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春越えて、君を想えるか ~好きとか恋愛とかよくわからなくてもカラダを重ねた曖昧なボクら~  作者: 御子柴 流歌
3rd Act: テスト本番と学校祭準備と

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3-12: お礼の約束ともどかしい帰路


 コーヒーブレイクとほぼ同時にスイーツブレイク。


 ()(かい)(どう)ご所望のピーチソルベをご提供、これにて俺はお役御免――かと思いきや、何やら言いたげに見つめられてしまってはどうしようもないので、俺も同じモノをいただくことにした。さすがにこれについては俺の給料から天引きということになったが、仕方ない。本来は(まかな)いメシにデザートなんてモノは付いてこないからな。


 ――さて。双方のグラスが空になったところでいい加減この話題をしっかりと現実に近いところにまで運んでこないといけないだろう。


 あまりこういう風に二階堂とサシになることもないので、このタイミングを逃すと後々面倒になるはずだ。


「そういえば、さ」


「何?」


「前に言っていた『お礼』の件なんだけど」


「……ああ」


 瞬間考えたようだったが、二階堂はすぐに思い出してくれた。


「たしかに、そんなことを言っていた気がするわ」


「うん」


「本気にしていて良かったのね」


「さすがにね。これについては『(オトコ)に二言は無い』ってヤツだ」


 後は、意地もある。小指の爪ほどのプライドでしかないが。


「一応どういう風にしようかとかは考えてたんだけどさ」


「うん」


 相鎚も心地良い。


「学祭終わりの休みの日とか、何か予定あるかな、って思って。もちろんそっちのクラスの打ち上げとかもあるだろうからその辺りを摺り合わせられたら良いかなと」


 7月ど真ん中、金・土・日の週末3日間で開催される学校祭。その直後と言えばほぼ夏休みではあるが、あくまでも『ほぼ』。翌日の月曜日は片付けがあり、その次の日から再び授業。学校祭の分の振替休日は木曜・金曜に割り当てられ、そこからが夏休み――という日程になっている。


 学校祭終わりといえばクラスごとに打ち上げが開催されるが、それらはだいたいこの水曜日以降から発生しがちだった。俺と二階堂が同じクラスであれば話が早かったのだが、残念なことに隣のクラス。この辺りは把握しておく必要があった。


「私は水曜日だけど」


「俺が木曜日だ」


「じゃあその後ね」


 どうするか。あまり後ろに伸ばしてしまってもイイ感じはしないが。


「……そもそも私、普段から予定が入ってるタイプじゃないから、深沢くんの都合に任せるわよ」


「え、そう?」


 そんなことを言われてふと思い浮かぶ、(いな)(むら)()()の顔。


 彼奴が大抵連れ回してたりしないのだろうか。


「……咲妃の予定より優先するから安心して。スケジュールを先に入れようとしてくれた深沢くんを優先するのは当然でしょ」


「ありがとう。……よく分かったな」


 何だか察されたようだが、そうしてくれると本当にありがたいのでお言葉に甘える。


「分かるわよ。それで、どうする?」


「疲れてそうなところ悪いけど、その次の日の金曜日とかでも良いかな? 夕方から夜にかかるかもしれない時間帯なんだけど」


「良いわよ。……むしろ深沢くんのここでのバイトに支障はない?」


 まさか二階堂に心配してもらえるとは思っていなかった。


「大丈夫、そこら辺はフレキシブルだから」


 とっても都合の良い言い方だ、『フレキシブル』。


 もちろんその実態は『テキトー』。


 学校がある時期であれば水曜日だけ禁止でその他は夕方まで、週末はお昼過ぎ当たりまでと概ねの規定はあるが、長期休みに入ってしまえばあとは適当。本当に適当。入れる時にぎっちり入ることもあれば伯父さんから強制的に連休を作られることもあるし、俺に何らかの予定が入れば確実にそれを優先させてもらえる。


「そう。だったら、金曜日で」


「了解」


「ちなみに、夜になるかもっていうのは?」


「あー、うん」


 そりゃそうだ。今まではほとんど陽の高い間に会っていた。何の意図が在るか確認するのは当然だろう。


 元々どういうことをしたいか――どういうところに行きたいかというのは伝える予定では居たので話の流れとしても助かる。こういうところにサプライズは不要なのだよ。


「まず訊いておきたいのが『こういう感じのところは好きか?』って話なんだけど……」


 スマホのウェブブラウザを開く。固定タブにして保存してあるページが今回の目当ての場所の公式サイト。


「……嫌いでは無いわ、少なくとも」


 細かい所は実際に行って見ないとわからないけど、という雰囲気を言外に伝えてくる二階堂。とても正直な感想で助かる。


 画面に映っているのは、ここから電車で数十分揺られて着く街にある、おしゃれな感じのバー風な食事処。対象年齢はやや大人向けの雰囲気はあるものの、SNS映えを気にする若年の客層も開拓しているそうだ。


「言ってしまえば『研究』とかそういうのもある」


「ああ、なるほど。たしかに、ちょっとココのお店に似てるかも」


 そう、メインの理由はそれ。俺の好みでもあるこのカフェバーの雰囲気にとても似ていて行ってみたいと思っていたのだが、なかなか行く機会もなく、かつひとりで行くのも何だか気が引けてしまっていた。


 そこで連れて行くのが二階堂()()というのは、なかなかどうして『身分を(わきま)えろ』とか知り合いの男子連中に吊し上げを喰らいそうな話ではあるのだが。


「うん。分かったわ」


「よっしゃ。じゃあココに行こう。っつーか連れてく」


 ここまで来ればあとは強行突破。ほとんどの工程は済んでいるとはいえ、ラストの一押しを油断してはいけない――と思う。


「ディナーメニューをいっしょにっていう方針なんだけど、その辺は気にしないでくれ」


「え?」


「最初に言ったろ? 『これはお礼だ』って」


 そう、これはあくまでもお礼の意味を多分に込めている。だからこそここはちょっとだけかっこつけたくなる部分。予想通りだが二階堂が押しとどめようとしてくるが、ここを押し切る必要がある。


「あと、そこまで高くないから安心してくれ」


「……そう?」


 いつものように納得して飲み込んでくれる感じの『そう』ではない、少し探るような『そう?』だった。あまり聞いたことが無いバージョンだ。そういうのもあったのか。


「……だったらまぁ、その、交通費だけは自己負担にさせていただければと」


「それくらいは」


 ただ、付け焼き刃のカッコ付けなので当然最後まで保つわけもなく、ここで緩和。


 もちろん二階堂への妥協の意味合いもある。


 どうだろうかと彼女の様子を伺えば、半ば諦めたように鋭くひとつ息を吐いた。


「いくら連れて行くと言ってもそこまでお世話になる気はないわよ」


 そう言って、二階堂は珍しくハッキリと分かるくらいの笑みを見せた。




     ○




 諸々の結果を含めてフルコースのような満足感を得ながら、予定より早い帰路。結局本当に仕事終わりになった俺はこれ以上店内に居る理由も無いので、当然帰宅するほかは無い。


 今日は徒歩。そして、隣には二階堂がいる。


 伯父さんにがっしりと肩を寄せられながら『送っていってやるもんだろう。なぁ?』と半ば脅された部分もあるが、出来るならそうしたかったところなので渡りに船ではあった。


「そういえば、今日はバイクじゃないのね?」


「え?」


 何故それを――。


「……ああ、稲村に聞いたのか」


「ええ、まぁ」


 考えるまでも無い。知っているのは身内以外では稲村が唯一だったので答えに行き着くのは容易かった。


 たしかに稲村(アイツ)は、二階堂にだけはオープンにするらしい。


「帰りに買い物とかする予定があれば乗ってくるけど、今日はとくに無かったからな」


 他にもちょっと遠出をするとか、夜までに他の用事が外であるときには乗ってくるが、今日のようにとくに予定がなければ使わない。


「そう」


 ――ん?


 声色が、いつもと違うというか。


 若干残念がっているような気配が。


 ということは――。


「……乗ってみたかった?」


「少しは」


 そういうことか。


「じゃあ、検討する」


 口では『少し』と言ったモノの、そのリアクションタイムがあまりにも早かったので、結構な前のめり感がある。二階堂にしては珍しい。


 だったら、次回――があるのかどうかは解らないが、来週はバイクで来ておこうか。


「ただ……さっきのお店に行く時はさすがに電車にするつもりだけど、それでいいかな」


「そうね」


 残念そうな声が聞こえてくるかと思いきや、意外にもフラットな返答。


「そこまで深沢くんに負担をかけるわけにはいかないわ」


「ありがたい」


 俺自身、伯父さんのドライブに文字通り後ろにくっついて乗ったことはあるが、誰かを後ろに乗せたことはない。少々の荷物とはワケが違う。


 絶対に、傷物になんてさせてはいけないのだ。


「……あ」


 そんなことを考えている間に、目前に迫る巨大な邸宅――二階堂邸。


 これにて俺はお役御免となる――。


「……寄っていく?」


 あまりにも何でもない感じで二階堂は訊いてきた。


 さて。どうする?


 誰かが居た場合は挨拶とかそういうのが大変そうというか何というか。


 逆に誰も居ない場合にしても、それはそれで「じゃあ寄ってく」なんて答えるのも、ちょっと露骨過ぎるというかずる剥けが過ぎるというか。何というか。


 何というか。


 何と言おうか。


「――いや、今日は、……止めとこうかな」


 結局、俺は日和った。ただただ冷静であることを装おうとした。


「……そう」


「じゃあ、気を付けて……じゃないわ。違うわ」


「そうね。もう着いたし。ありがとう、深沢くん」


「ああ、うん。じゃあ、また。学校で」


「ええ」


 何とも形容出来ない帰り際。少なくとも若い恋人同士が別れを惜しむ感じでは無い。


 いや、実際どうなのだろう。


 二階堂の声色は、今日はバイクで来ていないことを告げたときの声色に似ていたようにも思えたが、それは何故だろうか。


 きっと俺の勘違いだと判断するのが最もラクな選択だろうけど。


 ――まぁ、あまり都合良く考える必要も無いか。


 完全に手持ち無沙汰になってしまった残りの日曜日の使い道を考えながら、俺も帰路に就いた。


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