閉ざされた空間3
あれ? ここはどこかしら
レニアはキョロキョロとまだボーっとする頭で辺りを見渡した。
「あっレニア姫起きた? 水持ってきたから飲む?」
キョロキョロしていると、開け放たれた扉の前に両手にコップを持ったセルダスが立っていた。
あっそうだわ。私セルダスと昼寝をしたんだわ。
ここはセルダスの部屋だわ。でも、やけに薄暗いわね。
薄暗い窓の外に視線を向けながらまだボーっとしているレニアの側に座ると、二つ持っているコップの一つをレニアの前に差し出した。
「どうやら僕達寝過ぎちゃったようだよ。まだ夜明け前なんだ。みんなまだ寝てたから水しか持ってこれなかったんだ」
「えっ夜明け? うそ!」
「本当だよ 僕もびっくりしちゃったよ。こんなに寝たのは久しぶりだからさ。でもさすがに寝すぎでもう寝れそうにないし、起きることにしたんだ。レニア姫は夜が明けるまでもうひと眠りしてもいいよ。僕は隣の部屋で本を読んでいるから」
セルダスはそう言って笑顔をレニアに向けると、隣に続くドアに歩いて行き、扉のノブを押し開いた。
「わっ私だってもう寝過ぎで目がさえちゃったわよ。ねえ、夜明けまでまだ時間があるんだったら、今から地下に行かない?」
「えっ? 今から? 駄目だよ、地下に行くにはノア―ヌおば様に鍵を借りなきゃはいれないんだよ」
「あら鍵なら大丈夫よ」
そういうと、手に持っていたコップをサイドテーブルに置くと、レニアは自分の首にぶらされている紐を服の中から手繰り寄せた。
服の中から出てきたのは小さな巾着袋のようなものだった。レ二アはその小さな巾着袋の中に指を入れて何かを取り出した。
それは銀色をした小さな球体のようだった。
「レニア姫、それは何?」
興味深げな顔をしてセルダスは薄暗い部屋のレニアがいるベッドまで戻ってきた。その時雲に隠れていた月が顔を出しレニアを照らし出した。
「ふふっ、これはねランナ先生と共同開発した万能鍵よ」
「鍵? その丸いのが?」
「そう、これはね鍵穴に押し当てると変形してどのタイプの鍵でも瞬時に形を変えて開けることができるのよ」
「そっそんなものがあるのかい? ランナ先生ってランナフィア様の事だよね。ランナフィア様の専門は確か薬学じゃ、鍵を作るって、分野が違うんじゃ」
「あらランナ先生はすごい発明家なのよ。話せば長くなるから今日は省略するけど、とにかく、これさえあれば大丈夫よ。なんてったって地下牢の特別な鍵でも開けちゃったんだから」
「もっもしかして、その鍵、勝手に持ってきたってことはないよね。そんなものが世の中に出回ったら大変なことになるよ」
「あら大丈夫よ、これは試作品で、この鍵は私にしか反応しないから他の人が手に持ってもただの銀色の丸い玉のままなのよ」
レニアの手にしている謎の球体をマジマジと見つめているセルダスをよそに、コップを再び手に持つと一気に水を飲み干し、サイドテーブルにコップを置くと、その球体を再び元の場所に終うとぴょんとベッドから飛び降りて裏返っている靴を履くと、まだその場にコップを持ちながら立っているセルダスに向かってせかし始めた。
「セルダス、またルカリオおじ様に見つかってやっぱり駄目とか言われちゃつまらないわ。私地下探索がしたくてここにいるんだもの」
「だけど、黙って行くのはやっぱりよくないよ」
「もう真面目なんだから。大丈夫よ。ランナ先生が言っていたけど、この城の地下通路はほとんど発見しつくしているから危険な場所はないだろうって言っていたわ」
「それでも、やっぱり」
まだ反対するセルダスにレニアは最終手段に出た。
「じゃあいいわ、セルダスはここに残ればいいじゃない、朝起きて誰かに聞かれたら夜明け前に私は自分の部屋に戻ったっていってしらを切ってちょうだい、じゃあね」
手をパタパタさせて、一人で部屋を出ようとしたレニアに慌ててセルダスが追いかけてきた。
「君を一人でなんか行かせられるわけないだろ」
レニアはその言葉を聞いてくるりと振り返ると笑顔で言い切った。
「そう言うだろうと思ったわ。すぐに動きやすい服に着替えてくるから待ってて」
レニアは笑顔をセルダスに向けるともう部屋を飛び出して自分の部屋に走りだしていた。
レニア姫は僕がやりたくてもできないことを簡単にやってしまうんだよな。
ずっとこれが続いたらいいのに。
セルダスは頭をかきながら自分の部屋の前の廊下の壁にもたれかけながらぼんやりとそう思うのだった。
そんなセルダスに近づく黒い闇にセルダスは気付いていなかった。