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変わらない星空

「誰か教えてくれ、俺は何の為に生きながらえているんだ…」


セジードは満天の星を眺めながらむき出しになった岩肌に体を仰向けになりながら一人横たわっていた。セジードはこの山の頂上のちょうど中央部分に位置する辺りにまるで大きな岩を真横に切り裂いたかのように真っ二つに割れて二つ並んで転がっている大岩が気に入っていた。それも雲ひとつない満天の星がきらめく夜はなお更だった。日々の生活に不満があるわけではない。ムンブラ収容所の理事の仕事は気に入っていた。それにラールノダが復活し、ラールシア国とフィスノダ国が統一され、王国が栄えて行く様子を感じることは悪い気分ではなかった。自分がその頂点に立ちたいと思い描いていた頃もあったが、今はその野望は消えてしまっていた。ただ魂は何か別のものを求めて彷徨い歩いているかのように何か物足りなさを感じつつ毎日がただ流れていた。


「おや、ジイール理事長じゃないか? またここに来ていたのかい?」


その声の主の方に一瞬視線を向けながらセジードは起き上がるでもなく満天の星を眺めながら一言言った。


「ビーデ殿、あなたの方こそまた山越えをしているのですか? もう無理をなさらない方がいいのではありませんか?」


セジードの質問にビーデは笑い出した。


「あはははっ! 野暮なこと言っちまったね。お互い余計なお世話だったね。じゃまはしないからちょっとここで休憩してもいいかい? 私もこの山の中でここが一番お気に入りの場所でね、山越えの時はここで休憩するって決めているんでね」


ビーデはそう言うとセジードが横たわっている大岩に軽く会釈をしてから大岩を背にする形で大岩の前に腰をおろして地面に座りこんだ。


セジードはビーデの言葉に返事の変わりに無言のまま起き上がり足元に置いていたリュックの中からりんごを二つ取り出し一つをビーデに放り投げた。ビーデはそれを受け取ると、自分の服の袖でりんごを拭き一口かじりながら話しかけた。


「キールは飲まないんだね。そういえばここにきてから一度も飲んでいる姿をみたことないね」

「酒に頼るのを止めたんですよ」


セジードもりんごをかじりながら夜の闇と霧で何も見えないはずの谷に視線を向けながらじっと暗闇を眺めていた。その横顔をじっと眺めながらビーデはセジードに向かって独り事を話すかのように話し始めた。


「あんたはこの場所がどういう場所なのか知っててここに通いつめているのかい?」


ビーデの言葉に無言のままビーデの方に視線を向けたセジードにビーデは微笑み返してから視線を逸らし、暗闇のカルタスを見下ろしながら話し始めた。


「カルタスにはね、昔からこんな昔話があるんだよ。その昔、カルタスの地は死の谷と呼ばれ誰一人近づく者がいなかった。その場所に都を追われ森を彷徨い歩いていた人々の元に神が舞い降り山の下の谷を指し示し、人々に向かってこう告げられた。


(光の都の住人達よ、この地にもう一度都を築き時を待つのだ。いつか、赤と緑の光の子らが誕生するであろう。光と闇が融合したその時こそ、そなた達の新の王が誕生し、そなた達の魂は闇から解放されるであろう)


って昔話があるんだけどね。それにでてくる神が告げられた場所がこの場所に似ているんだよ。この場所を最初に見つけた時は胸が高鳴ったね。神イクーリア神が舞い降りた場所、はあ…しかしその仕草、あんた達は本当に似ているね」


「何が言いたいのですか?」

セジードの目が鋭くなりビーデの真意をさぐろうとするかのようにビーデを睨みつけた。


「いや、私が言うことじゃなかったね。ジイール理事長、いやセジード ラールノダとして本当の名でもう一度動きだしてもいいんじゃないのかい、あんたも感じているんだろう? あんたの定めはまだ終っちゃいないってね。りんごありがとうよ。さあて、あたしはぼちぼち降りるとするよ、あんたがムンブラ収容所に来てから、やんちゃな若い子共達が増えて大変なんでね。早く戻らないとメルデが悲鳴をあげているころだよ」


ビーデはそう言うと立ち上がりセジードに向かってウインクして笑いながら立ち去って行った。セジードは月明かりの中ですら霧に包まれている谷に視線を向けながらビーデが言った言葉が頭の中でこだましていた。


(そろそろ本当の名でもう一度動き出してもいいんじゃないのかい…あんたの定めはまだ終わっちゃいない)





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