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春越えて、君を想えるか ~好きとか恋愛とかよくわからなくてもカラダを重ねた曖昧なボクら~  作者: 御子柴 流歌
4th Act: 学校祭本番と真夏の準…

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4-1: 佳境になった学校祭準備


 ――無事に月曜日の朝を迎えることができた。そしてどうにか自分の教室へと辿り着くことができた。


 最初は「このまま寝付けるのだろうか」という心配ばかりが支配していたベッドの上には、いつの間にか「このまま翌朝起きられるのだろうか」という心配が横たわることになったのだが。


 実際のところ、ベッドに横になるところまでは気持ちの昂ぶりを明確に感じるくらいだったのだが、身体の方が存外疲れていたらしく即刻眠りの世界へと堕ちていったらしい。


 ただ、もしかすると、気持ちの方にも疲労感は溜まっていたのかもしれない。


 今までやったことのないバイクのふたり乗りを、いきなり複数回。


 しかもその相棒は女子――それも学校内では頻繁に評判を耳にする()(かい)(どう)()()だ。


 正直に言おう、他の誰よりも緊張した。相手に何かあってはいけないというのは誰だろうと変わらないのだが、恐らくこれ以上緊張することは無い気がする。


 とはいえ、(たの)しかったこともまた事実だった。


 しかし、それよりも――。


 どうしても。


 無事に再び二階堂菜那を彼女の自宅へと送り届けた後も何となく昂ぶったままだった気持ちは自宅で風呂に入っているときも変わらなかった――というか、むしろさらに悪化したとすら言えるくらいだった。


 何せ()()()()()()()()()を想像してしまったから。


 これはもう仕方ない。それがこの世の摂理というモノだろう。


 もちろん本来であればそんな夢見心地のままでは居られない。


 男子高校生が足掻いたところで月曜日はやってくるし、学校には行かなければいけない。


 ところが、学校に着けば着いたで何となく校舎内全体が夢見心地のような、どこかふわふわとした雰囲気になっていることもまた確かだった。悪く言えば浮き足立っているとも言えるかもしれない。


 その原因はとても単純。今週末に迫っている学校祭のせいだろう。


 校舎内や教室内に、それぞれが使う装飾品がチラチラと見えていれば、それは即ち非現実的空間の入り口だった。現にウチの教室の後ろの方には、屋内作業組がせっせと作り込んでいる模擬店用の装飾に使う布やら紙やらが一部雑然と置かれている。わりとキラキラしているものだから、非現実感の演出には一役も二役も買いそうだった。


「おー、おはよう(れん)


「おっす」


 いつもなら俺よりも遅く登校してくるはずの(いま)(いずみ)(しょう)()が妙に爽やかな空気を纏ってやってきた。


 妙だなと思いつつ見れば、その手にはボディシート。


 なるほど原因はコレか。ケアは大事。


「朝作業か」


「おうよ」


 既に何かしらのシゴトを終えた後だろうとは思ったが、案の定だった。


 ウチの学校祭で外で行う作業と言えば、その場所は校舎裏のテントの中。(あん)(どん)(ぎょう)(れつ)というイベントのための行燈の制作だ。


 男子高校生が20人単位で必死になって担がなければいけないくらいの規模感で各クラス1基ずつ制作される行燈は、学祭期間中に一般参加者を含む人気投票が行われる。


 模擬店などの投票結果も合わせた上で、後夜祭でその結果を発表するというのは大方基本的な学校祭の流れだが、行燈に関しては人気投票上位5基が毎年夏休み期間中に開催されるこの街の祭りに山車(だし)のようなモノとして出展されることになっている。


 つまり、他の部門よりもちょっとだけ栄誉感が高いのだ。


「集合かかってたっけ?」


「いや? 別に」


 昨夜から朝にかけては、少なくとも俺が見える範囲での招集はかかっていなかったはずだ。記憶違いじゃなくて助かった。


「そんなもんお構いなしに蓮ならいつ来てくれても良いんだが?」


「……じゃあとりあえず明日からは朝も行くよ。放課後はそもそも行くつもりだったけど」


「マジ? それはわりと助かる」


 何も参加しないというのも、それはそれで気持ち悪いモノだ。それは去年ちょっとだけ思い知ったことではある。やらないならやらないで一向に構わないのだが、俺の身体にはそのスタンスが受け付けられなかったという話だ。




     ○




 授業が始まれば、ようやく教室内も少しばかりは夢見心地から引き戻されてくる。


 もちろん中にはしっかりと夢を見ている生徒も居るようだし、何なら俺もその仲間入りをしかけたが、どうにか悪目立ちをすることなく放課後を迎えることができた。


「蓮、そっち頼むわ」


「おー」


 さっきの古文の授業のおかげか、妙にスッキリとした顔をした翔太が俺に指示を飛ばしてくる。その過程は断じて褒められたものではないが、ココでグダグダとされるよりはマシか――と思うことにする。


 今は片一方だけ少し複雑な削り加工を施した長尺の木材を、絶妙なねじれの角度で固定してそれを鎹と釘とでガッチリと固定する作業。かなり大事そうな部分。これがズレたりしたら今後のバランスに関わるだろうし、万が一外れたら大惨事確定。しっかりやらないとマズいところだ。


「よしっ、……これで大丈夫か?」


「うーん……。あー、ちょっと待った」


 一旦コチラ側へと翔太を呼び寄せる。


「一応ココに穴開けて太めの針金通して、こっち側の柱と固定した方が良いかもしれない。最終的にはコレと繋がるんだろ?」


「確かに!」


 見せ方が重要な部分であるだけに、あまり太い構造物にしたくない気持ちはわかる。でも安全性はやはり無視してはいけない部分でもある。


 再度翔太に部材の固定を担当してもらいつつ、作業を進める。途中から何人かにも手伝ってもらいながら作業完了。少々揺すってみたが先ほどよりもしっかりと固定できているのがハッキリと分かった。


「まだ不安があるならこっちの柱の下に(すじ)()い通せば大丈夫だと思う。やるなら早めかな」


「筋交い?」


「こういう骨組みのところに、対角線で木材留めるヤツ」


「ああ、なるほど!」


「うわ、マジでナイスだわ、深沢くん」


「イイねえイイねえ」


「おーすげえ。何だよぉ、こういうの得意なら言ってくれよ~」


 不意に称賛の嵐が巻き起こる。気分自体は悪くはないのだが、居心地が良いような悪いような。何とも言えない感じ。


「よっしゃ、蓮。次の仕事だっ」


 どうにもテンションが高い翔太。


「ん。今度はどれだ?」


「行くぞ」


 翔太は満面の笑みで親指を立て、その指でそのままテントの外を指した。


「……まさか、また生徒会の方か?」


「察しが良いなぁ」


「そりゃあなぁ」


 コイツには俺を騙くらかして散々な大荷物を持たせたという()()がある。


「大丈夫だ。今回は俺も行くから」


「『今回は』って。お前、ある程度は()()()()があったんだな」


 あまり使いたい表現ではないが、「俗に言われる用法での『確信犯』」であることが確定した瞬間だった。


「まぁまぁまぁまぁまぁ」


「うっせえわ」


 精神的に不健康になる前にさっさと行くことにしよう。




     ○




「……やっぱり多いじゃねえか。重くないだけマシだなんて、俺は思わないからな」


「悪い悪い。まぁ行くぞ」


 想定通りではあるが、悪いなんて一切思っていない声が後方から聞こえてくる。振り向いて確認しようにも、その声の主の姿はあまりよく見えていない。もちろんそっちからも俺は良く見えないだろう。


 前回と違って重量はそれほどでもないのだが、とにかく嵩が問題だった。模造紙やらシートやら装飾などに使う部材一式が段ボール箱の中へ雑多に突っ込まれているようなシロモノ。そんなブツが生徒会室の奥の方で確認出来た瞬間から嫌な予感はしていた。案の定過ぎる展開にまともな勢いの溜め息すら出なかった。


 とはいえ、グダグダ文句を言っている時間もなければ、余裕も無い。向かうべきところが確定している以上、お届けモノはさっさと届けるべきだ。


「で? まずは教室に行くのか」


「察しが良くて助かるわ」


「だいたい見りゃ分かる。行燈用のだな」


 薄手の紙は張り子細工のように貼り付けるために使われるモノ。ウマく透過するくらいの塗り方をすれば夜の点灯式ではかなり幻想的になってくれるのだ。


 正面玄関直結の階段へと向かい、そこから俺たちの教室へ。歩き慣れすぎた道のりではあるが、視界の半分以上は小道具で埋められている。とくに階段で足を踏み外したら大変なことになるので慎重になる。


「……ぉ」


 上階から誰かが降りてきたので、あまり邪魔にならないようにと少しだけ端に寄る。


「あっ」


「ぉう」


 すれ違い様、何ともなしにお互いがお互いの顔を確認し合うカタチ。


 そして、向こうの片割れは少し楽しげに、もう片方は少しだけその目を大きくし、俺は何ともコミュ障染みた声を漏らした。


 もはやあまりにも見知った顔――(いな)(むら)()()と二階堂菜那のふたりだった。



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