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蝙蝠怪キ譚  作者: 芙山なす
第■■章《片羽の無い天使》
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第■■章6『似てねぇんだよ』

 


「こいつら生きてる!! アリボトケ、ブルーシート、そっち持ってくれ」


「え、ひゃっ!? は、はい、分かりましたっす!」


 ()()()()()。片羽を失くした十三羽が余すことなく羽ばたき出したのだ。片方だけじゃ飛べないことは分かっているのだが。絵面が怖すぎるので、ボクはアリボトケと共にブルーシートで必死に押さえつけていた。


 ばさばさっ。

 と、ふくれた青いシートが暴れる。 


「っ、駄目だ!」


「俺たち、だけじゃ、無理っすよ!」


 二人じゃ、無理だ。


 誰か。

 そしてボクは、思わず、呼んでしまったのだ。



「誰か、──つくし、はるか!」


 来るはずも無いのに、縋るような声で。思わず呼んでしまったんだ。恥ずかしい。

アリボトケは目を見開いて、ボクを見ていた。

 まさか、答えてくれる声なんて──、



「──レイ君、押さえればいいんですね」


「は、ぁ──────つ」



 張り上げた声に応えてくれたのは、つくしという少女。


 ────ではなかった。

 


「似てねぇんだよ、ササコちゃん」


 一瞬でも間違いそうになったボクが、恥ずかしい。ただ、女のコってだけでそう錯覚してしまうのだから女々しいものだ。似てもいないツクシの真似なんかをしたのは、ふざけた学園ポリスの一員である、


「登場! トージョー! 学園ポリスが一人、東条ササコちゃんだよ〜」


そう、黒髪ド巨乳ゆるふわ美少女の後輩。パンダのヘアピンに、パンダのブローチ、名前通りにパンダ推しな彼女に、


「ササコちゃん! そこ、押さえて」


 と、叫んだのだった。


「もぉ、レー君先輩ってば手がかかるんだから〜! この、風紀委員のササコちゃんが手伝っちゃいま〜す!」


「おう、こっちを」 


「は〜い、っと」


 ぼふんっ。


 ササコちゃんのおかげで、ブルーシートは一瞬で静かになった。というか、彼女がシート内の真ん中に、思い切り膝を振り下ろしたこともあるんだろうが。ボクは、胸を撫でおろした。当然、自分の胸である。


「有り難いんだけど、何で来てくれたの。ササコちゃん」


 ボクは、女学生の露わになったままの太ももを直視しながら、そう聞いた。その下でうごめくカラスたちが、幸か不幸かといえば、もちろん幸だろう。そうだ、幸に違いない。いや、幸でしかないだろう。ボクにとっては、幸である。あぁ、踏まれたい。


「ぶれないねぇ〜、レー君先輩は。カーちゃんの許可が下りたら踏んだげるね〜」


「そりゃ、一生不可能な話だな」


 カーちゃんこと、天追カコミは学園ポリスのリーダーである。しかも、異常なほどに、ボクを嫌っているのだ。最近は息を吸うだけで殴りかかってくる。

 ボク、センパイなんだぜ? 敬愛の仕方だけは、アリボトケを見習ってほしいものだ。


「ササコちゃんっ、呼吸するだけで踏んでくれる?」


「え〜、気持ち悪いよ〜、レー君センパ〜イ」


「変態の呼吸、一ノか────」


「……踏んでい〜い?」


「喜んで」


 そしてボクは、望み通り、美少女の膝蓋骨でぐりぐりされたのであった。



 ◆◆◆◆


「ター君も大変だね〜、こんな変態が居たら委員会活動もはかどらないでしょ〜?」


「いいええ。レイ先輩はやることはやる男っすから。ガラじゃなくても、ちゃんとお花の水やりやってくれるんすよ〜! でへへ〜自慢の先輩でーすっ!」


「ター君も、物好きだねぇ」


「ササコちゃんも大概ね………」


 この空間、つらい! アリボトケと二人きりも辛いが、ササコちゃんも入るとさらにカオスだ。現にブルーシートを3人で押さえつけたまま、ボクらはその場で固まっていた。


「ん〜、ハル君先輩は居ないしぃ〜。風紀委員長も、ここ一体の封鎖をしてくるって言ってたし〜。他の委員の皆は聞き込みに行ったしぃ〜。暇なのササコだけなんだよねぇ〜」


「単にササコちゃんがサボってるだけだろうが」


 仮にもお前、学園ポリスで風紀副委員長なんだから。もっと捜査に意欲的になってほしいものである。


「だって〜、不思議部と活動内容ダブってるんだも〜ん」


「それについては、この前討議したろ」


「そーいえばあったっすね、不思議部VS学園ポリス! ま、我らが不思議部が勝ってたっすけどね」


「そ〜だね〜。その負け惜しみで、学園ポリスは存続してるんだけどぉ〜。カーちゃんは吹部だから全然来ないでしよ〜? トーちゃんも弓道部だから全然来ないんだよ〜。ササコ一人で何するんだーって話だよね〜」


「いや、そんな話してないってば」


 あと、いい加減、その呼び方をやめてほしいものだ。カコミはカーちゃん。オトリはトーちゃん。分かりにくいったらないじゃないか。母ちゃん父ちゃんで狙ってんのか。オトリちゃんに至っては、何故オーちゃんと呼ばない。

 だが、この間、学園ポリスの前でその話をしたらオトリちゃんに永久歯を抜かれそうになったのだ。割と本気で。本人はおそろしいほど気に入っているあだ名らしい。


「そうだよ〜、カーちゃんとササコとトーちゃんは、永久歯みたいに仲が良いんだからぁ〜」


「どういう意味だか分かんねえよ!」


「ササコ先輩、アレっすか。友情は永久不滅、的な?」


「あ〜ん、ター君惜しい! 永久歯なんだなぁ」


 膝の下にカラスを敷いて、何語り合ってんだ、こいつらは。


「で、この十三羽のカーちゃんたちって〜」


「おいおいおいおい、親友のあだ名とダブってんぞ」


「あー、失敬〜。このカラちゃんたちって、生きてるんだよね〜。てことは〜カラちゃん大量殺傷事件、とは言えないわけだぁ」


 彼女は、何ら変わらぬ口調で話し始めた。


「言われてみれば、傷ついてはいないっすよね。出血も、無いわけですし」


 アリボトケは、ですます調でそう加えた。いったい、東条ササコは何を言いたいのだろうか。


「つまりアレだね〜。これは"連続片翼神隠し事件"、だね〜」


 間の延びすぎた声で、東条ササコはそう言った。別に上手いことを言ったわけでもないのに、彼女は実に満足げだった。漢字、多いなぁ。もうごてごてじゃないか。


 かみかくし。


 それも異例の、動物の片翼だけを隠す事件。

 待てよ。


「ササコちゃん、"連続"って」


「そう。これは、連なって連なって、続きつづける怪事件。ササコはね、これがすさんだ学生のお遊びじゃないと思うんだぁ〜。誰かがしっかりした目的を持って行っている"本物の神隠し"」


「連続性を疑う根拠は?」


「実は今日のこれで、三件目なんだよね〜。学園内で飼ってるウサギとチャボが、左足とか左羽とかを失った状態で見つかったの〜。失くなったものは、カラちゃんと一緒で何にも見つかってないけどね〜」


「そんな話、ボクのところには──」


「当たり前だよ、レー君センパイは、一般人だし。ショッキングな事件だから、巻き込みたくなかったの〜」


 ササコちゃんはそういって、完全に静かになったブルーシートから足をどけた。アリボトケも、ボクも、遅れながら膝を上げる。


「ササコちゃんはどうするの?」


何気なしに、少女の方に声を投げた。


「風紀委員長が来るまで待ちま〜す」


「そっか。じゃ、さ、また、なんかあったら言ってくれよ」


「はいはーい」


 彼女はゆるりと敬礼してみせた。ボクもそれを返して、歩き出す。東条ササコと、逆の方に。


「──予行演習じゃ、ないといいねぇ〜」



 黒を持つ少女の。

 白を持つ少女の。


 そんな呟きと共に。連続片翼神隠し事件は、幕を開けたのであった。



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