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君に託す幸福 2

 ジャスは町を出ると鎧を脱ぎ捨て、背中にティアを背負ったまま歩き出す。

 明確に行く当てがあるわけではないが、ウオールを探そうと心の内では定めていた。


 グリーフ国への道は資料でみたものが頭に入っている。


 問題ない、大丈夫だ。

 そう何度も言い聞かせるように呟きながら、道なき道を歩む。


 荒れ地に生き物もいない。水もない。

 グリーフ国に行くには馬で1日かかると聞いていたのが確かであれば、ティアを背負った状態で徒歩であれば一体何日かかるのか。


 ジャスは永遠に続くような代わり映えしない景色に疲弊しきっていた。

 太陽が最も高いところに至る前に城下町を出たが、空を見上げてみれば一番星が瞬いているのが見える。


 だんだんと息が切れてきて、まぶたが落ちそうになる。

 そのたびに足に力を込めて深く自分を叱るように呼吸した。


 大丈夫だ、まだいける。

 背中のティアは目をつむって寝息を立てる。


――この子を守らなければ。


 ジャスの心に宿る使命感。

 それが重い足をなんとか動かし続けていた。

 太陽は無情に沈んでいく。

 上から見下げてくる星たちも増えてきて、ジャスは荒れ地を歩いていると言うよりも空の中にいる気持ちになる。

 切れていた息はいつの間にか整い、足が軽く動き始める。


 凜とした顔つきで、ジャスはどんどん歩みを進める。そのかいあって、ウオールたちも訪れた暗い森を見つけた。

 遠くからでもわかるほど、動物たちの声が聞こえてくる。


 そこならば、少し休むことが出来る。

 ティアにも食物を与えることが出来るだろう。

 森があり、生き物が住んでいると言うことは水もあるはずだ。


 ジャスは大きく頷いて歩む。

 背中にいるティアに「もうすぐ休める場所です」と優しく声をかけながら。




 森は、外から見れば希望の宝のように見えるが、中は暗く、恐ろしさを感じるものであった。

 ジャスは森に入って少し進んだ場所にティアを下ろして息をつく。

 周囲を見回すが、動物の声が聞こえても姿は見えない。


 どうにか目星をつけようとしばらく耳を澄ましていたが、余り遠くないところから、ひときわ大きく恐ろしい声が森に木霊した。

 ジャスは腰の剣を抜いて警戒する。

 声がした方ははっきりしている。来るならそちらからだ。


 ジャスはじっとそちらを見つめるが、少し離れたところになると暗すぎて何も見えない。

 じっと、目をこらし続けると、奥から重い足音が聞こえてきた。

 そして、腹を空かせた肉食獣の声。

 ひたひたとたれる水滴音。


 ジャスは剣を構える。

 奥から出てきたのは、ジャスの二倍はある大きさの熊であった。


「グオオオ!」


 熊もジャスに気づき、威嚇の咆哮を上げる。

 近隣の鳥たちが一斉に飛び立った。


 しかしジャスは動じない。

 距離を一歩一歩詰め、一気に飛びかかる。

 狙うは首。

 一撃で仕留めるつもりであった。


 しかし、その熊の足下からなにかが突然飛び出してくる。小熊だ。


――しまった!


 ジャスは既に地面を蹴り、空中に浮いてしまっている。

 小熊の奇襲を逃れる手段はない。


 小熊はジャスの手首に強い力でかみつく。

 鋭い牙が皮膚の中にブチブチと繊維をちぎるような音を出しながら食い込んでくる感触に、ジャスは絶叫しそうになった。


 思わず剣を落とし、その場に倒れてしまう。

 小熊は更に突進を仕掛けてくるが、それをなんとか蹴りで突き飛ばし、真上に見える大きな熊を見上げた。

 しかし、その熊はこちらを気にしている様子はなく、襲ってくる気配はない。

 ジャスは不審に思いながらも小熊が立ち上がる姿を見てその場を飛び退いた。


 剣をもう片方の手で持ち、向かってくる小熊に向かって振り下ろす。

 剣は子熊の頭を捉え、そのまま力を込めて真っ二つに切り裂いた。


 息を切らしながらなんとかなったことに安堵したのもつかの間、先ほどまで呆然としていたように見えた熊が突然起き上がり、ジャスの後ろから鋭い爪のついた腕を振り下ろそうとした。

 完全に不意を突かれたジャスにその爪が迫る。


――やられる!?


 慌てて剣を握っていない手を地面について起き上がろうとするが、先ほど噛まれた傷口に電撃のような鋭い痛みが走る。

 もうよけられない、ジャスが恐怖に顔をゆがめたとき、耳をつんざくほどの轟音とともに、目の前の熊がすさまじい勢いで弾き飛ばされた。


「……え?」


 熊はそのままいくつもの木を折りながら飛ばされていく。

 漸く止まったときには、完全に動かなくなっていた。


 ジャスは呆けた顔で目の前に現れた大きな影を見る。


「ジャス、良かった。危なかったな」


 ウオールだ。


 何時もの少し困ったような、穏やかな笑みを浮かべてジャスを見つめている。

 ジャスは緊張の糸が切れたのか、目元に涙を浮かべた。

 ウオールはその意外な姿にぽかんと口を開けて暫く何も言えずにいたが、少女のような姿に思わずウオールはその頭を撫でてしまった。

 ジャスは素直にそれを受け入れている。


「う、ウオール先生」

「よくきたな。逃げてきたのか」

「あの、ティア殿と一緒に、来ました」

「なに!?どこだ!」


 ジャスは目をこすりながらティアがいる方を指さす。

 ウオールはそちらに必死の形相をしながら走っていく。


 その様子に、ジャスは少し笑った。


――あいかわらず、いつも娘さんが一番なんですから、ウオール先生は


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