最後の思い出
☆18〈君といる夏休み〉
・最後に、
忘れられない思い出を残そう──
と思い詰めている恵三は、
当然のことながら、
部活の練習で、
元気がなくなっていった。
その様子を見つめる竹崎先生も、
ことが男女関係、
であることから恵三に助言を、
与えることはなかった。
寂しげに目を伏せる恵三に、
普段元気なユミも、
つられて言葉少なに、
悲しげな表情をするように、
なった。
(どうやったら、
思い出が作れるんだろう……)
部活終了時に、
思い詰める恵三を心配して、
同級生の宮前さなが、
話しかけてくれた。
さなは談笑の時間が終わり、
帰ろうとする恵三を言い留めて、
「ケイちゃん、
最近悩み過ぎじゃない?
ユミちゃんと別れるの辛いの、
分かるけど、
そんなに思い詰めてばかりじゃ、
ケイちゃん、
どんどん辛くなるよ。
私相談のるよ。
ケイちゃんの悩み顔みるの、
私も辛いから……」
恵三はあまり、
人から優しくされた記憶や、
思い出がなかった。
さなの言葉は、
必死で一人で耐える、
恵三にはとても温かく、
恵三は本当に泣いて、
ひとしきり号泣した。
……ありがとう、ありがとうと、
五分以上泣くと、
幾分か気持ちも収まってきた。
恵三は優しい顔で見つめる、
さなを見て、再び目を拭った後、
心を落ち着け言った。
「さなちゃん、
自分どうしても、
ユミちゃんと別れるの、
すっごく辛くて……
竹崎先生も来年の話とか、
してくれてるけど、
単純に自分アシもないし、
お金も持ってないし、
夏祭り、いい思い出にしよう、
って思うけど、
どうしたら最後に、
二人にとって最高の夏になった、
って思えるのかどうか、
自分男でガキだから、
何にも思いつかなくて……
よかったら、どうすれば、
忘れられない印象に残るのか、
教えて欲しい……」
恵三は完全に8月31日を、
世界の終りのように、
とても深刻に悩んでいた。
さなは、「そーなんだ辛いよね」、
と言うと、
恵三に単刀直入にこう言った。
「ケイちゃん、
気持ちを伝えた方がいいよ。
ユミちゃんもきっと、
ケイちゃんのこと真剣に、
好きだと思っているよ☆
……少しは元気出た?
お金とかアシとか関係ないよ。
大事なのは、
決して切れることのない、
ケイちゃんの純真な愛情だけ、
だよ♪」
恵三はさなの一言で、
心が動かされた。
(俺、ユミちゃんから、
ずっと逃げてたんだ……
気持ちを伝えなきゃ)
恵三は目を拭い、
少し泣くと、
さなに向き合い、
「さなちゃん、
ありがとう。
8月31日に、
自分の気持ちを、
全部伝えて、
好きだ、って、
言って、
忘れられない夏にしよう、
って思う。
決意した★」
比較的、
分かり易い性格をした、
恵三は気持ちを訊きつづける、
ことなく、さなの一言で、
気持ちが固まり、
不安ではあったが、
ユミに告白する意志が、
ハッキリと明るく強く芽生えた。
(もう何も話さなくても、
報われなくても、
俺にとってユミちゃんが、
離れられないから……)
恵三は相談に乗ってくれた、
さなに元気に、
手を振って別れ、
夏祭りを、
忘れない思い出にしよう──
と気持ちを新しくした☆
人間は辛い時には、
友達や仲間に相談して、
元気を取り戻すべきなんだ……、
友達付き合いの少ない、
恵三にはこの日のさなの言葉は、
とても美しく明るく、
幸せに生きることそのものを、
強く肯定してくれた☆
…………『続く』




