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閉ざされた空間1

「おはようございます」

レニアとセルダスが食堂に着くと既にこの城の城主であるノア―ヌ・ラールノダと彼女の夫であるルカリオと二人の息子であるトマスが席についていた。


「おはよう、セルダス顔色がよくないわ。今日の授業は確かクーリア先生でしたわね。わたくしの方から連絡をしておきますから、今日はゆっくりなさい」


「いえ大丈夫です」

セルダスはそういうと、自分の席に着いた。


「兄上、授業が終わったら僕の剣の腕前を見て、昨日よりうまくなってるはずだから」


先月ようやく4歳になったばかりのトマスが隣にすわったセルダスにむかって笑顔で言った。

セルダスはそんなトマスの頭を軽くなでると席についた。


「すごいじゃないか、じゃあ夕食の前でもいいかい?

今はまだ日が沈むのが遅いからまだ明るいと思うから」


「僕、昼食の後がいいな」

駄々をこねだしたトマスに困った顔をして返答に迷っているセルダスに代わってセルダスの向かいの席に既についてテーブルの上におかれているパンを手に取り一口口に放り込みながらレニアがトマスに向かって言った。


「トマス、ごめんなさいね、セルダスは昼食の後は私と用事があるのよ」


「やだやだ」

プーッと膨れて首をふるトマスに対してセルダスはレニアに顔を向けて何かを言おうとする言葉をレニアは遮った。


「トマス、あなた昨日もそうやってだだをこねてセルダスに剣の練習をせがんだんでしょ。あなたにも先生がいるんだから先生に習いなさいよ」


「やだ。兄上に教わった方がうまくなる気がするんだもん。レニア姫、僕知ってるんだよ、レニア姫だって昨日、兄上のお勉強の邪魔をしていたじゃないですか」


「なっ、いつの間に」

レニアが困った顔をしながら反論しようとしたその時、セルダスが小さくクスッと笑うと、二人に向かって言った。


「じゃあ、午前の授業が終わったらすぐに昼食までの時間見てあげるよ、レニア姫も地下倉庫の探索の件は僕と一緒にクーリア先生の歴史学の授業をキチンと受けてからにしよう。この間苦手だと言っていたし」


「ええ~、私はいいわよ。私は昔には興味ないもの。あなたは今日はきちんと仮眠をとらないと体を壊しちゃうわ。あの疫病神のせいでほとんど寝てないんでしょ。私は今は休暇中だから勉強はお休みなのよ。とにかく私は忙しいから授業なんてでている暇はないわ。午前中は調べものをしたいし。トマス、今日は諦めなさいな」


「昨日は昨日だもん、レニア姫こそずるいよ」

二人がにらみ合いを始めたのをなんとかなだめようとするセルダスだが、二人のにらみ合いは収まりそうになかった。



可愛く頬を膨らませながらレニアを睨んでいるトマスに舌を出して、対抗しているレニアに先に食べ始めていたルカリオが仲裁に入った。


「レニア姫もトマスもノアの話を聞いていなかったのか? 見ろセルダスの顔を、どう見ても疲れている顔じゃないか、二人とも自己中が過ぎるぞ、それとレニア姫、地下に一人で行くのは禁止しているはずだよ、約束を破るつもりならこの城への立ち入りを禁止してもいいんだけどね」


ルカリオの言葉にレニアの顔が急に変わった。レニアはセルダスの顔をじーっと見つめた後呟いた。


「わかったわ。ごめんなさいセルダス、昼食を食べたらトマスの剣術を見てあげて、その後は無理しないできちんと休んでね。地下は逃げないものね。またの機会にするわ」


そう言ってレニアは朝食を黙々と食べ始めた。そんなレニアに対してセルダスは首を大きく左右に振ってから言った。


「僕なら大丈夫だよレニア姫、地下の探索はずっと楽しみにしていたんだし、昨日は確かにトマスの我がままで中止になったから、授業が終わってすぐにトマスの成果を見学してから昼食後少し仮眠したら地下の探検をしに行こう。僕なら大丈夫だから一時間も仮眠したら大丈夫だから」


「本当? 本当に大丈夫?」

「うん」


「おい、セルダス、無理をすると本当に体がもたないぞ。レニア姫も約束を守らないとアルーシャに言うぞ」


「ルカリオおじ様、お言葉を返すようですけれど、私は駄目だと言われたことはしていませんわ。おじ様お忘れですか? 今は夏休暇でこっちにきているんですのよ。勉強は暇な時があればするって確か言ったはずですわ。なんだかんだで一番の目的の地下探索がずっとできずじまいだったんですもの。おじ様がセルダスに勉強勉強だと色々と勉強のスケジュールを入れ過ぎなんです。セルダスが疲れているのはおじ様のせいでもあるんですからね。だいたいおじ様だって昨日は巡回兵の訓練の日でしたのに、ジェスに押し付けて庭園でお昼寝をしている所をみかけましたわよ。おじ様だってこっそりさぼる時だってあるの知ってますのよ。キューラ城に戻ったらお父様にいいつけてもいいのよ」


「これは一本取られたな。ははは」

レニアの反撃にルカリオは額に手をあてて笑い出した。


「あなた」

キッとルカリオを睨むノアーヌに頭をかきながら笑ってごまかすルカリオにセルジオが言った。


「ノアーヌおば様、僕は本当に大丈夫ですよ。僕は平気ですから。レニア姫、お昼まで一緒に授業受けよう。ラールノダ歴の授業はもしかしたら地下の探索に役立つかもしれないよ」


「ううううっ、わっ私はできればその・・・」


「さっ、早く食べよう」

できれば授業は遠慮したいとでもいうかのようにもごもごと言い訳をするレニアにノアーヌが助け船を出した。


「セルダス、レニア姫のいうことも一理ありますよ。あなたは本ばかりに知識を頼りすぎです。地下に行って自分の目で昔の物を観察するのも一つの経験ですよ。今日の午前の授業はわたくしから中止の連絡を入れておきます。朝食を食べたらきちんと睡眠をとりなさい。地下への鍵はきちんと眠ったことを確認したら渡してあげるわ。それからトマス、剣はお父様に見てもらいなさい。あなた、あなたは寝すぎですわ。今日は一日トマスに付き合ってくださいませ」


「お父様、いいの? 今日は僕の訓練に付き合ってくれるの?」


「ノアーヌ・・・寝すぎは言い過ぎだよ。はあ…仕方ない、よ~しトマス、じゃあ朝食を食べたらさっそくまずは走り込みからだぞ。体力をつけないとな」


「うん、僕走るのも得意だよ」

急に機嫌が良くなったトマスはご機嫌で朝食を食べ始めた。


嬉しそうにしているトマスを見つめるセルダスの顔が一瞬陰ったことをレニアだけは感じとっていた。



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