しい声で止めた。


「あなたもわたしも自分の立場があったのですから。わたしは気にしていません。今こうしてあなたがわたしのことを理解しようしてくれている。それで十分ですし、嬉しく思っております。ありがとうございます、ディオン様」


 ミランダが微笑むと、ディオンは「ミラ……」と呟いたあと、いきなり抱きしめてきた。


「ディオン様?」

「あなたが、俺の妻でよかったと心の底から思う」


 大げさだとミランダは笑い、背中にそっと腕を回した。


「ディオン様。あなたさえよければ、これからもあなたのことを教えてください」

「もちろん。……俺も、もっとあなたのことが知りたい」


 抱擁を少し緩め、ディオンがじっと自分を見つめてくる。


 琥珀色の瞳には熱が宿っており、ミランダは気づけば彼に口づけされていた。結婚式で儀礼的に交わした口づけとは違う。


「いいか?」


 耳元で囁かれ、ミランダはこくりと頷いた。

 二人はそのまま寝台に沈んだ。


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