第二話 『セラのスープ』
彼女の手を取った時、まるで、それこそが世界の全てであるかのような錯覚に陥った。
なぜなら、それが記憶喪失少年こと「ポチ」の最初に触れた手の温もりだったからだ。
(やばい...また泣いてしまいそうだ)
どこか懐かしいような、切ないような、そんなノスタルジックな感触を体験して、元来自分の名前がポチであったような気さえしていた。
「ふふ、何だか照れてしまいますね。さあ、スープが冷めない内にいただきましょう」
「は、はい。いただきます」
(あぁ、温かくて美味しそうなスープだ。それにパンとミルクまで付いている。そして、目の前には最高の美女。言うことなし...待って。不味い。すごく不味い。うわ、まっず!!!えぇえ?やばまずぅ!!!)
語彙力が失われしポチ少年は一口口に運んだところで、まるで、そのスープに入った野菜のように固まってしまった。
(野菜に火は通っていないし、味はほとんどしない。てかこのネバネバなにぃ!?うっ、そして後からこみ上げてきたこの苦味が...!カルロスさんは平気な顔をして食べていたが、俺が思うにこれは好みの問題なんかじゃない!)
「もしかして、このスープがお気に召さなかったですか?」
不安そうな表情でそう聞いてきた彼女に、文句など言えるはずもなくーーー
「いえ。とても美味しいですよ。ですが、病み上がりなもので、何やらお腹の調子が良くないみたいざます」
咄嗟の言い訳に語尾が狂いだすポチ少年。
「そうですか。でしたら、残してしまっても構いませんよ」
微笑みながらそう言う彼女に少なからず罪悪感を抱き、気合だけで胃の中に全てを押し込める事にした。
「実は、この後村を案内したいと思っていたのですが、体調が優れないようなのでまた今度ですね」
村か...いや、かなり気になるぞ。すごく見て回りたい。ちょっと歩き回るくらいには体調も回復してきたような気がする。
「いえ、美味しいご飯もいただいて元気が出てきました。村の案内、お願いしてもいいですか?」
そう言うと、彼女の表情がパッと明るくなりーー
「よかった!それでは身支度を終えたら出発しましょう。後で着替えを持って行くので、部屋で待っていて下さいね!」
その可愛らしい笑顔を受け、ポチ少年はある純粋な疑問を抱いた。
彼氏とかいるのかな...俺にもワンチャンあるのかな...処女だったりするのかな...てか今どんな下着履いてんだろ...。