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会議➁

二人が笑顔で握手していたその時、どこからかお腹の虫がなく音が微かに聞こえてきた。マル―シャはその音がした方向を向きながらニヤニヤしながら言い出した。


「あら? なんの音かしらね? 懐かしい音が聞こえてきたわね。そうねえ…せっかく久しぶりにみんな集まったんだし、堅苦しい会議は今夜はやめにして、何か食べながらおしゃべりしましょうか」


「おいマル―シャ、その…食事は大歓迎だが会議は始まったばかりなんだぜ。いくらなんでも早すぎるだろう」


すかさずルカがマル―シャに突っ込みを入れると、一堂から笑いが起こった。

「あらルカ、あなたのモットーはなんだったかしら?」


「行き詰まったらまず食べるだったじゃなかったか? お前のお腹はそう叫んでいるじゃないか」


「俺は、そんなに食いしん坊じゃねえぞアル! ノアーヌ、お前も笑いすぎだぞ」


隣でクスクス笑っているノア―ヌに小声で文句をいいながらもルカは向かい側に座っていたアルを睨みつけながら言い返した。


「しょうがねえなルカ! そういえばまだ夕食が済んでいなかったな。とりあえず、何か食べながら考えるとしようじゃないか。このままじゃお前のお腹の虫の音を聞きながら会議するはめになりそうだしな」


「ランド! お前も俺をばかにしてるのか? 仕方ないだろう、昼はあまり食べられなかったんだからよう」


ルカは笑いながらもマル―シャやランドやアルに睨みを利かせながら必至で言い訳をしながら一人ブツブツ文句を言い続けていた。そんなルカに一同は笑いながら立ち上がり始めた。


「こやつらはいくつになっても変わらぬのう」


ランナとアンルも顔を見合わせながら彼らのやり取りを笑いながら聞いていた。


「さあ、隣の部屋に食事の用意をさせてあるからみんなそっちに移動しましょう」


マル―シャはそう言うと続き部屋になっている方の扉を指差しながら言った。それを聞いた出席者達はめいめいに扉に向かい入って行った。


だが、子供達だけはその場から立ち上がろうとはしなかった。アーノルは立ち上がりたげに扉に視線を向けながらソワソワしているが、レニアはじっとマル―シャを睨み続けていた。


そしてセルダスはじっと下を向いてそのまま座ったままだった。そんな三人の様子をみたマル―シャが三人に向かって大きい声で言った。


「さあ、子供達! あなた達の大好物も今夜は特別にたくさん用意させてあるわよ、早く隣の部屋にいきなさい」


その言葉にアーノルは我慢出来ないといったように立ち上がり駆け出したがレニアはその場でマル―シャにくってかかった。


「お母様! 話しが違いますわよ。今夜真実を話してくださるんじゃなかったのですか?」


「レニア、物事には順序と言う物があるのよ、そう答えを急ぎ過ぎると人生損をするわよ」


「はぐらかさないでください! お母様はセルダスの気持ちがわからないの?」


「…レニアあなたはセルダスのことが好きなのね。可愛いわね」

「そっそんなんじゃないわよ」


マル―シャは真っ赤になっているレニアの頬を右手で撫でながらにっこりと娘に笑いかけ、小ささくため息をついてジイールに向き直りながら言った。 


「ジイール! あなたの用件は済んでいないわよ! 逃げるのはおよしなさい!」


ちょうど、食事の準備がされている扉とは反対の出口の扉に手をかけようとしていたジイールに向かって叫んだ。


「会議は中止になったんだろ。俺は会議に出席しろと言われたから出席しただけのこと、会議がなくなったんなら用は済んだはずだ」


そういいきって会議室をでようとしたジイールにマル―シャは大股で駆け寄り、ジイールの腕を掴んでセルダスのそばまで引っ張ってきた。


「まったく! 世話のやける親子ね。いいこと人間はね神様じゃないの、相手の心の中なんて言葉にして伝えてあげないとわからないのよ! セルダス、あなたもそうよ。私はあなたに今夜真実を話してあげると言ったわ、だけど私の口からあなたに迫って来ている者の正体の真実を話す前に、話しあわなきゃいけない人がいるでしょう。あなたももうすぐ十歳になるのでしょう。今まで我慢してきたのならそろそろ、心を開いてもいいんじゃないかしら? あなたがそうやって無表情を装っているのはこれ以上傷つきたくないだけでしょう。でもね、そうやっているだけじゃ何も解決しないわよ。そのままで大人になろうとしているのなら、大きな間違いよ。いいことセルダス! 子供をやめるにはね、儀式が必要なのよ。そうだわジイール! この際あなたも一緒になさい! あなたも大人になる儀式をしていないで大人になったのでしょう、あなたが捨てた幼少期の名前でね」


マル―シャはジイールの手を離し、二人の間に立ち、二人を交互に見ながら叫んだ。


その言葉を聞いたセルダスが驚いて顔をあげ立ち上がってジイールの顔を見上げたまま、今にも倒れそうなほど、顔面が蒼白になっていた。


ジイールの顔には怒りとも戸惑いとも取れる表情をさせながら険しい表情でマル―シャを睨んでいた。マルーシャはそんなジイールの視線を気にする様子も見せないで二人の前に右手を前にだし指を出しながら答えた。


「一つ、今までしたいたずらを告白し懺悔する事。

二つ、不満を心の外に出しつくすこと。

三つ、思いっきり笑い声の限り叫ぶこと。

以上の三つよ!」


「ばかばかしい、そんなくだらないことできるか! 俺は部屋に戻らせてもらうぞ!」


ジイールはくるりと向きを変えて歩き出そうとした時、扉の前にアルと肉を加えたルカが立ちはだかった。


「おっと、逃がさないぜ! 俺はお前には言いたいことが山ほどあるが俺はもう儀式は済ませてある大人なんでな。今更お前にどうこう言わねえが、ここから逃げることは許さねえ、腕ずくで阻止するぜ」


「お前らが束になっても俺にはかなわねえだろうが」

「それはどうかな?」


ジイールが歩き出そうとした瞬間、さっと背後に一人の影が近づき一瞬早くジイールの両腕を背後にまわし向きを変えさせた。


「てめえ! どういうつもりだ」


「悪く思うなよ。俺は止めたんだが、女王様がどうしてもすると言い張るんでな」


「観念するんだな」


「ねえ、お父様も儀式をしたの?」


「ああ、きちんとしたぞ、あんな恥かしいことは後にも先にも初めてだったがな」


おとなしく聴いていたレニアがそばでジイールの腕を掴んで押さえ込んでいるランドに聞き返した。


「懐かしいなあ。確かあれをしたのは戦争が終ってからだったかな。マル-シャの告白も城中のみんなからかなりの怒りをかってたけど、一番ひどかったのはランドの懺悔だったよな。親父殿に頬を殴られて暫く顔が酷い有様だったよな」


ランドの代わりにルカがレニアに近づきやさしく言っ

た。そんなルカにランドの鋭い視線が突き刺さった。


「レニア、私達も遅くなったけれど、儀式は済ませたのよ、大人になると言う事は大変なことなのよ。何もしないで大人になる事はできるけれど、心の中にずっと靄が残るのよ。それは死ぬまで背負っていかなきゃいけなくなるの。大人になってからの告白はプライドが邪魔して出来なくなるから。思っていることをなんでも素直にいえるのは子供だけの特権なのよ、大人になってから告白するとかなりのリスクを背負い込むことになるのよ」


マル-シャの言葉にセルダスが何か言いたげに顔を上げた。


「僕は…僕は、生まれて来てはいけない人間だったのですか?」


セルダスの言葉に一瞬部屋中が静まり返った。


「セルダス! 最近あなたの様子がおかしかったのはそんなことを考えていたからなの? どうしてそんなことを考えるのです。誰かあなたに言ったのですか?」


部屋の隅でじっと様子を伺っていたノアーヌが今にも倒れそうになりながら両手で持っていた白いハンカチを握りしめながら叫んだ。


「ノアーヌおば様だって…」


セルダスは小さな声で囁いた。その瞬間、ルカが扉から離れ、セルダスに近づき、セルダスの頬を思いっきりなぐった。


「セルダス! 俺はお前とは血のつながりがないが、この十年俺の自分の子供としてお前と接してきたつもりだ。お前が生まれてこなけりゃよかったなんてこれっぽっちも思ったことはない! ノアーヌにしたって同じだ、お前を実の子供としてお前が生まれた日からずっといつくしんで育ててきたんだ」


ルカの言葉にセルダスは右手をギュッと握りしめ、意を決してルカを睨み返した。


「だったら、どうして僕を息子だとは呼んでくれないんですか。呼び方にしたってそうだルカおじ様もノアーヌおば様もお父様、お母様とは呼ばせてはくれなかったじゃないか!」


「セルダス…」


ルカはセルダスの言葉にその場に立ち尽くしてしまった。ノアーヌもその場にしゃがみ込み涙を流したまま動けなくなっていた。


「親子ごっこなら俺は辞退するぜ、お前らで好きにすればいいだろ」

腕を振り払おうとするジイールにマル-シャが睨み付けた。


「現実から逃げるのはやめなさいジイール、いいえ、セジード」

レニアだけじゃなくセルダスもマル―シャの言った言葉に固まってしまった。だが周りの大人たちは驚いた様子を見せていなかった。

最初に言葉を発したのはレニアだった。


「お母様、セジードっていえば元フィスノダ国の王子の名前だもの、彼はフィスノダの革命の時に死んでいるはずだわ」


「あらレニア、歴史の勉強もきちんとしているようね。でもね、覚えておきなさい。必ずしも、歴史に書かれていることが全て真実とは限らないのよ」


「じゃあ…」

「そうよ、彼は正真正銘、元フィスノダ王国の王子だったセジード・ザディブ・フィスノダよ」


「嘘だ! 僕は…僕の母がギロダ国の王族の一人だからラデュル神の声が聞こえるんだ。僕は単なる人質なだけだ」


「人質? 誰がそのようなことを言ったのですか?」

セルダスの言葉に真っ先に反応したのはノア―ヌだった。


「誰って…城のみんながそう言っていたから、僕の母さんは盗賊だったって、父さんに当たる人のことは名前ぐらいしか知らないけど、ムンブラ収容所にいるジイールっていう人だって、だから僕はあの城にいるべき身分じゃないってみんな言ってたから…」


「くそっ、誰だそんなでたらめ広めたやつは、好き勝手いいやがって、城に帰ったらきつくいわないといけねえみたいだな」


ルカが壁に拳を叩きつけた。

ご無沙汰しております。

久しぶりの投稿となります。覚えてくださっている方はおりますでしょうか?


また少しずつ更新していこかなと思っております。

よろしければ次回も読んでいただけると嬉しく思います。

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