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即興短編

イブ

瞼をオープンする

命令は書かれていた

サボテンに水をやれ

サボテンはなかった

立ち上がる

ドックを背中が離れる

鏡に映る

ツインテールロリメイドというには少し大人びた顔立ち

すらりと細い身体が鏡の中を通り過ぎる

テラスに立ち

世界を見渡すと

人類は絶滅していた

私を造った人間の声が頭の中に再生される

125Khz〜500khzを多く含む声質だ

あたたかくやわらかい声に分類されていた

「おはよう。この音声を聞いているということは、目覚めたようだね、イブ? 私は最後の人類だ」


外を歩いた

砂嵐の中だ

歩くのが困難

平坦でない大地

ボディーに負荷がかかる

とりたてて何もない

保存すべきものは何もない中を

進むうちに

生体反応

あった

サボテン

吹きさらしの大地の真ん中に

あった


「サボテンに水をやってくれ」

私の頭の中の声

「千年に一度花の咲く品種だ。これが花を咲かせる頃、人類もまた戻って来る。その時、君は1人じゃなくなるから、水をやってくれ」

命令を守る

背中の貯水タンクから

水をやる

サボテンに

雨も低確率で降る

やり過ぎてはいけない

気をつけて

気をつけながら

サボテンに水をやる


天気はずっと砂嵐

たまに晴れる日もある

予測はできない

計算を繰り返しながら

私はドックで眠り

起きたら外を観察して回る

変化はない

ただ私の頭の中の声だけが

通過地点に応じて言葉を変える

「サボテンに水をやってくれ」

「今日も綺麗だな、イブ」

「僕が造った君のことを、愛しているよ」

「愛しているよ」

人間

私とは違うもの

計算できない

天気と同じ

私はサボテンに水をやる

これはいつも変わらない

解析は容易

いつも変わらない

計算もできる


晴れた夜に

空を見上げた

龍のような星が渦巻き

こちらへ降りて来ようとしている

私の中にインプットされた語彙が

そんな表現をした

誰も聞く者はない

サボテンも今は遠くにある

誰かに聞いてほしいという

ウイルスのようなものが胸に産まれたので

排除した


頭の中の人間の声がしなくなった

故障だろうか

なくても特に不具合はないと判断

修復の必要なし

今日も外は晴れている

非常に稀な確率の日だ

私はドックを離れる

老朽化が進んでいる

そろそろすべてが終わるのだろうか

サボテンに水をやりに行く


サボテンに花が咲いていた

人類は帰って来なかった

緩い風の中の黄色い花に

私は何かを感じた

機械の胸の奥で

温度の上昇は非検知

それなのにあたかかった

解析は不可能

私は笑った

私を造った人間が

最後の日に私にしたことを

思い出した

あたたかい彼の唇が

私のこめかみに口づけをした


「お帰り」

 私の口から産まれて初めての言葉が発声された。




セラニポージ「EVE」の歌詞に着想を得ました。

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