アルファードに乗って
☆7〈君といる夏休み〉
・少し息を切らせて、
部員四人とユミは学校の駐車場に着いた。
ユミはしばらくうつむいて、
息を切らせていたが、
恵三を見て柔らかく笑うと、
「楽しい会にしよう☆!
何か私もさなちゃんみたいに、
恵三君のこと、ケイちゃんって、
呼びたいな♪
いいよね?」
改めてそんなことを言われると、
恵三は、少し恥ずかしかったので、
言葉に詰まり身構えて、
赤面して、うんと肯いて、
目をそらしてしまった。
ユミは続けて言った。
「アルファードで、
同じ座席に座わろ☆!
パラスポーツのことを、
最初によく言ってくれたの、
ケイちゃんが初めてだし、
もっと一緒に居る時間を増やしたいし、
二人きりだったら、
違った話も出来るのかなぁ、
と思って。……迷惑?」
ユミが少し寂しそうな目をしたので、
恵三は強く否定した。
「そんなこと思うわけないよ★!
自分はユミちゃんが障碍者だって、
前から全然信じてないし、
ずっと……素敵な子だなぁ、
って思ってるし、
自分も出来ることなら、
ずっとそばにいたいと思ってる……」
それだけ恵三は言うと、
慌てて話した、
自分の言葉の意味が分かり、
プールでの出会いの時よりも、
強く激しく赤面して、
目まで潤んでしまうほどだった。
ユミはそれを聞くと、
恵三と同様に、
赤面しうつむいてしまったが、
「ありがとう。嬉しいよ」と言い、
少し上目遣いで恵三を眺め、
「じゃ、一緒に乗ろう☆!」
と言って、
恵三の手を引いた。
恵三は胸が飛び出るほど驚き、
(恥ずかしい)と思ったが、
ユミの大胆さを快く思い、
ユミのつないだ手をそのままにした。
竹崎先生が「乗って乗って!」、
と言いドアノブに手をかけたユミが、
最初に後部座席の自動開閉ドアを開き、
恵三とユミは一番後ろの、
後部座席に乗った。
お好み焼き店までの道路を、
恵三はまともに見ていなかった。
ユミは優しく笑い、
それを見る恵三は言葉に詰まり、
チラッとユミに笑顔を向けては、
赤面して無言になっていた。
一度だけ恵三はユミに語りかけ、
「パラリンピック楽しみ?」
と半ば緊張しながら問いかけた。
ユミは満面の笑みをたたえ、
「うん!
あんな大舞台で、
自由に体を動かすのって、
すっごく緊張するんだろうけど、
忘れられない思い出に、
なるんだろうなぁって思って、
うらやましく感じるよ。
今日の会食も素敵な思い出に、
しようね☆!」
恵三の心の中に、
曰く形容しがたい、
柔らかく優しい気持ちが溢れた。
(そうだよな、
一日一日を大切に生きなきゃ、
この限りある夏の日も、
何でもない、
ちっぽけな一日の記憶になって、
いつか消えてしまうのかも知れない……)
ちょっと悲しくなって目が潤んで、
恵三は目を拭った。
「うん。大切な思い出にしよう」
潤んだ目で恵三はユミを見て笑った。
夏の長い日は、
回り始めたばかりだが、
恵三はいつか来る、
ユミとの別れを思うと、
いたたまれない気持ちになった。
そんなこんなで、
先生の運転するアルファードは、
お好み焼き店に着いたのだった。
…………『続く』