境内で願ったこと
☆20〈君といる夏休み〉
・恵三とユミは、
水泳部の面々とは別行動を、
取った。
お互いの気持ちを、
恵三もユミも、
もちろん知っていたが、
それを言うと、
今まで築いてきた関係性が、
崩れてしまうことを、
二人は感じていた。
恵三はユミを見て一瞬押し黙り、
言った。
「……ユミちゃん、
とりあえず最初に境内に、
行こう。
お賽銭を入れて、
願い事をしよう。
よかったら、
ユミちゃんが何を願ったか、
訊いてもいい??
俺も訊かれたら言うから」
ユミは一瞬黙って、いいよ、
と小さく言い、恵三を見つめた。
お互いの中に、
深刻な空気が流れたが、
恵三はリードするつもりで、
「行こう」と言って、
笑った。
ユミはうなずくと、
恵三の後をついて行った。
17:00を回った縁日の屋台は、
人も多く活気があった。
若い親子連れや、
恵三と同じ学生服の男女や、
年配者と思われる私服の大人、
小学生くらいの子供たち、
などなど、
幅広い年代の男女が、
わた飴やりんご飴やはし巻き、
などを片手に、
友達と会話しながら、
楽しげに歩いていた♪
恵三はにぎわう屋台を歩き、
二人の間に流れる空気と、
周りのザワつきとの違いを思い、
「……俺今すごく、
楽しいから。
今日ここに来たこと、
すっごく嬉しいし、
来れてよかったって、
思ってるから」
と言った。
ユミを見ると、
彼女は黙ったから、
恵三は再び、笑った。
ユミも恵三の笑顔を見て、
笑ったが、
いつものユミの元気のない、
寂しげな笑顔だった。
二人はザワつく屋台の道を、
通り過ぎ木々の茂る、
静寂さの残る、
石門を潜り、
大きい鳥居を抜け、
大きい鈴の付いた縄の、
垂れさがる賽銭箱の置かれた、
神社の本殿に着いた。
恵三は財布から五十円を、
出した。
御縁(五円)を重々にする意味での、
五十円だった。
それを見たユミは慌てて、
自分の財布を探し、
同じ五十円玉を取り出した。
恵三は、
ユミの五十円玉を確認すると、
少し離れた場所にある、
賽銭箱に小銭を投げ入れた。
ユミも投げ入れ、
二人で鈴を鳴らし、
二拝二拍手一拝して、
二人でお願い事をした──
(ユミちゃんと、
ずっと一緒に居られます、
ように……)
強く念を込めるように、
恵三はしばらくの間沈黙して、
ただ祈るように、
ユミとの関係が壊れないことを、
心から願った──




