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春越えて、君を想えるか ~好きとか恋愛とかよくわからなくてもカラダを重ねた曖昧なボクら~  作者: 御子柴 流歌
4th Act: 学校祭本番と真夏の準…

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4-19: 本気を出すちょっと手前で留めるのが大事


 どうにかこうにか教室に戻ってくることができた。


 大袈裟ではない。本当に『何とか戻ってきた』感じだ。(いわ)()が俺を見るなり「すっごい疲れて見えるけど何かあったの?」と言ってくるくらいなので、これは俺だけがそう思っているわけでもないようだ。


 当然ながら、その原因は(おか)(もと)(さか)(した)だ。


 本当の要因を辿るのならば()(かい)(どう)()()なのかもしれないが、そんなことを言われても菜那が困るだけなので、大人しく岡本と坂下のせいにしておく。


 ただしばらくの間、校内をほんのりコスプレっぽい感じの衣装のままで練り歩く――。それだけであればちょっとだけ精神力が削られるだけで済むと思っていたが、それは大きな勘違いだった。思っていた数十倍は俺のメンタルを削っていった。


 ただでさえ不慣れなことをした上に、あのふたりとの遭遇とそれに対する尋問が本当に厄介だった。


 何でこんなことになってしまったのかと自分を恨みたくもなる。不測の事態が起きるということを一切考えていなかった俺が、あまりにも愚かだっただけなのだが、それにしてもこの仕打ちはあんまりだと思う。


 結局宣伝なんかほぼそっちのけ。岡本と坂下のふたりはほぼ俺の尋問に時間を費やした。


 ふたりに言わせれば『(ふか)(ざわ)くんがその格好で歩いてくれるだけで宣伝になってるはずだから気にしないで』ということらしいが、その目が明らかに血走っている感じにも見えて恐怖だった。


 当然ながら話題の中心に置かれたのは、俺と二階堂菜那の関係性について。


 そうなった理由はただひとつ――なぜ彼女は俺に対してワケアリな視線を送っていたのか、ということらしい。


 その視線を向けられる前に俺は外方を向いていたのだが、そういうことならばちょっとだけは意識を通り過ぎていく菜那と咲妃に向けておくべきだったし、同時に岡本と坂下の意識は窓の外にでも振っておくべきだった。


 岡本と坂下はものすごく興味津々な様子であらゆることをあらゆる方向から聞き出そうとしてくるので、俺はどうにかそれを躱そうとするので精一杯。余計なことを言わないということだけを心がけたつもりだったが、数分間にも及ぶ尋問ののち渋々という感じで質問を止めてくれたので、どうにか生き長らえたような心地だった。


 もちろん一応は自由時間の中ではあったので、その後はある程度自由にはさせてもらった。俺が気になっていた展示を見る事も出来たし、ちょっとだけ他クラスの売り上げへの貢献もした。もちろん岡本と坂下の希望にも従った??まぁ、明らかにこっちの時間の方が長かったし、そのせいで教室に戻る時間もギリギリにはなったが、結構楽しめたので御の字だ。


 ただそれでもやっぱり疲労感はヤバい。


(れん)よぉ」


「……何だよ」


「お前、なんでもうそんな疲れてんの?」


 教室の片隅にロッカーなどで区切った控え室のような場所で、何も知らない(りょう)(へい)が訊いてくる。


「……同じ目に遭えば解る」


「え、ヤってきたの?」


「ばかやろう」


 そういうことじゃない。


 何も知らないって本当に幸せなことなんだな、とそんなことを思う日曜日の午前。


「でも蓮たちのおかげでコレだからな。マジでナイスよ」


「……それならイイんだけどもな」


 コレと言いながら亮平が指すのは教室の活況。


 なんやかんやと詰問されながら歩いていただけなのだが、それがかなり目立っていたのか何なのか。教室に戻ってびっくり、ウチのクラスの昭和レトロ喫茶はかなりの人気スポットになっていた。岡本と坂下の言うことは一切信用していなかったのだが、どうやら本当に宣伝効果はあったようだ。


 まだ昼前ということで長居する人が少ない分回転率は良いらしいが、それでもちょっとだけ列が出来ているほど。装飾担当が凝ってくれた部分を撮ってくれている人も多い。好感触な出足だった。


「じゃあ俺は遊んでくるぜー」


「おー、お疲れさーん」


 午前の前半を担当することになっていた亮平は身支度を調えて教室を出て行った。俺に対してああいうことを言ってきた亮平だが、接客はそこそこ大変だったのだろう。アイツもアイツでちょっと疲れた顔と声をしていた。


 そんな亮平を目で追っていくと、自然に視界に入ってくるのはウチのクラス目当てのお客様たち。教室の中には男性女性が半々くらいかあるいはやや女性が多いくらいだが、列の大半は女性客といった具合。


 列が出来ている原因は何かと言えば、単純にヒトの手が回りきっていないだけらしい。座席には余裕があるのだからしっかりと入れてしまえば良いだけだろうと思ったが、恐らく現状動いている店員のキャパを考えて少しだけ制限を入れているようだ。


 が、この教室外の行列というのはちょっと厄介で、放置しているタイミングで生徒会からの視察が入った場合最悪減点対象になって今夜発表の表彰に悪影響を及ぼす危険性がある。そもそも隣のクラスなどに迷惑がかかるのでそうでなくても無闇に長い行列の放置は回避するべきだった。


「……さて。どうしますかね」




     ○




 結論から言えば、回転率は上がった。


 予備で置いてあった机と椅子を設置した上で、フロア担当が少しだけがんばればイイだろうという判断をしてもらったことで、教室の外の行列はある程度解消することができた。


 フロア担当を増やすと言っても限度はある。ひとりだけキッチン担当から割り振ってもらう程度だ。さすがに自由時間の子を呼び付けるわけにはいかない。


 だったらどうするのかと言えば、一家言あるヤツが踏ん張れば良いということだった。アイディアを出してしまったのだから、その責任を取るのも役目だろうということで、それは納得している。一応ではあるが。


「……ふぅ」


 ウエイターの待機場はキッチンの真横。ウチのカフェバーとだいたい同じなのは何の因果か。キッチンといってもこちらは火気厳禁、だいたいは電気で賄えるのでその辺りは違うけれど。


 時刻は11時を少し過ぎたくらい。待機列はなくなり、教室内の座席も埋まりきった。回転率向上のため追加オーダーはお断りするということも通知済みなので、しばらくは何事もないはずだ。


「深沢くん、深沢くん」


「はいはい」


 キッチン担当の岩瀬さんに呼ばれる。2回呼ばれたので2回返事して、ちょっとだけ遊んでみる。『ハイは1度でよろしい』などというツッコミは来なかったのでひと安心。


「スゴいね、深沢くん。ここからちょいちょい見てたけど、途中分身してたのかなってくらいの動きに見えたよ」


「むしろ分身の術を覚えてから臨みたかったくらいだなぁ……」


 フロアから視線を外さないまま言う。実際伯父さんのところで働いているときにはそんなことを思ってしまうこともある。ただ今回の場合は座席数も客数もそこまで多くはないし、何よりメニューが少ない。考えなければいけないパターンが少ないので接客業のいろはさえ解っていればどうにかなるという認識だった。


「いやいや、そういうことじゃなくてさぁ」


「ん?」


「慣れてるねえ、ってことよ」


 すっかり慣れた感じでやってきた岡本と坂下。同時に両サイドから挟まれる。何だか最早定位置感を醸し出しているのも流石というか何というか。俺には真似できない。


「さっきの小っちゃい子向けの接客とか」


「そうそう。目線合わせるの早かったよね」


「あれはまぁ……、何かそういう風にやった方がイイっていうのをテレビで見てさ。あの、ほら、テーマパークのキャストがやってて」


 一応、言っていることは事実。ただ、本当のことを言っているわけでもない。小さい子には目線を合わせて安心させてあげることが大事なのは間違いないが、それをテレビで見たときに体得したわけではないという話だった。


 小さい子――というのは、実は菜那や()()のクラスの担任である(おお)(まち)先生のお姉さんの娘さんだとか。粗相があっては良くないということでいつもよりはしっかりと応対させてもらった感はあるが、そのおかげかとても良い子にしてくれている。ずっとこっちに手を振ってくれているのがとてもカワイイ。


「めっちゃ早口になるじゃん」


「自己肯定感高めろー?」


 しかしそれで逃がしてくれるふたりではないことは学校祭期間中に思い知らされている。本当にこのふたり容赦してくれない。『(いな)(むら)80%』がふたりに増えた感じ。


「……良いんだよ、俺のことはさぁ」


「照れてる照れてる」


「さっきから全然目線合わせてくれないし」


「あっ。それはたぶん、フロアから目を離さないようにしているだけだと思うよ」


 ――バレてた。


「あ、そういうこと……!」


「これで慣れてないっていうのはウソじゃん」


 うりうりと両サイドから肘で突かれる始末。もはやどうしようもない。


 誰か俺をこんな窮地から救ってくれるスーパースターはいないのか――。


「……あ」「えっ?」「おっ」「わっ」


 居た。というか来た。俺を含めた4人の反応がだいたい揃う。


 とはいえ、本当に窮地から救ってくれるかは完全に俺次第だろうか。


 教室の入り口。そこに顔を出してきたのは稲村咲妃と二階堂菜那のふたりだった。



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