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第9話 魔法使い

第二章・鳥籠

 1

 男の目線が消えたのを確認して、奇流とスイは路地裏へ身を潜めた。すっかり暗くなったが、帰るつもりはなかった。まずはスイと話すのが先決だ。奇流は口を開いた。

「お前一体何者なんだ」

 奇流の疑問にスイは伏し目がちになる。「学校で魔法学は習っていません?」と肩をすくめると、奇流の返事を待った。しかし奇流は小さく「俺、学校行けないから」とスイに告げた。しかしすぐに明るく両手を広げて続けた。

「でもドクターに勉強は教えてもらってるからな。魔法は俺が好きな分野だ! まだまだ勉強不足だけど」

 スイは腕を組んで首を回す。そして話し出した。

「簡単に説明すると、僕は魔法を具現化した存在です」

 奇流にわかりやすいように噛み砕いて説明する。

「この世界には光と闇の力があります。光は人を癒す力。例えば治癒魔法が代表的です。闇は全てを滅ぼす力。地、水、火、風の四元素に強力な闇の力を加える。するとそれは恐ろしい力となって、全てを壊滅させる物となります。僕は光の魔法を人間の姿に変化させた存在なんです。古くから魔法はこの大陸で当たり前に使用されていました。それは習いましたよね?」

 スイは淡々と語った。奇流の知識はドクターから得た物だ。学校でどう指導されているかはわからないが、確かに魔法の存在は奇流も幼い頃から知っていた。そしてドクターも言っていた。ヘブンズヒルとガーベルジュの大戦の時、魔法を使って国が壊滅状態になったと。

「魔法は単体では効力を発揮できません。あくまでも器となる魔法使いの主人がいて、契約をしてこそ存在できるのです。そしてその主人が死ねば、今度は別の器が誕生する時にそこに宿る。そして契約。その繰り返しです」

 しばらく唖然とする奇流だったが、思い出してスイに問う。

「でもそうだ。魔法の使用は禁止されたはずだ」

 奇流は必死にドクターの話を思い出す。あの大戦以降魔法の使用は一切禁じられた。皆が驚愕する惨状に、国民は猛反発した。魔法の禁止を望む国民の意見と、東側も闇魔法を禁止すると言い出したので、さすがの王族もそれに従う他なかったのだ。

「この大陸は魔法が禁じられ、次第に世界から魔法と言う存在が薄れていった。主人の死と共に光と闇も長い眠りについた。魔法が薄れたこの大陸で、本来僕は目覚めるはずではなかったんですよ。しかしあなたの命が危険に晒された瞬間、僕は目覚めた」

 スイは顎に親指を当て思考する。奇流はそんなスイを見つめ、ぽつりと漏らした。

「俺が魔法使い?」

 スイは奇流の全身を眺め、伏し目がちに言う。

「そうですよ。しかし僕が目覚めた以上、闇の力もどこかで誕生した可能性は充分考えられます。これは不味い事態です」

「不味い事態?」

「ええ、闇魔法はこの世を消し去る事さえ可能な、強力な物です。もし悪用する人間が主人となったら、この世は終わりですから」

 奇流は生唾を飲み込んだ。そして神妙な面持ちのまま黙り込む。「契約すれば、あなたは光の魔法使いとしての力を得ますよ」と言ったが、突然の出来事に奇流は即答できなかった。

 何も言わない奇流を横目に、スイはふわりと浮いたまま宙返りをした。体がなまっているのか、動きを一つ一つ確かめるように様々な部分を動かす。そんなスイを眺めたまま奇流はその場に座り込んだ。抑揚のない調子で契約や魔法の使い方について説明されるが、魔法の存在を知ってはいてもすんなりとのみ込めない。自身が魔法使いではないかと思った事はあったが、それはこの世界に住む子供達の大多数が抱く淡い夢だったのだ。

 奇流は曖昧な相槌を打ち、再びドクターの行方について思考を巡らせた。マリベル村へ行こうにも、あの男に目をつけられた以上難しい。しかしそこに何かある。奇流の直感はそう囁いているのだ。何もせず黙ったままでは、王牙が先にドクターを発見してしまう。

「サイガ国雅」

 ぽつりと言ったスイに、奇流ははっとした。聞き覚えのある名前だった。スイは奇流の後ろに指を向ける。顔を上げると、建物の壁に一枚の紙が貼られていた。

『国王即位式が中止! ドクターワタライ謎の失踪』

 奇流は飛び起きた。路地裏を申し訳程度に照らす街灯を頼りに、目を見開いてその見出しに釘付けになった。

『国王即位式が延期となった件で、王族からの詳しい説明は未だなされていないが、背景にはドクターワタライの謎の失踪が関係するとみられる。国王即位予定と噂されていた王宮専属護衛団・王牙団長サイガ国雅氏は何も語らなかったが、自身の晴れの場に水をさされ怒り気味か――』

 奇流は文字を指でなぞる。そこには一枚の写真が載っていた。先程まで対峙し、兵士を何の躊躇いもなく切り捨てた男が写っている。そうだ、サイガだ。奇流は空乃との会話を思い出した。

「一国の国王になろうともする人間が、あんな残忍でいいのかよ……」

 奇流は紙面を指差しながらスイに言った。

「恐らく護衛団の名を聞けば、国民は国全体を守ってくれる頼りになる部隊と錯覚するでしょう。サイガは言っていた。あくまでも王族を護衛する立場であり、他はどうなろうと関係ないと。しかし国民は気が付かないうちに、自分達の都合よく置き換えている。いざとなったら自分達を守ってくれると。まあ護衛団の存在は、他国からの襲撃の抑止力にはなると思いますがね」

 スイの言葉に奇流は絶句した。確かにそうだ。王牙は国民のヒーロー。柚もそう言っていた。

「ひとまず帰宅して休んだ方がいい。それからどうするか考えればいいのでは」

 スイの言葉に奇流はかぶりを振った。「それは無理だ」奇流の言葉にスイは眉を潜める。

「もう帰らない覚悟で家を出た。もたもたしてるとドクターが危ない。王牙に先に見つかれば即刻処刑だ。何が何でも先に俺達が見つけるしかないんだよ」

 威勢よく語る奇流を横目に、スイはさてどうしたものかと思考を巡らすと、頭上からの殺気を察知し素早く奇流を抱いて道へ倒れ込んだ。

「さっすが奇流ちゃん! 頭上の攻撃も物ともしないなんて!」

 いててとゆっくり上体を起こすと、「空乃」と奇流は呆れた顔で言う。

「奇流ちゃんちに行ったらいないって言うし。もう暗いのに帰らないの?」

 スイはペラペラと明るく話す空乃を不審そうに眺める。奇妙な出で立ちの少女。空乃はスイが目に入っていないかと思う程、彼を蚊帳の外に奇流と話す。そんな様子にスイは次第に苛立ちを覚えた。

「いや、まあ。ちょっとやる事があって、当分帰れないんだよ」

 奇流の言葉に空乃は猛攻撃を仕掛ける。

「え! 何で何で何で? 何するの! あたちも協力するわ!」

 空乃の申し出に奇流は困った顔をした。

「いや、本当に当分帰れないかもしれないんだ。そんなもんに友達は巻き込めない」

 すると空乃はにやりと唇の端を歪めた。「百リッチでどう?」親指と人差し指を丸め、お金を形どる。奇流は思わず噴き出した。

「おいおい金とんのかよ」

「あったりまえよ! この空乃ちゃん、どんな事もできますとも! 犬の散歩、五百リッチ。家事代行、千リッチ。落とし穴作成、二千リッチ」

 ヘブンズヒルの物価はチョコレート一枚約百リッチ。それを考えれば百リッチで何でも協力する空乃は善人だ。奇流は苦笑する。

「人捜し、五千リッチ」

 そのフレーズに奇流ははっとした。その様子を見逃さなかった空乃は、奇流の顔を覗き込んで目いっぱい背伸びをする。

「奇流ちゃん、やっぱりおじいちゃん捜したいんでしょ。あたちわかるわ! 奇流ちゃんは大事なお友達だもん。今回は特別に、友情価格の百リッチであたちも捜してあげる! ね、決定!」

「待った!」割って入ったスイに、空乃は初めて存在に気がついたかのような表情を浮かべ、すぐに「何よ」と無愛想に投げかけた。「商売の邪魔はさせないわよ」

空乃は両手の指を重ね、ぽきぽきと鳴らす。小柄ではあるがサイガとはまた違った威圧感を感じながら、スイはふんと鼻を鳴らす。

「さっきの殺気は何ですか」

 眉を潜めて問いただす。

「……さむっ」

 空乃は身震いして口をすぼめた。

「ごまかすな! 先程感じたのは間違いなく殺気だ! 友情価格? ふざけないで頂きたい。どこの世界に、大事なお友達を殺そうとするやつがいるんですかね」

 スイは追及の手を緩めない。空乃の顔に近づき、今にもぶつかりそうな距離で吐き捨てた。

「よってあなたの協力など不要。今すぐ立ち去れ。それができないなら――」

 スイは目を細めた。空乃は何も言わない。しかしすぐにははっと笑いを漏らした。

「殺気? あたちが奇流ちゃんに?」

 奇流に視線を変えて空乃は言った。

「当たり前じゃない。奇流ちゃんはあたちが、必ず殺すもの」

 さすがのスイもぎょっとした面持ちで固まった。そして奇流を見ると、困ったように笑う姿がそこにはあった。


 三人は空乃の家に移動した。中央広場から西へ数百メートル。それ程離れていないのに景色が一変する。廃墟が軒を連ね、明らかに異様な雰囲気を醸し出す。ここはヘブンズヒル城下町の中で唯一の汚点と呼ばれる地区だった。元は兵士が多く住む栄えた場所だったが、ガーベルジュとの大戦によって多くの犠牲者を出した。それ以来夜な夜な剣を振りかざす兵士の霊が出る、呻き声が聞こえる、夜道を追いかけられたと様々な噂が絶えず、恐怖した人々は次第にこの地区を後にした。それ以来厳重な門で締め切り、人々の往来は最小限に抑えられた。現在は片手で数える程の住人しかいない。空乃もそのうちの一人だった。

「臭い物には蓋をしろか」

 スイは辺りを見回しながら呟いた。奇流も複雑な面持ちで辺りを見渡し、空乃に目線を移す。門一つによって、まるで華やかな城下町から隔離するかの如く存在するこの場所に、奇流は来る度に胸が締め付けられた。そんな奇流の様子を察してか、空乃は明るい調子で口を開いた。

「あたちは生まれた時からだから、なれたもんよ」

 奇流は空乃の頭を撫でた。「ちょっとー。子供扱いしないでよね」と唇を尖らせる空乃だったが、その表情はどこか照れくささを隠したようだった。二人のやり取りを黙って見ていたスイが、咳払いをして声をかける。

「奇流さんは、ドクターワタライの居場所に見当はついてます?」

 奇流が話し出す前に、空乃が割って入った。

「あたちは知らない。大体奇流ちゃんのおじいちゃんなんて、直接会った事ないもん」

「……あなたに聞いていませんよ」

 呆れた表情で、スイは若干語気を強めて空乃に言い放つ。

「僕はあなたを信用していない。当然ですよね。自らの主人を必ず殺すなんて言われたら、信用しろと言う方が無理な話だ。なるべくなら関わりたくない。しかし主人が着いて行く以上、僕はそれに従わなければいけない」

 奇流はスイの言葉を聞いて、そっと口を開いた。

「ここが空乃の家だよ」

 指差した先には、今にも崩れそうなコンクリート造りの平屋が見えた。

「中で話そう」

 スイと空乃の肩をぽんと叩き、三人は向かった。

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