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春越えて、君を想えるか ~好きとか恋愛とかよくわからなくてもカラダを重ねた曖昧なボクら~  作者: 御子柴 流歌
3rd Act: テスト本番と学校祭準備と

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III-C & 3-3: それぞれの『事後《テストおわり》』


()()~」


 息つく間というモノを、私はここ数年来与えてもらった(ため)しがないと思っている。


 試験週間最終日、最終科目を終えた直後。教室内のほとんどが今日までの試験からの開放感とこの放課後からすぐに始まる学校祭の準備への高揚感に満たされているらしい。このふたつがそれぞれどれくらいの割合になっているかは人それぞれだが、私は完全に試験からの開放感一択だった。


 もちろんそれは()()も一緒らしく、平常の授業終わりと同じように私の席に飛んでくるなりこう言う。


「どーだった?」


「……いつも通り?」


「はぁ~、さすがッスねえ」


 ちょっとだけ茶化すように言ってくるのもいつも通りで、本当に見慣れた光景だった。日常でしかない光景としか言いようがなかった。


 中学時代たまたま席が前後になったときに訊かれ――何だかいろいろなことがあって、一緒に過ごす時間が長くなってからもずっと同じように訊かれ、その都度同じように答えていると思う。


「……で、ホントのところは?」


「結構対策通りだったと思うから、いつも通りよりちょっと良かったら良いかな、って」


「やば。上回る情報が出てくるとは思ってなかったわ……」


 今回は本当にそう。いつもはだいたい独りでの自学がほとんどのところ、今回は(ことわざ)通り――『三人寄れば文殊の知恵』の通りだった気がする。板書ノートを(さら)っていくだけの咲妃がしっかりと勉強していたことも功を奏したと思っていた。


「そういう咲妃は?」


「私もいつも通り……よりも結構デキた気はする」


 咲妃が『想定を上回る』と表現したけれど、咲妃からそういう言葉が出てくることは、私からしてみればほんの少し想定以上だった。少なくとも私の見ている範囲では確実にいつもより真剣に勉強していると思っていたので、それなりの反応は返ってくるだろうとは感じていた。ハッキリと咲妃から言ってもらえたのは想定以上だった。


「おめでと」


「ありがと」 


 ふふんと胸を張る咲妃。この子は褒めたら伸びるタイプ。たぶん。


 それに思ったより調子にも乗らないタイプ。たぶん。きっと。――恐らくは。


 とはいえ、自慢気だったのも一瞬だった。


「でもねー。やっぱレンレンには勝たないとね。意味ないからね」


 やはり咲妃は、(ふか)(ざわ)くんに何か要求できるかもしれないということをエサにして、今回のテストを乗り切ったのだろう。深沢くん本人はとくにそれに対して好意的なことは伝えられていないはずだけれど。


 それについては私が知らないだけかもしれないし、やっぱり咲妃が勝手に言ってるだけなのかもしれない。


 だとすれば、私が今コレを咲妃に伝えたとしてもフェアだと思う。


「言っとくけど、咲妃。……その場合は『結構デキた』くらいじゃダメかもよ」


「えっ、ウソ」


 予想以上に(おのの)く咲妃。


「ちょ、えっ! 何でそういうこと先に言ってくれないの!」


「……訊かれなかったし」


「言うと思ってたけどね! そういうのが返ってくると思ってたけどね!」


 その後も咲妃は「うわぁ。マジかぁ」などと繰り返しながら、私への恨み言も繰り返しつつ、学校祭の準備へと向かっていった。


「ちょっと。初日くらいは菜那も来るのよ」


「……そうね」


 初日くらいは出てあげよう。あとは、(とが)められない程度に顔を出せば良いだろう。




    ○    ○




「どーよ、(れん)


「……たぶんイった」


「何、お前。テストでイっちゃったの?」


「そーじゃねーよ、バカ」


 文字起こしをしたときに、どう考えてもおかしくなるような言い方をしてきたのでしっかりと訂正をしておく。(いま)(いずみ)(しょう)()とはそういうヤツだ。


「まぁそんなくだらない話はさておき、……と言いたいところではあるが。蓮がそういう感じで言うの珍しいな」


「そう、……か? いや、そうか」


 言われてみれば、たしかにそうかもしれない。この訊かれ方をしても大抵はぼちぼち感を出して返事をしていた気がする。


 明らかに自分の中でも好感触だったということなのだろう。


「全然意識してなかったけどな」


「テスト直後で丁度良いくらいに気が抜けたってことなんじゃね?」


「……なるほど?」


 緩和のタイミングだからこそ、ということか。そういう見方が出来るというのは新鮮だった。


「俺なんかもう、完全解放だわ」


「部活と学祭な」


「応よ」


 そう言いながら翔太は力こぶを作る。どうやら制限や拘束からの解放というよりは、自分の力を解き放つ方のようだ。どちらにもきっちりと全力を注ぎたい翔太らしさが光る。


 6月の定期テストが終われば、我が校はそのまま学校祭準備へ直行だ。文字通りの『直行』で、これからすぐ男子を中心とした生徒は(はら)(ごしら)えもせずに所定の場所へ木材を受け取り、さらにクラス毎に決められた場所へと搬入する作業が待っている。その後は放課後の活動になるので、学校外に昼食を食べに行って再び戻ってくるということももちろん容認されている。


「で? ……蓮はどうよ?」


「部活はパスだし、たぶん学祭もそこそこって感じだな。今日はちょっとだけやるけど」


「おお、それは助かる」


「え? マジ? 今日は蓮も居るん?」


 タイミング良くやってきた(とき)()()(りょう)(へい)にはガッチリと肩を抱かれた。


「逃げねえから安心しろ。ってか放せ」


「いやぁ、だってさ、蓮って気が付いたら居ないパターンが多すぎんだもん」


 そりゃそうだ。体裁良く消えられるタイミングを見計らっているからな。


 もちろん学校祭の準備に参加したい気持ちはあるが、バイトとの兼ね合いとか優先順位の付け方とか、そういったことを考慮しながらいろいろと揉んでみれば、自ずとどうするべきかということは出てくる。


 残念だが、週末の参加は不可能だし、平日も1日どこかで顔を出せれば充分くらいの水準に落ち着いてしまうのは致し方ないところだった。


 ただ、今日に限ってはまだテスト週間中ということで、バイトも入れてはいない。いわゆる休養日のような立ち位置ではあるが、精神的な意味での息抜きも休養日。身体は酷使されるかもしれないが、これも立派な息抜きだろう。


「っしゃ! じゃあ早速行こうぜ!」


「おー!」


 完全にノリノリになってしまった翔太と亮平に完全に引き摺られて、さらには他のクラスメイトも吸収し、文字通りクラス一丸となって資材置き場へ向かうことになった。




     ○


 今日の作業が終わったのは16時を回ってから。昼休憩を挟んではいるがだいたい3時間ほどかかった計算だった。右も左もほとんど解らなかった去年の時を思えば、だいぶマシである。なにせ最低限終わらせておくべき作業に加えて、もう2段階ほど先の行程にも着手出来ている。思いがけず成長を実感することになった。


「帰ったらケア必須だな」


 足腰周りはそうでもないだろうけど、腕や肩に近い部分はそうも行かなさそうな予感がある。筋トレの類いはそこそこやっているが、基本的には下半身と体幹メイン。そこに比べれば少しばかりのダメージは入っていそうだ。ストレッチなどは念入りにやっておくべきかもしれない。


 帰路はひとりだ。作業がだいたい落ち着いたところを見計らって抜け出して、校門を出て次の横断歩道を渡り終わったところで翔太にだけ「帰るわ」とメッセージを送っておいた。亮平には月曜日に怒られるだろうが、そんなことは折り込み済みだった。


「……どうすっかな」


 学祭準備のスタートを切り終えたところで、次の懸念材料と言えばテストの結果と二階堂のことだった。


 最悪でも稲村に順位では負けたくない。できたら各教科の点数でも負けたくはない。考えたくはないが、もし負けていたとしたらその時に稲村にしてやるお祝いの中身も一応考えておくべきではある。


 そして結果如何に関わらず二階堂にすると決めた『お礼』の内容。こっちが最重要だった。


「好み……」


 あまりハッキリとは解らない。


 服飾系についてはさっぱりなので何も考えないとして、出来るとしたら食べ物系。とはいえ、二階堂は小食。これが好きだなどと言いながら食べているところは見たことがない。むしろ興味がないのかもしれない。


「困った」


 こういうときに何のアイディアも降ってこない自分の甲斐性にガッカリする。


「……ま、バイト増やせばどうにかなるか」


 これが結論として導き出されたことに若干の空しさは覚えるしあまり好ましいとは思えないが、先立つものでどうにか出来るならそれに越したことはない。何が突発的に起きても大丈夫な備えは必要だろう。


 ――そうと決まれば。


 俺は周囲に誰もいないことを確認した上で、自分の両頬を軽く張った。




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