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キューラ城再来

 長い歳月争いばかり繰り返していたラールシア国とフィスノダ国が統合され、ラールノダ王国が誕生してから五年の歳月が流れていた。ラールノダ王国誕生に伴い、新しい中心都市を以前の大火事でキューラ城より北部分が全て消失したのを機にそこにもう一度都を新たに建設し、特別区が誕生し、ラールノダ王国に住む全ての住民が貧富の差に関係なく各地区の優秀な人材が無償で学べるあらゆる学びの場を設けられ、学問の都市としての機能が新たに誕生していた。


そしてその都市を見下ろすかのように新しく増設されて生まれ変わったキューラ城が凛と佇んでいた。そしてラミド城は今は軍の養成施設と最新薬学の研究施設となり、バルデ城は衰退していたラールノダ織りの紡績施設となり、王国内に留まらず近隣諸国からの注文も引き受け、バルデ地区全体が織物業が盛んに行われるようになっていた。新しく生まれ変わったラールノダ王国誕生に伴い、あの運命の日シアフィスの森に集まっていた若者達の生活も一変し、それぞれに二世も誕生し、ラールノダ王国を支える中枢の地位にそれぞれがついていた。



「光の城とはよく例えたもんだな、以前来た時はさほど気にはならなかったが修繕されて磨きをかけられてみると確かに光がいたるところから差し込んでたいしたもんだな。まさかまた来るはめになろうとは…あいつはいったい何を考えているんだ。城をでられないほど公務に追われているわけでもあるまいし、この俺を強引に呼びつけやがって!」


セジードは独り事を言いながら、久しぶりに訪れたキューラ城の内部を見渡しながら案内人の後について歩いていた。セジードは二度とここには来るつもりはなかったのだが、今日の早朝早くにムンブラに数十人の新たな看守を引き連れた理事長代理と名乗る若者二人が到着し、ご丁寧に女王命令の書状を持参のうえ、暫くの間休暇をとるようにという命令書付きの書状が届いたのだ。逆らえば、理事長の任を永久に解き、理事の座から罪人に処するという脅し文句付きだった。


セジードは仕方なくムンブラをでてキューラ城に赴いたのだった。やがてセジードは王の間に案内された。暫くして、にぎやかな声が肘いてきた。


「ジイールやっと来てくれたのね」


声の主は女王だった。マルーシャはセジ―ドを見るなりかけより、険しい顔つきのセジードにお構いなしに抱きつき、頬にキスし嬉しそうに王座についた。


その直ぐ後から、ランドも続いて王の間に入ってセジードの横を通り過ぎマルーシャの横の椅子に腰掛けた。


「俺をムンブラから追い出したのはお前の仕業かと思っていたが、どうやら違ったようだな」


セジードはランドを冷ややかな視線で見ながら答えた。するとランドが声を出すより早くマルーシャが口を開いた。


「あら、よく気づいたわね。ランドったらあなたに頼みたいことがあるっていいながら自分から行こうともしないし、強引に呼びつけようともしないんだから、話がしたいんだったら強引にいかなきゃ話しなんて永遠にできないっていうのにね。仕方ないから私が手を貸してあげたのよ」


「で、女王様からの脅迫状付きの呼び出し状の内容は?」


セジードは腕組みをしながら二人を睨みつけながら聞き返した。するとランドがおもむろに立ち上がりセジードに近づこうとした、それを静止したのは王座に足を組んでじっとセジードを笑顔で見ていたマルーシャが表情を一変させて彼を睨み付けながら叫んだ。


「ランド! ここまでジイールを呼び出したのはこの私よ。私の用件の方が先よ!」


「マルーシャ! あの件ならお前のしゃしゃりでる幕じゃないと今朝も言ったはずだぞ」


ランドはマルーシャの方に振り向きながらマルーシャの言おうとしていることを静止するかのように睨みつけた。


「いいえ、私があの子の名付け親である以上、黙っているわけにはいかないわ。ランドも気づいたはずよ。あの子は助けを求めているのよ」


「はああ! 俺をわざわざ呼び寄せたのは説教をするためか?」


「ええそうよ、あなたがあそこから出たがらないのもわかる気がするわ、ゼルダがあの子を産んですぐ亡くなって、あなたも生死をさまよったままだった。あなたが自分で育てられなかったのもわかるわ。でも今は状況が違うでしょ。ノア―ヌに聞いてビックリしたわ、あの子ももうすぐ十歳になるのよ、なのにあなたは一度もバルデ城を訪ねてわが子に会いにいっていないらしいじゃない。ムンブラが大変なのはわかるわよ。あなたが今の仕事を真剣に取り組んでくれているのはありがたいわ。だけどね、大切なわが子に一度もあっていないってどういうことよ」


「ランシェルドの言う通りだ、この件はあんたがしゃしゃりでていい案件じゃないはずだ」

セジードは無表情のままマルーシャを睨み付けた。そんなセジードの態度にマルーシャもセジードを睨み返したまま言い返した。


「その通りよ。でもね、この間あの子を久しぶりに会ってみていて気づいたのよ。あの子は子供らしくないってね。わがままも言わない。手がかからないいい子って聞いていたけど、あれは異常よ、あの子は大人になろうとしているのよ、まだ十歳の子どもがね」


「俺の血を受け継いでいるんだ。お前達の子供と一緒にしてもらっちゃこまるな。あの子は自分の立場をわきまえているんだ。一人で生きていく為の強さを身につけているんだったらいう事はない。十歳なら十分大人になってもいい歳だろうが、本当の親はとっくの昔に死んだんだからな」


「いい加減にしなさい!」

セジードの言葉を聞いたマルーシャは不意に立ち上がり、セジードに近づいたかと思うといきなりセジードの頬を平手打ちして叫んだ。


「いいこと! 子供っていうのはね、わがままをいいながら一つ一ついい事と悪いことを覚えていくのが仕事なの、笑ったり怒ったり、泣いたりいろんな自分を表現して初めて、本当の自分を見つけることができるのよ、十歳にも満たない子供がわがままの一つもいわない。まして大人と接する時は無表情ってこと自体異常なのよ。ねえジイール、私は不安なのよ。あの子はきっと私達と同じ能力を持って生まれてきたのよ。だから、大人になろうとしている。この国の秩序を守るよりあなたがまずしなきゃいけないのは、あなたの息子の本来の姿を取り戻してあげることなんじゃないの? あそこの仕事の変わりなんていくらでもできる人間はいるわ。だけど父親の代わりは誰もできないのよ。子共が一人で生きていく為の強さですって、あなた本気で言っているの。喜びも寂しさも全部自分の中に押し込んで生きていくことがどんなに辛いことなのかあなた判ってるはずよね。あの子をラデュル神の生贄にでもするつもりなの?」


「ラデュル神・・・」

セジードはそう呟くの聞きながら、マルーシャは声を小さくして言った。


「ジイール、あの子の魂を救えるのはあなたなのよ。もう逃げるのも現実から目をそらすのもお辞めなさい。あなたがあの子から目を背けようともあの子はこの世に生まれてきた。あなたの子としてね。その事実は受けとめなさい。あなたのすべきことはまだ終わっていないのよ」


セジードの腕を掴んで睨みつけているマルーシャをセジードから無理やり引き離しながらランドがセジードに小声で何かを囁いた。


その言葉を聞いたとたんセジードの表情が一変した。今まで平静を保っていたセジードの顔が見る見る青ざめてその場に呆然と立ち尽くしてしまっていた。


セジードの心の中でラデュル神の悪夢がグルグル渦をまいて頭の中を駆け巡っていた。

そんなセジードの様子にマルーシャは無言のままランドの腕を振り払い一人先に王の間を出て行ってしまった。


どれだけの時間が過ぎたのか、セジードが正気になって辺りを見回すと、王の間の隅の窓辺にランドの姿があった。ランドはセジードの視線に気がつくとゆっくりと近づき彼の肩を軽く叩きながら通り過ぎざまに耳元に囁いた。


「今夜は部屋を用意させてある。明日、バルデ城からルカとノア―ヌ夫婦が俺の娘を連れ帰ってくれる事になっている。それにセルダスも同行させるらしい。会うか会わないかはお前の自由だ。その件とは別に、明日ラデュル神に関わった仲間に緊急招集をかけてある。お婆とアンル女史もカルタスの長老と共に合流することになっている。その会議には出来れば出席してもらいたい」


ランドはそれだけ言うと、セジードを一人残し王の間を出て言ってしまった。一人になったセジードは窓に歩みより窓の外に見える綺麗に整備されている庭園を眺めながら、マルーシャの言った言葉を思い起こしていた。


(本当の父親か・・・セルダスが生まれて、自分の闇の分身があいつの中で育つんじゃないかと不安で、ノア―ヌに育ててもらうことにしたが、俺と同じあいつの声が聞こえるってのか・・・お笑いだな・・・俺にどうしろっていうんだ)


セジードがじっと庭園を眺めていると、視界に子共達の姿が飛び込んできた。その真ん中にマルーシャが笑いながら子共達の手を取りながら楽しげになにやら歌いだした。最初は聞き覚えのある歌だったが、やがて子共達がマルーシャの周りに縁を描くように集まりだし、じっとマルーシャの歌声に耳を済ませて聞き始めた。


するとマルーシャは静かに庭園の芝生の上にしゃがみ込み、地面を手で撫でるかのような仕草をしながらラールノダ語で歌い始めた。

セジードは無意識のうちにその歌声に聞き入った。ラールノダ語は幼い頃に母親から教わっていて何を歌っているのか聞き取れるぐらいにはまだ覚えていた。

 

   風の妖精よ私の元に立ち寄っておくれ

   私の想いが風にのって懐かしいあの人に届くように

   

   水の妖精よこの心の目に映しておくれ

   置き去りにされたままの約束のしるしを捜し出すために

   

   光の妖精よ私の心を照らしておくれ

   暗闇の中で消えかかろうしている誓いの鐘を燈すために

   

   地の妖精よこの場所を指し示しておくれ

   今も彷徨い続ける我が魂の分身が迷わず辿りつけるように

   

   私は祈り続ける

   風よ、水よ、光よ、地よ

   悲しみの涙が喜びの唄に変わるまで


セジードはマルーシャの歌声を聴きながら無意識の間に涙が頬を伝っているのに気づいた。自分でも涙を流すなど信じられなかったが、マルーシャの歌った歌詞は心の奥底の何かを揺さぶる言葉だった。


「あなたは待ち人なのですか? それとも彷徨い人なのですか?」


セジードは声のする方に視線を向けると、王座の後ろから少年が姿を現した。セジードはひと目みた瞬間からその少年がこの国の王子アーノル・ラールノダ王子であることがわかった。


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