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彷徨い人

「ずっとそこで盗み聞きをしていたのですか? アーノル王子」


セジードは目の前の好奇心いっぱいの顔で瞳をキラキラ輝かせながら、じっと自分の方を見てくる少年を驚いた顔で聞き返した。


「さっき来たばかりだよ。おじさんは誰なんですか? 父上や母上とは顔見知りのようですが、お見受けしたところフィスノダ地区の方のような顔立ちのように思うのですが・・・見かけない方ですよね」


「さすがは次期国王ですね。私は先日までムンブラの理事を務めておりましたジイールと申します」


「ああっー! あなたがあの魔術師ジイール殿でしたか、ジィール殿、僕は次期国王ではありませんよ。母上が双子で生まれたんだから、レニアか僕かどちらがなるかはまだ決まっていないっていってたから」


「そうでしたかこれは失言でした。お許しください。お詫びついでに何故この私が魔術師なのか教えていただけますか王子」


セジードはアーノルに丁寧にお辞儀をして言った。すると、アーノルはしばらく考えてから答えた。


「うーんとね。僕から聞いた事は内緒にしてくれると約束してくれる?」

「いいですよ」


「あのね、議会に出席していた重臣達の話をしているのを聞いたことがあるんだ。今のムンブラ理事長は収監された囚人達をたった十日間で更生させることができる魔術師のような人物で全てが謎で名前しかわからない人物だから、あんなやからを理事長に推薦した女王の考えは理解できないって」


「魔術師か、あはははっ! こりゃあいい。そんなうわさが流れていたとは知らなかったな。ところで何故私を待ち人か彷徨い人かとたずねたのですか?」


「・・・それよりもあなたはなぜ僕をひと目でアーノルだとわかったのですか? 僕はまだ国民にはお披露目を済ませていないから僕の正体を知っているのはこの城に来る人しか知らないはずです。この城には子どもたちもたくさん出入りしているのに、僕は一度会った人の顔は覚えているんです。あなたとは初対面のはずです」


「私はお父君の少年時代を知っているからですよ。王子は父君の幼少期に良く似ておられる。それにそのお父君と同じ緑の瞳は珍しいですからね」


「父上の幼少期をご存知なのですか? では母上の幼少期もご存知なのですか?」


セジードの言葉に少年の瞳がよりいっそう瞳を輝かせてセジードに近づいた。


「次は王子がお答えくださる番ですよ。父君に盗み聞きの件をお話してもいいのですよ」


セジードの言葉にアーノルの表情が一変した。あわててアーノルはセジードに近づき懇願するような眼差しで見上げた。


「あっ約束が違いますよ。父上には言わないで。僕この間、議会に潜り込んで会議の内容を盗み聞きしていたのがばれて僕、今部屋で謹慎中なんだから!」


「なるほど、外見は父親似だが好奇心旺盛なのは母親に似ってわけですか、私の質問に素直に答えてくれましたらいいですよ」


「よかったあ・・・大体父上もケチなんだから、少しぐらい僕にも父上の仕事を教えてくれてもいいのに、剣術や学問ばかり、学問やラールノダ語の勉強は面白いけど、僕はレニアと違って剣術は好きじゃないんだ」


「王女も性格は女王似というわけか」

「えっ? 今何かいいましたか?」


「いや、でっアーノル王子、私に話してくださる気があるのですか? ないのですか?」


「あっ! そうだった、あなたはさっき母上のラールノダ語で歌ったあの唄を聴いて涙していたのでしょう。ラールノダ語がわかるのですよね」


「日常会話程度ですが」


「あの唄は、母上がこの城の地下の聖域で石の壁に刻まれていた言葉とカルタスで昔から口ずさまれていたメロディーをあわせたものなんです。母上が言っていました。この唄を聴いて涙する人がいたら、それはこの唄のように待ち人か彷徨い人に違いないって」


「あの聖域にそんな文字が刻まれていたのか」


セジードが考え込んでいるとアーノルは突然笑い出した。セジードが顔をあげるとアーノルは笑顔でクスクスまた笑い出した。


「ジイールおじ様とお呼びしてもよろしいですか?」

セジードが頷くとアーノルはまた話し続けた。


「僕わかっちゃった。ジイールおじ様は彷徨い人だ。だから母上の唄に涙が流れたんだ!」


セジードはアーノルの言っている意味がわからず首をかしげているとアーノルはにこにこしながらセジードから少し離れてから振り返りざまに言った。


「あなたはセルダス君のお父上ではありませんか?」

「!」


アーノルはセジードが驚いているのを気にする様子もなく話し続けた。


「ジイールおじ様がさっきからしているその仕草どこかでみた気がしていたんです。おじ様の瞳を見て思い出しました。セルダス君も同じ右が赤で左が緑の瞳をしていて、バルデ城に行くと、よく同じポーズをしているのをみかけたから。セルダス君が前に本当の父上は別の場所にいるっていっていたしね」


アーノルはセジードがさっきしていたのと同じ左の親指をあごの下に持って行き右手を左の肘の添えながら答えた。


「たいした洞察力の持ち主ですね王子、ではアーノル王子、私と取引いたしましょう。ここでずっと聞いていたのなら、私が今日ここに宿泊することはご存知ですね。夜の食事までまだ時間がありますから、部屋にお戻りにならなくても大丈夫ですよね。今日の盗み聞きの口止め料の代わりに私をあの唄の刻まれていた聖域の中に案内していただけないでしょうか? 誰にも見つからずに行ける行き方を知っていますよね」


「あそこは立ち入り禁止の場所だよ」


「心配はいりませんよ。聖域の前まで案内してくれれば、入り方は知っていますから。王子はすぐ部屋に戻れば誰にもばれませんよ。もし見つかったら私を案内しにきただけだっていえば父君も叱らないはずです。どうしますか? 今すぐお父君に懺悔にいきますか?」


「わかったよ、案内するよ。あなたは父上と同じ匂いがするしね」


アーノルはがっくりと肩をおとしたかのようにシュンとさせ、大きくため息をついてみせた。セジードはそんなアーノルをみてニヤリと微笑んだ。


「王子はご両親のいいところを受け継いでいるようだ。もっと自信を持つといい、すばらしい人生のお手本が直ぐそばにいるのだから」


セジードはアーノルに近づき、アーノルの頭を軽く撫で先に歩きだした。




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