思い詰める恵三
☆17〈君といる夏休み〉
・恵三はこの年の夏休みに、
かなり思い詰めるように、
なっていた。
来年も本当に、
ユミに会えるのかどうか?、
全く確証がないのではないだろうか?、
と一人深刻に思い悩んでいた。
恵三は今まで、ユミのように、
キラキラと笑う、
明るい異性に巡り合った、
ことはなかった。
本当にそれを思うと、
夏休み終了と共に、
その後の縁がバッサリと切れる、
と言う恵三にとって、
耐えがたい最初で最後の出会い、
になってしまうのかも、
知れなかった。
三週間が過ぎ、恵三は考え方を、
変えた。
これが永遠の別れになるなんて、
どうしても、
受け入れられなかった★
恵三は告白する勇気、
こそなかったが、
せめて絶対に忘れられない、
思い出を作ろう☆、
こんなに素敵な気持ちになったのは、
後にも先にも初めてだから、
せめてその思いを完全に伝えて、
来年もまた行ってみたいな♪、
とユミに思わせる、
決定的な思い出を作って、
互いのことをずっと大切な存在として、
次につなげる為に、
忘れられない夏の思い出を、
演出したい!、
と高鳴る胸の動悸を抑えながら、
かなり深く強く、
思い詰めていた。
三週間を過ぎてユミの存在は、
思春期の恵三にとって、
絶対に手放したくない大切な人、
なので、部活終了後の、
自宅では二階の自室のベッドで、
横になり、
(何か絶対に忘れられない思い出は、
ないだろうか?)
と真剣に思い悩みつつ、
一人で塞ぎ込むことが多くなった。
もう恐らく、竹崎先生はこれ以上の、
素敵な思い出作りをしてくれないんだ、
と思うと、二人にとって、
決定的なことを言うタイミング、
シチュエーションが、
どうしても必要になった──
(俺は最後にユミちゃんに、
何をしてあげられるだろう??)
最初恵三は、
(ただ伝えればいいだろうか?)
と思い言葉を探したが、
どうしてもただ伝えるだけでは、
自分の思いそのものは、
決して伝わらないし、
素直で純真なユミには、
気持ちを伝えるだけでは、
どうしても自分の思い全部を、
伝え切ることはできない、
と思った。
何かアシである竹崎先生を、
どうにか巻き込みこの夏一番の、
忘れられない、
最後の思い出を作るには……、
と十分すぎるほど思い悩み、
一番身近にあるイベント、
8月31日にある夏祭りに、
竹崎先生も一緒に、
祭りの縁日で楽しい時間を過ごし、
最後になるかもしれない、
ユミちゃんへの自分の気持ちの全てを、
その時彼女に伝えよう、
それで〈絶対に崩れない淡い思い〉、
を彼女の胸の内に残そうと、
決意した。
その次の日の部活終了後、
恵三は水泳部の部員とユミと、
竹崎先生の前で言った。
「あの先生、実は俺、
最後に思い出を作りたくて、
よかったら皆で夏の終わりに、
地元の小さい夏まつりに、
行きたいです★」
恵三は普段は絶対に使わない、
激しく怒鳴りつけるような絶叫で、
思いをぶつけるように、
その一言を吐き出した☆
水泳部とユミの空気は、
一瞬冷えて固まったかに、
見えたが、竹崎先生は一言、
「小牧は純粋だから、
ユミのこと忘れられないんだな」
と言い、31日の練習後に、
17時から18時半までの時間を取り、
先生のアルファードで、
地元の神社の境内まで移動し、
恵三の思いに答える約束を、
してくれた☆
今回は部員全員が参加する、
ことになった。
竹崎先生の明るい人柄を思うと、
恵三は無償に目が潤んで、
何回も目をこすってしまった。
(ありがとう竹崎先生……)
恵三は中学入りたてに、
絶対に忘れられない、
恩師に出会ってしまった。
ユミは、
恵三が思い詰めていることに、
もちろん気付いていたので、
「ケイちゃんのことは、
絶対忘れないよ♪
この夏で感じた思い出……、
また来年にも活かしていこう、
って私も思ってるよ☆」
と元気に言い、
柔らかく優しい目で笑った──
(ユミちゃん、大好きだよ……)
恵三は絶対に面と向かっては、
言えない気持ちを、
心で口にして、
一人この夏に起きた出会いが、
とてつもなく幸せなものだったと、
思うのだった。
…………『続く』




