後日譚『木崎の遭遇』
木崎のお話です
ふたりの甥っ子を連れてヒーローショーの会場に向かっていて、あのクソをみつけてしまった。向こうも俺に気づいたようで、ガン見してくる。
甥っ子の手前、面倒は起こしたくないと思っていると、クソ野郎がひとりでこちらにやって来た。
俺の前で止まり、険しい顔で甥っ子たちを見る。
「あんた」とクソ野郎。「ずいぶん大きな子供がいるんだな。結婚してるのか? それともシングル?」
ああ、そうか。誤解しているらしい。
「こいつらは甥だが?」
「――なんだ」
クソが表情を緩めた。
「『同期の木崎』」とクソが続ける。「覚えてるよ。莉音がよく話してた。とんでもなくイヤなヤツで、反りが合わない。世界で一番ムカつくヤツだって。なのに、庇いあうような仲になったんだな」
「悔しがれ」
クソがはっと笑う。
「マジで性格悪い」
「お前ほどじゃねえよ」
クソは視線を逸らした。
「――ま、良かった。莉音が不倫なんかするはずはないとは、思ったんだがな」
なんだそれ。
「じゃあな」
そう言ってクソ野郎が去る。行く先にはヤツを待つ家族。
まさかクソはクソなりに宮本を案じた、ということなのか?
もしかしたら、未練があるのか?
だが、それがどうした。
あのクソが宮本を傷つけたことは許さない。彼女には二度と近づけさせない。
「あの人、莉音ちゃんの知り合い?」
と、甥っ子が訊いた。
「いや。違うリオンの話だ」
「ふうん。それより爽真、早く!」
甥っ子たちが俺の手をひっぱる。
「ああ、悪かった。行こう」
宮本を守るのも隣に立つのも、俺だ。
「――ん。そう考えると、あいつが別れてくれたのは、俺にとっては良かったのか」
「爽真、何の話?」
「どうせ莉音ちゃんのことだよ。ママが『爽真は莉音ちゃんのことばっかり!』って言ってたもん」
「莉音ちゃん、可愛いもんね」
「そうだぞ、あいつは可愛いいんだ」
可愛い可愛いと騒ぐ甥っ子たちと会場に向かう。
もうクズ野郎の姿は見えなくなっていた。