9(ディラン視点)
最初に。もうこの話で私の片思い中の勇者が妹にプロポーズするみたいなので、諦めて逃亡したいと思います の小説家になろうでの連載を終わります。
理由は活動報告にも書いていますが、感想でけなされることに疲れたからです。中には確かに応援してくれる有難い方もいますが、趣味で無償で書いているのに、何故こんな風にけなされなければいけないのか分からなくなりました。以前書いていた小説でもこのようなな感想はありましたが、今回はリアルの精神的にも負担になってきたので、やめたいのです。
趣味で空き時間に楽しく書いていたのに、作品を書くことが苦痛になりそうです。
他の作品で小説家になろうに復帰する可能性はありますが、こちらではもうこの作品の続きは投稿しません。
個人的な理由でこのような結末になってしまい、ブクマや評価をつけて頂いた方には非常に申し訳ありませんが、もうこの作品は投稿しません。
今迄読んでくださってありがとうございました。
城塞に入る際に最初に目に入るのは、立派な門。造られてからかなりの年数がたっていながらも威厳が失われていないその門は、そこに佇むだけで長い歴史を感じさせる。
昔は何度もこっそりとこの門を潜り、街まで出かけていたことを思い出す。そんな懐かしい思い出が今はただ辛かった。
けれど、城塞内に足を踏み入れると違和感を覚えずにはいられない。城塞の中はもぬけの殻なのだ。ここまで走らせた馬を預けに行った厩舎も人どころか馬すらもいない。丁度厩舎から見える教会の辺りも静まり返っている。きっと城内で働いていた人間達も城外や街の修繕作業に回されてるのだろう。
そうして暫くフェリシアに城塞内の案内をしながら、歩く。よほど余裕がなかったのだろう。城塞内は俺が旅に出た時よりも薄汚れて、一部の場所は魔物の爪痕が深く刻み込まれ、壊れているというのにそのまま放置されていた。
昔は絶え間なく流れ出ていた噴水も今では手入れ不足で生えた藻すらも干からびて、昔の美しさは見る影もない。本邸前でそんなものをボーっと眺めていると、屋敷の扉が急に開き、俺に声が掛かった。
「ディラン様……!?」
「マーカス?」
声を掛けてきたのは#家令__ハウス・スチュワード__#のマーカスだった。俺が子供の頃からずっと世話をしていてくれた執事だ。どちらかというと怒られることの方が多かったが、それ以外の時は味方でいてくれた……昔から頼りになる男だった。その姿を見て、心の底から安心する。
「ああ。今帰った」
「よくご無事で……!」
マーカスは駆け寄ってきて、俺を抱きしめる。普段なら男からの抱擁など絶対に受けない俺だが、この時ばかりはその温かさが嬉しかった。けれどそんな念を吹き飛ばすかのように、はたとマーカスが冷静な声で発した。
「して、そちらの女性は?……こんな大変な時期に王都から遊ぶ女性を連れ帰ったなどだったら、ご主人様に――――」
「違うっ!!こいつはっ……そんな軽い相手じゃなくて俺の――――」
こいつは俺のーーーー定義しようとすると難しい。言葉を紡げなくてしりすぼみになってしまう。フェリシアは俺の昔からの親友であり、戦友であり、幼馴染で腐れ縁のライバル……なにより俺の長年の想い人だ。
我ながら情けないと思う。長年ずっと想いを告げる勇気も出ず、ズルズルとこの感情を引きずっているのだ。……俺はこいつの事が人生を狂わされるほどに好きなのに――――。
「ディラン様?」
マーカスに声をかけられて、正気に戻る。俺はマーカスが心配するほどに数秒の内に考え込んでいたようだった。
「あ~、俺が昔から文通していたやつがいただろう……」
「はい?えっと、まさか子供の頃、ディラン様が毎日のように”フェルからの手紙は!?”と聞きに来てい――」
「っ~~、余計なことを言うな!!」
マーカスが思いだすついでに余計なことを口走ったので、思わず焦って遮る。確かに子供の頃、フェリシアからの手紙が来ていないかの確認は毎日の楽しみで日課のようなものだった。手紙が来てたら喜んで、手紙が来てないとその日のテンションが下がるのだ。……中々に恥ずかしい思い出だ。
とは言っても、俺が5・6通出して1通帰ってくるくらいの頻度だった故に、手紙が来てる日の方が少なかったわけだが。
「っこれは、大変なご無礼を――――」
マーカスはフェリシアの立場が分かり、哀れだとさえ思う程に一瞬で顔が青褪める。マーカスのこんな顔初めて見たな~などと呑気なことを考えながら、俺は成り行きを見守る。フェリシアはそういう事を全く気にしないタイプなのに、久しぶりに会った家令が無礼を働いたとオドオドする姿は見てて少し面白かった。口を挟まないのは俺を一瞬でも焦らせた仕返しだ……不謹慎だとは思うが。
「いえ、私も馬に乗るためにこんな汚い格好をしていましたから、分からなくて当然ですよ。気にしないでください」
「申し訳ありませんでした。……ディラン様?」
マーカスの張り付いたような笑顔が怖い。きっとフェリシアを連れて来ることを連絡しなかった俺に怒っているのだろう。今度は俺が顔を青褪めさせる番だった。
「後で、お話しましょうね?」
「……はい」
マーカスの説教の呼び出しに俺は頷くことしか出来なかった。
***
俺がフェリシアに出会ったのは十年前、十四歳の時だった。王都にて四年に一度開かれる武闘大会。そこで俺はフェリシアにボロ負けしたのだ……。
この武闘大会は十六歳以下の子供の部と十七歳以上の大人の部には別れていて、貴族・平民、性別も関係なく実力がある者ならば誰でも参加できるのが特徴だ。ある者は優勝者へ贈られる賞金目当てに、またある者は由緒あるこの大会優勝という名声を目当てに参加していた。
俺の家――アッシュブレイドの当主になる者は昔から武闘には秀でている者が多く、父も祖父もその前の当主も参加した回では必ず優勝を飾っていた。
……だから当然のように俺も勝てる、否、勝たなければと思っていたんだ。
けれど決勝で負けた。沢山の人間が見ている前で、完膚なきまでに打ち負かされて……。初めてだった。女、それも同年どころか年下に負けたのなんて――。
けれど俺の場合は負けてそのまま、なんてことにはならない。俺の家系は昔から辺境伯として今まで何度もこの大会で優勝を収めてきたのだ。当然、親父にもこっぴどく叱りつけられた。
大会後。王都の別邸についた瞬間、人払いを命じ、親父は俺を睨みつける。
こんな大会程度で優勝できないなど愚鈍の極み、一族の名折れ、恥だのなんだのと一方的に罵られた。
母は言い過ぎでは?と親父を諌めようとしてくれていたが、そんなもの効果はなく、親父が満足するまでそれは終わらなかった。
怒られている時は涙を流したらこれ以上に怒られることは分かりきっていたので、泣きはしなかったが心の中は泣きたいほどに荒れていた。
本当は俺は戦うことなんて嫌いだ。戦うことは怖い……人を傷つける行為だから。でもこの家に生まれたからには武術とは離れることなんてできない。俺は昔からそれが辛くて仕方がなかった。ただでさえ嫌いな事なのに、それで失敗して親父にも怒られて……。
そうしてそのままいたたまれなくなり、家から飛び出し王都の街を駆けた。街には未だに大会の熱気が残り、所々から大会の誰と誰の試合がーーという話題が漏れ聞こえる。
大会という言葉を聞くだけで、俺の心は張り裂けそうに傷んだ。その度に泣きそうになりながらも走る。
そうして走っている内にフェリシアを見つけたんだ。
フェリシアは一人で王都の中心である噴水の前のベンチでボケっと座っていた。
「……お前」
立ち止まってそうポツリと呟いただけで、噴水に向けられていた視線がこちらを向く。
「……君は、さっきの準優勝の子?」
「準優勝ってわざわざ言うなっ!!」
「事実」
「っ~~~!!」
少し話しただけで確信する。こいつ、嫌いだ。
「それで、何か用?」
「ああ」
確かに最初は用などなく立ち止まったが、フェリシアの言動で用ができた。ガキだった俺はフェリシアに怒りをぶつけようと思い立ったのだ。
「俺はお前が嫌いだ。大っ嫌いだ!」
「ふーん」
フェリシアは無表情で俺のその幼稚な否定の言葉を流した。今だから思うが、こんなクソガキの逆恨みで絡まれたフェリシアも災難だったと思う。
「なんだ!その態度はっ!?」
「だって私、君の事何も知らないし。なんか言ってほしかったの?……まさか、私に負けて優勝できなかったから怒ってる?あんなもの、はぁ……」
溜息を吐いて言われたその言葉に俺はカチンと来た。フェリシアが優勝の事を特に何とも思っていないような態度が癇に触ったのだ。そこからの俺は止まらなかった。
”何でお前みたいな女が勝つんだ”、”アッシュブレイド家の俺がお前みたいなやつに負けたなんてありえない”、”ムカつく。嫌いだ、大嫌いだ”、”お前さえいなければっ――――”。
親父に怒られた悲しみや大勢の前で負けた恥ずかしさや悔しさ、情けなさが溢れ出して、俺が半泣き状態で憤って激情をぶつけて詰る中、フェリシアはじーっと此方を見つめてただただ話を聞いていた。
そうして俺が粗方言いたいことをぶつけ終えた頃、口を開いたんだ。
「それで結局、君はなんで優勝したかったの?どうして負けて憤るの?」
「っそれは……俺の家系の人間は皆この大会で優勝していて、お前のせいで優勝出来なかった俺は親父にこっぴどく叱られたんだぞ?」
冷静な顔と声でフェリシアが聞いてくる。突然言われたその質問に、その時の俺はそれ以外の理由が思い浮かばなかった。
「一族が優勝してるから……父親に叱られたから、ね」
「なんだよ?文句でもあるのか!?理由が子供っぽいって笑うつもりか?」
「いいえ。やっぱりなって。……大会の時も思ったけど、君、”戦う”っていう行為が嫌いでしょう?」
「え……」
自分の”戦うこと ”への感情を一発で見抜かれて、一瞬呆ける。フェリシアはそんな俺の様子を気にすることなく続けた。
「さっきの大会でも君は戦うことを怖がっているように感じた。……何が怖いの?」
「……人を傷つけるのが怖いんだ。それに本当は誰とも戦いたくなんてないし、戦いの訓練すら受けたくない。……俺は、こんな家に生まれたくなかった」
先程フェリシアに対して、自分の中の汚い感情全てを吐き出したのもあって、俺はいつのまにか素直に自分の気持ちを吐露し始めていた。
「俺をこんな風に縛る家も、それに応えられない弱い自分も、全部、全部嫌いなんだ」
「うん」
フェリシアは終始俺の吐き出した気持ちに相槌を打つだけだったが、その時は笑いも嘲りも同情も慰めも何の感情も見せずに隣で聞いているだけのその存在が支えになった。