お好み焼き店へ
☆8
・恵三は始まったばかりの夏に、
ユミとの8月31日に訪れる、
唐突な別れを思い、
気持ちが沈んで、少し泣いたが、
ユミが「着いたよ」と言うと、
目を拭い「お好み焼き楽しみだね」、
と言い笑った。
前部の後部座席の左隅の、
スライド式の座席の、
レバーを足で踏み、恵三とユミは、
お好み焼き店の割と広い、
駐車場へ出た。
ユミは優しく目を細め、
「着いたね」と言って微笑んだ。
竹崎先生は、
「皆、カウンター席で食べよう。
私顧問として、一応部員の、
面倒見ないといけないから」
全てが〈思い出としての記念〉、
だとしたら、恵三には、
ユミとのことも、
部員と過ごす最初の夏休みも、
けっして軽い気持ちで、
当たり前のように、
投げやりに生きることは、
とてつもない〈罪〉になるのだ、
と、ユミに会い、
感じるようになった。
一生懸命丁寧に、この夏を過ごす──
人を傷つけるなんて、
あってはならないのだ。
自動ドアが開き、
適度に冷房の効いた、
まぶしい夏の光から少し陰った、
落ち着いた適度に暗い店内に、
先生と部員とユミは入った。
店員が「いらっしゃいませー」、
と大きな声で言い、
竹崎先生は
「六名で。
カウンター席使えますか?」
と聞き、夏の平日に、
席は都合よく、
一人も座っていなかった。
先生は「九百円以内で」、
と言い、部員とユミは、
イカ玉、豚玉、ミックスの、
三種類しか選択肢がなくなった。
店内にはお好み焼きの焦げる、
じゅうぅ、と言う大きな音と、
香ばしく美味しそうな、
匂いが立ち込め、
恵三は改めて今、お腹空いたな、
と思い、
会食の楽しい空気を、
嬉しく思った。
隣に座ったユミに、
「お腹空いたね」と言って、
前もって箸を皆に配った。
竹崎先生は、気が利くねと言い、
皆は、短くアリガトと言い、
ユミは笑って、
「ありがとう☆
私もお腹空いた。
こんな機会が無いと、
私お好み焼き食べれなかった。
ケイちゃんって優しいね♪」
と言った。
恵三はユミの笑顔を見て、
心がいっぱいになった。
時間は過ぎてゆく──
全ての時間は言わば、
〈記念旅行〉で、
努めて、
楽しい思い出にしよう、
と思わねば、
明るく素直なユミを、
楽しく幸せな気持ちのまま、
夏を終え、笑顔で別れる、
大切な思い出の一コマとして、
自分の務めを全うする、
ことが出来ない。
恵三は思った。
また会いたいな、
と互いに思うことがなければ、
きっともう二度と、
この夏のことを、
ユミと二人で、
語り合うことがなくなり、
再び出会うこともできないのだ、
と。
笑顔のユミを見て、
恵三は時間は大切に、
使わないとな、と思い、
「豚玉の生地くるの、
楽しみだね」
と言い、ユミを気遣った。
しばらくして店員が六人分の、
豚玉の生地を、
銀のボールに入れて、
持ってきた☆
ユミは笑顔になって、
「やっと来たー☆」と、
明るい声を出した。
恵三は美味しいお好み焼きを、
六人で食べる、最初の夏休みを、
心から嬉しく思った。
(大切に日々を生きないとな)
…………『続く』