表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

『キスの日』

「今日がなんの日か知ってるか」


 帰宅した爽真が鞄をソファに置くと、そう言いながらキッチンへやって来た。


「言うと思ったよ。想定どおり。キスの日でしょ?」

「んじゃ――」とご機嫌で顔を寄せてくる爽真。

「見て分からない? 揚げ物をしているの」

「分かるけど、ちょっとくらい――」

「それも言うと思った。――はい」

 キッチンカウンターの上に置いておいたそれを取って渡す。


「キスチョコ……」と木崎。

「ちゃんと用意しておいた私、偉くない?」

「いや、違うだろ」

「じゃあこっち」

 小さいケースを取って渡す。kissのシアーグリッターだ。


「なにこれ」爽真が剣呑な眼差しを向ける。

「まぶたに塗るやつ」

「俺に塗れっての? いや、何でも似合うとは思うけどさ」

「初めてkiss商品を買っちゃった」

「莉音は使いそうにないキラキラだもんな。――まさかと思うが」


 爽真が私が鍋から上げたものを見ている。ふむ、さすが爽真だ。よく気がついた。油切りの上にそっとそれを置く。


「キスの天婦羅」

 たまたまスーパーで売っているのをみつけた。そのとき『キス』を色々買うことを思い付いたのだ。


「大喜利かよ」と爽真。「俺は莉音のキスがいいんだけど」

「あとでね」

「なんでだよ。せっかく久しぶりに時間があるのに」


 そうなのだ。ここ二週間くらいお互い忙しくて、一緒に夕飯を食べる時間さえなかった。


「――久しぶりだからこそ、ゆっくり楽しみたいかなって。ご飯も。キスも」

 ああ恥ずかしい! 木崎相手に素直になるのはまだ慣れない。でもね、思っていることはちゃんと口に出して伝えないといけない。それが上手くやる秘訣だって佐原係長が言っていた。


「そうか」爽真の声がご機嫌な調子に戻っている。「莉音は俺と楽しみたいか。じゃあ仕方ない。あとにとっておこう」

「うん。着替えておいでよ」

「その前に」と、爽真は私の左手を取り顔の高さに持ち上げた。目を見ながら、薬指にちゅっとキスをする。そのすぐ上には先月贈ってくれた指輪がはまっている。


 いらない、とは伝えたのだ。いずれペアの指輪を買うのだから。

 だけど爽真はどうしても贈りたいし、つけてもらいたいと引かなかった。


 仕方ないから、ダイヤが埋め込み式のものならいいよと譲歩した。

 一緒にお店に見に行き、一緒に選んだ指輪だ。


「続きは夕飯後な」と爽真が手を離す。

「天婦羅、がんばったんだから」

「ああ、うまそう。――よし写真を撮って藤野に自慢しよう」

「やめてよ、藤野の彼女さんはすごい料理上手なんでしょ?」

「でもキスの日にキスの天婦羅を揚げる謎センスはないはず」


 褒められてるのか貶されてるのか。

 どちらでもいいけどね。爽真が楽しんでくれるのなら。



5月23日・キスの日

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ