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放課後の天使


「…なんのようだ?」


 俺の目の前には天宮がいた。俺の記憶が正しければ彼女は30分前には教室から出ていたはずだ。


「ふふ、さぁなんで君に会いに来たと思う?」


彼女が揶揄うように聞く。


「…朝の件か?」


 彼女が俺に話しかけるとすればまずそれしかないだろう。

 俺が話すつもりがないということは彼女には伝えていない。だから、そこの確認をとりにきたのだと俺は感じた。

 …まぁ、きっとバレたとしても周りの対応はそう変わらないとは思うが。


「その件については安心しろ。別に俺はそれについて言いふらすつもりはない。」


 俺は率直な思いを彼女に話した。

 そして早く帰りたい俺はそれだけ話すと彼女の反応も見ずに鞄を持って教室を出ようとした。


「待て待て待て、頼む待ってくれ」


 すると、彼女は慌てて俺の服を掴んで引っ張ってきた。

 俺が驚いて彼女の方を振り向くと彼女は俺を懇願するような瞳で見つめてくる。

 それはまるで何かを怯える子供のように。

俺はここで帰ったら何故か後悔をする気がした。


「…わかった。要件を言ってくれ。」


「…全く、きちんと話を聞かないで行くとは。

…まぁ確かに、君からしたら私がこの時間に話しかけることはそれしかないと思われるのも無理はない。」

「しかし、私が君に会いにきたのは頼み事をするためなんだ。」


「頼み事?」


 俺は、そう言った彼女におうむ返しするように答える。

 別に頼み事ぐらいなら学校の間に話せばいいと思うし、わざわざこの時間帯を狙う必要はないと思う。

 だから何故この時間なのかが気になったからだ。


「君がよくわからないのも無理はない。私がこの時間を選んだのは他の人に聞かれたくないからだ。

取り敢えず細かいことを言う前にまずは要件を言おうと思う。

ーー私を君の家に住まわせて欲しいんだ。」


「………………ん?」


 今なんて言った?天宮がうちに住みたい?

いや、流石にそんなことを言うはずがない。

そうだきっとただの空耳だ。そうに違いない。


「おや、聞こえなかったのかな。ならもう一度言おう、君の家に住まわせて欲しいと言ったんだ。」


「Why?」


「混乱のしすぎで英語になってるな。」


「いや、だって……うちに住みたい!?。

なんで、お前が?なぜ?どうして。」


「簡単な話さ。ーー社会勉強だよ。」


「?」


「うちは少しお金持ちの家系でね。家では基本メイトがいたりと君たちで言う…箱入り娘?ってやつだと思う。」

「私自身にその自覚はないんだが、うちのお母様が厳しい人でね。他人の前では絶対に完璧にしなさいと言うんだ。」

「しかし、私はあまりにも常識知らずだったから、どっかの家に泊めてもらって社会常識を身につけろって言うんだ。」


「なるほど、つまり、人の家に住んで苦労を知ってこいということか。

…まぁ、確かに朝のアレを見たら言いたくなるのもわかる。」


「そうだろう、そうだろう。」


「なんで自信満々なんだよ。はぁ………。

まぁ、理由はわかった。…が、なぜ俺なんだ?それなら適当な女子の家にでも行けばいいだろ」


「それに関しては私が個人的に気に入ったからだね。私は人を選ぶ才能はあるんだよ」


 話を聞くにどうやら俺は彼女の理想に合っていたらしい。

 俺としては認められて嬉しいと思うところもある反面俺のどこがいいのかという疑問もある。


「理由はよくわかった。だが、もし住むとして日用品とかはどうなるんだ?そこまで面倒は見れんぞ

それに俺が受け入れたとして何かメリットはあるのか?何もないのに入れろ、と言うのは流石に無理がある。」


「安心して欲しい。もちろん私からはきちんとお金を払う。そして日用品に関してももちろん自分で準備をする。」

「あとメリットについては、もし君が今回の頼みを成功した暁には何か君の願いをできる範囲で叶えようと思っている。」


 願いを叶える、か。聞く限り彼女はお金持ちらしいので俺の願いぐらいならば簡単に叶えられるのだろう。

 話を聞く限り最低限のことはやってくれるみたいでどうやら思っていたより条件としては悪くないと感じた。


「どう?話受けてくれる」


「……ちなみに俺が断ったらどうなるんだ?」


「情報が漏れないために消されるかもね。

そして私は野宿して新しい家を探す」


…ん?……これって実質一択じゃない?

 だって断ったら目の前の少女が野宿する羽目になり、自分の人生も終わる可能性があるってことだろ。

…これ、下手な脅迫より恐ろしくねえか?

 俺はもし彼女がきた場合どうなるかなどをしばし考えて決断をした。

 決断、と言うよりは単に彼女の言いなりになる覚悟をしたと言う方が正しい気もするが惨めな気がするのでやめておく。


「わかった。うちに住んでもいいぞ」


「ありがとう。……ふう、よかった」


 天宮はそう言って肩の力を抜いた。

 どうやら、あんな喋り方をする割には緊張していたらしい。その証拠に彼女は明らかに安堵した表情をしている。

 そして彼女の雰囲気が素の状態に戻っている。


「おーい?素に戻っていいのか?」


「……うん。…交渉のためにクールで不思議キャラの真似をしていただけ。ゆうきの前なら大丈夫。」

「で、どう?…私の演技、すごいでしょ。」


 そう言って彼女はドヤ顔をする。

そんな彼女は子供らしくて可愛いと思う。


 どうやら天宮はわざわざ交渉をするためにクールな不思議キャラを演じていたらしい。

 しかし、あれはもう演じていたと言うより

人格が成り変わったと言った方が良いくらいの変貌をしていたと思う。

 語尾や話し方、話すペースなどがまるっきり別人になっていた。

 この技術があれば俳優かなんかにならそうだな、

と思うぐらいには俺はすごいと感じた。


「で、これからどうするんだ?うちに来るにしても荷物とかあるし、うちの家の位置知らないだろ?」


「…問題ない。すでに家は調べて荷物も運んである。」


「…最初から断られる可能性は考えてなかったのかよ。」


「…そんなことはない。」


 目を逸らした天宮を見ながらため息をつく。彼女は思ったよりも策士だったようだ。

 その後俺たちは取り敢えず別々で帰ることした。

 初めは一緒に帰ろうと言われたのだが、転校して1日目で「天使」と呼ばれた子と帰ると噂などが面倒だからだと思い、断ったからである。

 そして俺は今後の不安を抱えながら家へ帰るのだった。

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