ラドル王
どこにいるというのだエルゼビルテ、もう時間がない。我の魂が宿れる器もこれが最後だ。お前はどうしてここにおらぬのだ」
ラドル王は玉座に座りながらどこか遠くを見ていた。
ここはドノーエ大陸の最北の国ギロダ、十年前ドノーエ大陸に存在していたラールシア国とフィスノダ国は合併し新ラールノダ王国として新たに誕生して以来、このドノーエ大陸の最北に位置するギロダ国とは冷戦状態がずっと続いていた。とはいえ、新しく誕生したラールノダ王国は周辺各国との貿易により、建国当初よりもさらなる発展をとげ今では経済大国に急成長していた。その中心都市であるかつてのシアフィスの森があった場所には遥か昔伝説の都キューラの都が再び再建され、世界の中心都市へと急成長を遂げていた。その象徴的なシンボルとしてキューラの都の北側にはその都を守るかのように修復が完了し世界一美しい湖ルーラの湖に建つキューラ城があった。
世界中から多くの商人がこの都に集まりさらなる賑わいを見せていた。
その一方で、十一年前、ドノーエ大陸の西側にあったラールシア国への奇襲攻撃の返り討ちにあい撤退したギロダ国はその後、当時の王はその責任をとり打ち首となり、その息子である現在の王ラドル王が王位についたが、国自体は更に衰退を続けており、国中が荒れて、崩壊寸前のところまできていた。現在の王であるラドル王は国民に恐怖政治で支配し、税は上がり、国民のほとんどは生気を失っていた。そして、その頃からある噂がまことしやかにささやかれ始めていた。
それはラドル王が奴隷を集めて、城の地下に大きな穴を掘り進めているというのである。しかもその奴隷たちはこの十年でさらなる数が集められているという。地上で生きるのも地獄、地下にとらわれるのも地獄
この国の人々は神を信じる心さえ奪われて、ただ生きている屍となっていた。
その恐怖政治を正そうとする者はこの国にはもはや一人もいなかった。
「陛下ご報告いたします」
突然王の間に騎士が飛び込んできた。
「何用だ」
「はっ、申し上げます。たった今、ラ-ルノダ国より親書が届きました」
肘をつきギロリと騎士を睨みつける王に震えあがりながらも手に持っていた紙をラドル王に差しだした。
それを受け取り文に目を通したラドル王はその紙を握りつぶしながら目の前の騎士に投げつけた。
「何が奴隷の解放だ、ふざけた文をよこしやがって、ゴルザ今すぐラールノダの小娘に親書を送り返せ、余計な干渉をするなとな」
「はっ、今すぐに」
ラドル王のすぐ横に立っていた宰相のゴルザがスッと姿を消した。
「何が奴隷解放だ、もうすぐ、もうすぐ全てが揃うのだ。奴隷で間に合わないようなら、この国の男どもを徴収させて、早く掘り進めねば時間がない。人間などとるに足らぬ存在だ。しかし・・・肝心のものが見つからぬのであれば話にならん。あのセジードの奴もあれ以来、我の声も届かぬようになったし、あ奴の息子もおびえるばかりで役にたたぬ、それもこれもあの忌々しい小娘が王座についてからこの国は衰退するばかりだ。時間がないのだ。何とかならぬものか、あれらをどこに隠したというのだ。
ラドル王の背後にある黒いもやがす~と消えてどこかへ行ってしまうと、そこには人の姿はしているが生気が無くなった生きる屍が王座に座っているだけで何も反応がしなくなってしまっていた。