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春越えて、君を想えるか ~好きとか恋愛とかよくわからなくてもカラダを重ねた曖昧なボクら~  作者: 御子柴 流歌
4th Act: 学校祭本番と真夏の準…

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4-21: 嵐のような午前も過ぎて


 嵐のような午前の部がようやく終わった。


 本当に時間経過が遅く感じた。普段の仕事でこんなに時計の針が遅く感じたこともない。時間というのは本当に底意地が悪いもので、早く過ぎてくれと思えば思うほどに遅くなるように出来ている。


「深沢くん、おつかれさまー」


「……うん」


「うわ、ホントに疲れてる」


「絶対にお客さんに見せられない顔になってるね」


 岩瀬の労いにどうにか応えれば、岡本と坂下が苦笑いを浮かべていた。


「まぁでも、俺以外も結構疲れてるでしょ」


「疲れてはいるけど、……ねえ?」


「蓮くんが大抵カバーしてくれてたし、そうでもないかも」


「なら良かった」


 そう言ってもらえるならば。本望とまでは言うつもりもないけれど、一助になったのであれば充分だろう。


「さてさて、午前の部担当のみんなはお昼休憩入ってねー」


 何はともあれこれにて各教室の模擬店は午後の部へ引き継がれる。岩瀬は軽く昼を食べてまた店長業務に戻るようだ。他の模擬店や展示を見なくても良いのかとクラスメイトからは言われていたが、それよりもこの昭和レトロ喫茶を切り盛りしている方が楽しいといいうことで。


「あんまり根詰め過ぎないようにな」


「ありがとー。……いざとなったら深沢くん招聘させてもらうね」


「それは……」


 勘弁してくれ、と口から出かかるが、ちょっと考える。


「本当に『いざ』って時が来たら、な」


「お。心強い。……でもたぶん大丈夫だと思うから、あとは楽しんで来てね」


 手を振りながらそう言ってくれる岩瀬店長。柄でもないようなことを言った自覚は有るが、それでも満足そうな反応が見られたので御の字だろう。


 実際のところ、わりと疲れも来ている。喉も渇いた。


 お昼休憩としては特別教室を使って食堂が展開されているし、本校生徒用として売店も開けてある。何かしらを買って適当に食べておきたいところ――。


「あ!」


「どーした」


 嫌な予感のする呼び止められ方だが。


「カフェ制服はそのままでお願いねー」


 マジかよ。いや、いちいち着替えるのも面倒かなとは思い始めていたけれど。


「……絶対どっかで招聘する気満々じゃねえか」


「午前中の宣伝効果が絶大すぎたから、そのままお昼も午後もお願いね、ってことでしょ?」


「そうそう! さすが、いっしょに宣伝してくれただけある」


 そう言われてしまうと無碍に断ることは出来ない。クラス対抗という側面もあるわけで、それをサボるのは如何なモノか――と思ってしまっては、首を横に振るなんてことができるわけなかった。


「りょーかい。じゃあ適当にほっつき歩いていることにするよ。ヘルプ必須になりそうなら呼んでくれてイイから」


「よろしくねー」


「おつかれさまー」


 残業の可能性はあるけれど、予め決められていたクラスでの任務はすべて終了。


 あとは――俺に課せられた任務だけだ。




     ○




 食堂スペースにやってきた。


 ここまで来るにも結構な人の数が居た。何なら自分の教室から出た瞬間に即刻スマホを向けられたからたまったもんじゃない。思わず回れ右をして、我らが店長に「撮影はご遠慮ください!」と叫んでもらう羽目になるとは思わなかった。


 結局は午前中のシフトに入る前と少し似た状況――『無許可撮影はご遠慮ください』と書かれた名札のようなモノを首から提げるということで対応を図ることにした。


 とはいえ、教室を出た瞬間から何十回とシャッター音を聞かされることになったので、文字を読む気も無いヤツらしかいないことは解っていた。結局はこちらが人目に付かないルートを通ることで自衛策を採るしか無い。


 そんなこんなでやってきた食堂スペースなわけで、いつもの数十倍は疲れたと言って間違いない。何を食べようかと考えるだけの体力もまともに残っていない。せめて座るところが確保できれば、後はどうでもいいとすら思える。


 時間帯も昼メシ時のピークを少し過ぎたくらいではあるのだが、それでも結構な混雑具合。適当に菓子パンとかを買い込んで人気の無い階段あたりで喰った方が良いのではないだろうか。


 ――そんなことを思っていたときだった。


「あれ?」


「ん?」


 もはや完全に『聞き慣れた声』が聞こえてきた。――聞き飽きた声なんて言ったら間違いなく怒られるだろうから、これで正解だろう。


「レンレン、席無いの?」


 俺のことをこう呼ぶのはたったひとりしかいない。稲村咲妃だ。


 もちろん咲妃の隣には二階堂菜那がいる。


 そして、何故かふたりの両側は空いている。


 ――いや、わかる。何故かではない。何となくその理由はわかる。


 きっと誰もがその席を狙いつつ、牽制しつつ、結局誰もそこに座る勇気が無いだけだ。


 声をかけようとしてもキレイに遇われるか、完膚なきまでにフラれるかのどっちか。それに明らかに敵を作りたくもないという感情もあるだろう。


 菜那は少なくともそういう輩を相手にしないし、もう少し人当たりは良さそうに見える咲妃の方から懐柔しようとしても無駄だろう。このふたりから声をかけない限り、誰もその両脇に座ることは出来なかったのではないだろうか。結局このふたりは、防御力も攻撃力も桁ハズレだ。


「席もあんまり無いけど、また何食べるかすらまともに決めてない」


「じゃあコレとかおすすめだけど」


 そういう咲妃の手元を見てみると天ぷら蕎麦があった。このあたりは冷房もほどよく効いているので温かいモノでも問題は無さそうだった。これに冷たいお茶あたりを付ければ喉の渇きも癒やせそうだ。


「だったら俺もそれにしようかな」


「ん。早くおいで」


 何と言うことはない。そんな口調であっさりと告げられる。


「……相席よろしいので?」


「何を今更。ねえ菜那」


「そうね」


 それは咲妃だけではなく、菜那も同じようだった。


 若干周りの視線はさらに痛く感じるようになった気もするが、現状そんなことを言ってられない。


 ――何せ、俺は今、腹が減っているからだ。


 直ぐさま踵を返して蕎麦とお茶を購入。若干急ぎ足気味に戻れば、まだふたりの両サイドは空いていた。何ならその周辺にも何故か余裕が出来ている。


 何だろう。そこまで畏怖されるべき存在だったりするのだろうか。俺の与り知らないところで。


「おかえりー」


「ただいま」


「お疲れさま」


「そっちも……って、シフトは午後だもんな」


「そうね」


 そんな会話をしたところで、さて俺はどこへ座れば良いのやらと少し悩む。


 ある程度席にも余裕が出来ているのだから、だったらどこでも良いのだが――。


「ん?」


 悩んでいる間に、パズルの盤面は変わっていたようだ。


 菜那がひとつ隣の椅子へズレている。


 俺の目の前の椅子――咲妃と菜那の間がぽっかりと空いている。


 ええ、っと。


 ――ココに座れと?


「空いてますよ、ここ」


 菜那はクールにそんなことを言う。咲妃はにんまりとした笑みを隠そうとしない。


 つまり、この空いたところへ座れということらしい。


 なるほど。俺が諸々を買いに行っている間に考えていたってことか。


「どうぞ。JKが温めた椅子へ」


「妙に生々しいこと言うのヤメレ」


 まぁいい。そこでわざわざどちらかへズレるのもおかしな話だ。座るしかない。


「助かったでしょ?」


「……席が空いていたのと、昼メシのオススメを教えてくれたのは助かった」


「それで充分でしょ?」


「まぁ。背に腹は代えられないしな」


 ズズッと蕎麦をひと啜りしながら応える。たしかに、出汁が旨い。あと、持ち運びのときの事故を最小限にするためか、汁の温度が少し控えめになっているのも助かる。これ以上汗をかかずに済みそうだ。間違いない、これは正解だ。


 しかし、ムフフと笑む咲妃の顔。だいたい理由は分かる。分かってしまうのが何ともむず痒い感じはするが。


「私たちとしても、またレンレンの制服姿見られたから有り難いわ」


 予想的中。そういうことだろうとは思っていた。カフェ制服フェチとして認定して良いのだろうか。指摘したとしてもあっさりとそれを認めた上で余計なことを言ってきそうな気配もあるのでここは黙っておく。


「『私たち』じゃないでしょ。咲妃が満足してるだけだから」


「レンレン安心して。アレ、ただの照れ隠しだから」


「……もう」


 反論をしようとするもあっさりと白旗を掲げる菜那。もう一言くらい言い返すかと思っていたので、珍しい感じがする。


「それにしても、スゴいわねそれ」


「ん?」


 話を変えるためなのか、菜那がそんなことを言う。何がスゴいのかと思いつつ菜那の指すモノを見れば、それは俺の胸元にある『無許可撮影はご遠慮ください』の文字。


「あぁ、これね……。昼休憩しようとしたら出待ちみたいなことされてて」


「ほら。やっぱり私たちの目は間違ってなかったってワケよ。ね、菜那?」


「……」


 あ、無視した。

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