Epilog Ⅱ
「じゃあ、先に行ってますね。私、着替えもありますから」
「ああ」
相変わらずの上品さで、彼女は玄関の扉を開こうとする。
ウオールはその姿をどんな顔で見て良いのかもう分からなかった。
「結婚おめでとう」と昨日ようやく言えたことでもう結婚式が終わった気でいる。
むしろこれからであるのに。
これから、娘の一生で一度の晴れ舞台なのだ。
本来ならば誇らしく考えるべきなのであろうが、ウオールはこれから一人で暮らさなくてはならないという孤独感の方が強かった。
そのことにまた、罪悪感を覚える。
「お父様?」
「……五年前までは、お父さん、だったのにな」
「もう、私も成長したんですよ」
自分が命を賭して守った娘が、今、自分の手を離れようとしている。
そのことが、なんだか悔しくて寂しくて、そして、そう思ってしまう自分が嫌になりながら、不思議そうな顔でこちらを見つめる彼女を見つめ返す。
「どうしたのですか? そんなに呆然として。……教会で会いましょうね、楽しみにしててください」
何も言わないウオールにしびれを切らしたのか、ティアは微笑みながら扉を開けて出ていく。
それでも気持ちがまとまらず、うーんと何度も呻りながら、玄関をしばらく歩き回った。
ふと、暖炉の上に置かれた剣が目に入る。
あの戦いの最後に、ウオールが握っていた剣。
この剣は、ウオールが愛用していたものではない。
しかし、それ以上に価値のあるものだ。
今のティアの命は、ウオールのみの手によって生かされたものではない。
このウオールの命でさえも、いろんな者に助けられたのだと、その剣を手に取りながら実感する。
剣の奥から、青年やジャスの声が聞こえてくるような気がした。
そうだよな、とその剣を丁寧に置く。
寂しがっている場合ではない。
ティアの祝福は、ティアの命を救ってくれた全ての人に対する感謝に繋がるのだと、ウオールは早足でその場を離れる。
家中を駆けめぐり、その日の結婚式に着ていく衣装を見繕う。
昨日までそんなものを考える心の余裕がなかったのが恥ずかしく思われるが、それ以上にウオールは必死になって、娘の結婚式に着ていく服を探した。
「あーくそう」
タンスやクローゼットから、あるものをすべて取り出してみるが、地味なものばかり。
これでは結婚式に参列なんて出来ないと、この家で見繕うのは早々に諦めた。
最低限の荷物だけ持って、ウオールは玄関に向かう。
衣装を買いに行かなくてはならない。
娘の結婚式に着ていけるようなものを。
急げ急げと、必死になって玄関の扉を開く。
人々の間を縫って、大通りを駆ける。
突風に巻かれたのかと人々が錯覚するほどに、その動きは瞬速であった。
家の中に、どっしりと、一本の剣が置かれている。
窓から差し込む優しい光が、ボロボロの剣先から柄までを輝かせていた。
この剣を、ウオールはもう握ることはない。
新しい、孤独な日々が始まる。
それでも、ウオールはまだこの世界にから離れることを考えたことはなかった。
幸福に満ちたこの世界。
愛に満ちたこの世界。
ここまで生きたことに、ウォールは満足しているのだ。
ティアのこれから始まる幸福を、祈らずにはいられない。
どこからか、祝福のコラールが聞こえてきた。
それは全てを包み込み、幸福がやがてやってくることを教えてくれる。
ウォールはその声を耳を澄まし、焦っていた気持ちを落ち着かせた。
通りの中心で立ち止まる。
ウォール以外の人々も、その透き通った声を心の奥深くまで聞き入れようと、耳を澄ました。
君を守る剣はもういらない。
今は、君を祝福する歌を歌いたい。
end
完結です。ここまでお読みいただき、ありがとうございました。最後にウォールが報われて良かったです。
この作品に込めた思いは多々ありますが、まだまだ未熟な自分では表現しきれていないことも多くあります。これからもたくさんの作品を書いていく予定ですので、ぜひ応援をよろしくお願い致します。
皆さんの感想を聞かせて欲しいです。ぜひ、評価や感想、宜しければレビューなどいただけますと、大変励みになります。よろしくお願い致しますm(*_ _)m
最後に、改めまして、最後まで本作「君を守る剣はもういらない」をお読みいただきまして、本当にありがとうございました。
次回作は、「君のキスは軽すぎる」というローファンタジーヒューマンドラマになります。来週投稿予定です。




