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その剣は誰がために 3

 一斉に国属騎士が馬を走らせ、ジャスに武器を振り下ろしていく。

 その軌跡を鋭い目で見据えながら、ジャスは最低限の動きで余裕を持って交わす。

 しかし、長くそれを続けられるわけではない。


 相手はジャスよりも長く戦場で戦ってきた国属騎士達の集まり。

 いくらウオールの一番弟子とて、限界はある。

 剣や槍を躱すのに精一杯であるジャスを、気味の悪い笑みを浮かべながら騎士達は責め立てる。


「ほおれ、背中がお留守ではないか!」


 一人の騎士が振り下ろした剣先がジャスの背中を掠めた。

 服が裂かれ、白い背中に一本線が刻まれる。

 血が滲み、痛みに顔をゆがめた。


 よろめくジャスに機嫌を良くしたのか、騎士達の数人が馬を下りて、正面からジャスに向かって疾走する。


「まだまだ、やれるだろう! ジャスぅ!」


 ジャスはキッと彼らを睨み、瞬時に左へ地面を蹴り、振り下ろされる武器を避けたのも束の間、一人の騎士の肩に一閃浴びせた。

 

 その騎士は斬られたことに一瞬気づかなかったが、かなり深く刻まれた肩の傷から血が噴き出し、痛みに歯を食いしばって呻る。


「ぐうう!? おのれえ!」


「やるではないか! さすがはウオールの一番弟子よ!」


 刹那の達成感に脱力していたジャスをこれ以上休ませまいと、更に数人の騎士が彼女に斬りかかる。

 ジャスはなんとか再び意識をその武器の軌跡に集中し、身体を動かした。


 右に、上に、時には下に伏せる。


 そして、その動きになれたところで、剣を振って反撃。

 彼らが楽しむように振り回していた腕を数回切りつけた。


「なんと!」


「ぐああ!」


 決して致命傷ではないが、彼らは剣を握ることもままならない。

 もう攻撃できないだろうと、ジャスは再び止めていた息をつく。

 

 剣についた血を払い、残り数人を見回した。


――あと、7人


 残りの国属騎士達は、ジャスによって切りつけられ痛みに耐える騎士達を見回しながらたじろいでいる。


 彼らの目に恐怖が宿ることに、ジャスは少し安心した。

 こいつらだって、狂ってはいるが、人間であることに変わりない。


 別に、全員と戦う必要は無いんだ。

 戦意をそげば、勝機はある。


「おやおや、先輩方、ジャスごときに手こずって、何をしていらっしゃるのです~?」

「だ、黙らんかエネ!さっさとこいつを始末しろ! 手前の地方騎士どもを動かせ!」


 エネの煽りに、おどおどと攻めかねている騎士が怒号を飛ばす。

 それに、エネはやれやれと両手を広げ、一向に地方騎士へ指示を飛ばそうとしない。


 ウオールに殴られた顔は腫れ上がっているが、まだ余裕がありそうだ。


「ジャス、ウオール一人で行かせて良かったのか?」

「……あの人は、どれだけお前達が向かってこようと負けることはない」

「そうかな? ウオールがこれから戦う部隊は、国属騎士がより多く編成された部隊。しかも、しかもな。あいつの今の教え子が大量にいるんだよ! どうかなあ、ウオールは、自分の弟子を切れるかなあ? 弟子を大切にしてるもんなあ?」


 エネは時折吹き出しながらジャスに語りかける。

 しかし、いかに煽ろうとも、ジャスが反応することはなかった。


 その様子に、エネも、周囲の騎士達も違和感を覚え始める。

 目を細め、ジャスの顔つきを伺うも、彼女はまったく表情を変えない。

 キッと睨み付けるような瞳をしているわけでもなく、ただ、静かに肩を揺らしながらエネを見ている。


「な、なんだよ。なぜそんな顔をする? はったりか? 本当は焦っているんだろう?」

「ふっ。エネ、お前はウオール先生を見くびりすぎだな」


 ジャスは余裕をもって笑いかける。

 凜とした目つきに、地方騎士達は少し見惚れてしまっている。

 

 エネは、憎たらしそうに顔を歪ませながら「なに?」と唇を震わせながら問う。

 ジャスは笑いながら剣を下げ、語り始めた。


「私は、ウオール先生の一番弟子だぞ?」

「それがどうした?」

「その私が、ここで、この大軍を相手に、生き残れるとでも?私はここで死ぬのだ。あの人の目的のために」

「目的だと」

「ティア殿。娘のためなら、あの人は何でもするだろう」


 ジャスは少し寂しげな顔をする。

 エネはその表情が何を意味するのか理解できず、苛立って髪を乱暴に掻きむしった。


 ジャスは、少しの間目を閉じて回想する。

 ウオールが、ティアを大切に思うその姿を。




――あんなに普段寡黙で無表情な人が、娘の頭を撫で、そこにいるとわかれば私を置いて走って向かう。あんなわかりやすい親馬鹿がいるだろうか。でも、私は、そんなあの人を、愛してしまったのだ!


 ジャスは剣を構える。

 周囲の騎士達を睨み付け、剣を握る手に力を込めた。


 その瞳から発せられる殺気に、思わずエネを含めた騎士達は後ずさる。

 

 地方騎士達はもう怯えきっていた。


「一人でも多く、貴様らを、殺す。私に向かってきた者は、もう、生きては、帰れんと思え!!」

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